第570話 お米の時間ですが何か?
リューは夏休みもスケジュールは大体埋まっている。
仕事はランスキー達大幹部達をはじめ、若い連中も育ってきているので余裕はあるのだが、夏休み後半は学園の二年生行事であるサバイバル合宿、そして、長男タウロの結婚式もあるので、その前である夏休み中盤の今のうちに東部、南部の視察、そして、いくつかの調査もスケジュールに入れていた。
調査というのは、親善使節船団の襲撃の際に回収した魔法大砲の砲門の出どころの事で、他にはエラインダー公爵の裏の組織として暗躍していると思われるバンスカーとその資金が動くと名前が出てくるツヨーダー商会、ソーウ商会の事、さらには王都周辺地域で密かに増えているらしい『
他にはノーエランド王国でのお米輸入とお店の出店、さらにはファン島での水産物の仕入れなどもある。
やる事は多いのだ。
「それじゃあ、順番を決めて一つ一つやらないとね」
リューは傍にいるリーンにそう言うのだが、それは自分に言い聞かせているようなものであった。
「まずは、ノーエランド王国に戻ろうか」
リューはそう言うとリーンとスード、そしてランドマークビルの表に集結させていた部下三十名を『次元回廊』でノーエランド王国に送り込む。
ノーエランド王国での『次元回廊』の出入り口は、一つの大きな空き家の中に作ってあった。
これは前回、酒米を職人に探させた時に拠点となる土地を一つ購入させていたのである。
今回連れてきた部下はノーエランド王国に拠点を作る為の要員であり、出店予定である『おにぎり屋』の計画進行の為の準備、その材料の調達など、もろもろの仕事を担当してもらう。
「みんな、くれぐれもトラブルは避けるように。もし、トラブルが避けられそうにない場合は各自の判断に任せるけど、僕への報告は忘れないでね」
「「「へい!」」」
「それじゃあ、この空き家を一旦壊して丈夫な枠を作るね」
リューはそう言うと、リーンと二人、土魔法を使用して、古くなっていたこの空き家をあっという間に大きな岩同士で挟み込んで潰す。
そして、それはマジック収納で回収してしまう。
「「「おお!」」」
「さすが、若と姐さん!」
「あんな大きな家があっという間に無くなっちまった!」
あっという間の事に部下達も感心する。
次の瞬間にはまたもリーンと二人で土魔法を唱えると城壁を作る要領で、地面から岩の塊がせり上がり、三階建てのビルを建ててしまった。
「……これで、枠はできたね。あとはみんな、窓や扉、内装などはよろしく」
リューはそう言うと、マジック収納から資材を庭に出して部下達に任せる。
「「「任せてください!」」」
部下達が声を揃えて応じるとそれにリューも頼もし気に頷く。
「それじゃあ、僕達は少し休憩を入れてっと……」
リューはそう言うと、リーンに魔力回復ポーションを渡して一緒に飲み干す。
「ふーっ。──リーン、スード君、僕達はスライ・ヒカリコシさんのところに行こうか」
リューはそう言うと、数人の部下も連れてこのノーエランド王国で米穀店を営むスライの下に向かうのであった。
「お? リュー殿、時間通りだな!」
ヒカリコシ米穀店の店主スライはリューとの打ち合わせを楽しみにしていたのかお店の外でリュー達が来るの待っていて、笑顔で出迎えてくれた。
「こんにちは、スライさん。こっちはリーン。スード君は前回も会いましたね。こっちの二人は僕の部下で今後スライさんとの連絡係になるので顔を覚えておいてください」
リューは挨拶もそこそこに紹介して話を進める。
「よし、それじゃあ、中で話そうか」
スライも仕事の話以外興味が無いのか、そのリューの姿勢に合わせてお店の奥に全員を通す。
「それじゃあ、まずはこちらからいくつか報告を。『おにぎり屋』で使うお米の選別についてだが、二つに絞ったので試食してほしい。あとはそっちから頼まれていた酒米? という品種を作っているいくつかの農家との間に仕入れの為の契約が結べた。これでいいのか?」
スライはそう言うと、農家の契約書をリューに見せる。
リューはそれに目を通して頷く。
「それでは試食の準備を。──契約書も問題なさそうですね。ありがとうございます。仕入れた分は全てうちで買い取るので問題ないです。これからもよろしくお願いします」
「リュー殿、あんた本当になにもんなんだ? あっさり言うが、この酒米だけで相当な量だぞ?」
「はははっ! 僕も商会を持つ身ですので。それでは売買契約書にサインを」
リューは笑って応じると、マジック収納から契約書を取り出し、スライに提示する。
「……ふむ、問題なさそうだ。この契約だけでうちはかなりウハウハなわけだが、リュー殿もちゃんと儲かってくれよ?」
スライは家畜の餌として扱っていた商品が、リューによって数倍の価格で購入してもらえたのだから、少し良心が痛むようであった。
「はははっ! こちらの心配はいらないですよ。それより、農家にしっかり還元してあげてください」
「それはもちろんだ! うちは農家があってこそだからな。農家が利益を出さなかったらうちはすぐに店を閉じなくちゃならない」
スライはそう断言して、農家との契約書を見せる。
そこには農家との仕入れ価格を現在の三倍にするという内容であった。
「さすがです。だから、僕もスライさんと一緒に事業を行おうと思ったわけですが」
リューは笑顔で応じると、マジック収納から大金の入った革袋を机の上に置く。
「これが、契約料と仕入れ代金の全額になります」
「い、一括かい!? ──本当に羽振りがいいな、リュー殿は……。そんなにそのお米で作るお酒ってのは美味いのかい?」
スライもこの羽振りの良いリューの商会が作るお酒に興味を持つ。
「完成したら、持ってきますのでお楽しみに! ──そろそろお米が炊き上がるころでしょうかね? 試食を始めましょう」
リューはそう言うと、試食の準備ができたお米の選定に入るのであった。
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