第569話 帰国後の変化ですが何か?

 親善使節団としてノーエランド王国まで行っていたリューは帰国してから、色々な変化を知る事になった。


 まず、王位継承権問題について、動きがあったのだ。


 現在王位継承権一位はジミーダ第一王子が筆頭である事は変わりがないのだが、支持をしていた派閥の長ヤミーイ侯爵の死去で、後ろ盾を失った第二位のヤーボ王子が自分を守る者がいなくなった事で暗殺を恐れ、第三位の第四王子に第二位の座を譲ると申し出たらしい。


 だが、第四王子のオサナ王子は年齢が六歳であり、まだ未成年の為、後ろ盾となっている貴族が王位継承権争いに巻き込まれるのを危惧しているという事だった。


 それはそうだろう。


 親善使節団として送り出した王族二人ともが命を狙われたのだ。


 それについては王都でも大騒ぎであった。


 当然ながら、その海賊による襲撃が偶然であるはずがないだろう。


 それは事情通ならよくわかっていたので、普通に考えて王位継承権争いの結果だろうと睨むのが当然であり、巻き込まれるのはみんな避けたいところであった。


 オサナ王子の後ろ盾となっている貴族、キヨワーナ侯爵も王国において古参の貴族だが派閥を持たない穏健派で、オサナ王子を支援したのも乳母に選ばれた女性が一族の者だったからという理由だけだったから、争いに巻き込まれたらあっという間に負けるのがオチだろうと思える人物だった。


 だから、ヤーボ第三王子からの申し出は、災厄を招くだけのものとしか思えなかったのだろう。


 オウヘ第二王子の王位継承権を元に戻した方がよいのでは? と提案したらしい。


 ちなみに、第四位の第一王女は、もうすぐ結婚するので、王位継承権は消滅するし、第五位の第二王女も婚約中である。


 つまり、王位継承権で有力と思われる、もしくは争いの渦中にある者は、王位継承権第一位のジミーダ第一王子、現在王位継承権の順番で揉めているオサナ第四王子、まだ、浮いた話がない第六位のエリザベス王女、そして、第七位のオウヘ第二王子だけという事になる。


 その中でもオサナ第四王子は後ろ盾であるキヨワーナ侯爵が消極的であり、脱落の可能性が高いから、実質、女性のエリザベス王女を除くと、結局のところジミーダ第一王子とオウヘ第二王子の対決という事になりそうであった。


 次にこれはリューにとっての変化であったが、賑わいに溢れているマイスタの街が現在手狭になったので現在の防壁を第一坊壁として、その外に、第二防壁を築く許可が王家から以前に下りていた。


 そこで大幹部ランスキーの指示の下、防壁の予定地を計測していたものが終了し、リューの留守の間に工事を開始していたのである。


 帰国の翌日にリューがマイスタの街を訪れると、マイスタの新たな玄関になる城門はすでに完成していた。


「早いね! 留守のわずか十日弱でここまでやったの?」


 リューは新たな城門を見上げてランスキーの仕事の速さに感心した。


「若を驚かせようと思って、実は材料はあらかじめ用意しておいたんですよ。それをあとは組み立てるだけでしたから、城門作りは数日で終わりました。わははっ!」


 ランスキーはボスであるリューの驚く顔が見たくてミナトミュラー商会の『建築部門』の職人達と計画していたようだ。


 そこには商会の副会長である現場責任者のノストラも一枚嚙んでいて、材料の準備を下請けに依頼しておいて、リューが出発した当日に予算を通していたようであった。


「そこまで無理しなくてもいいのに」


 リューはそう言うと部下達のサプライズに苦笑した。


「ふふふっ。でも、良かったじゃない。嬉しい驚きだもの」


 リーンがリューの背中を軽く叩いて隣に立つ。


「まあね。みんなの狙いは成功だよ。はははっ! それじゃあ、防壁の方も引き続きよろしくね」


 リューがランスキーにお願いする。


「へい! 御覧の通り、防壁も各城門の両端から作り始めていますよ!」


 ランスキーの言う通り、城門の両端はすでに立派な防壁が築かれつつある。


「じゃあ、僕達も昔取った杵柄で、ちょっと協力しようか」


 リューはリーンにそう言うと、防壁の建築現場に向かう。


 そして、現場の職人達を一時下がらせる。


「では──」


 リューとリーンが目を合わせて頷き、地面に手を置くと魔力を込めた。


 すると防壁が地面からせり上がってくる。


 それは幅一メートル、二メートルの騒ぎではなく、五メートル、十メートルと次々に予定地に波のように出来ていく。


 それが、五十メートルほどいったところで、リューとリーンが手を止めた。


「今日はこんなところでいいかな?」


「そうね。久し振りだったけど、体は覚えているものね。ふふふっ」


 リューとリーンはそう言うと疲れた表情を見せる事なく告げた。


「……こいつは驚いた。細かい壁面のデザインから鉄格子の入った断面までしっかり出来ているじゃないですか!」


 ランスキーはリューとリーンが即興で作った防壁に手を置いて眺めながら絶賛する。


「そりゃあ、僕達、ランドマーク本領の防壁を作った当人だからね!」


 リューはリーンと一緒に胸を張ってそう応じる。


「わははっ! そうでした! 若と姐さんは実績がありましたね」


 ランスキーはこの誇れる上司の才能を改めて絶賛するのであった。



 そして、最後の変化、というか決定した事であるが、長男タウロの結婚の日取りが決まっていた。


 ランドマーク本領に顔を出したら、夏休みの終わりに式を挙げる事に決めたと長男タウロ本人から報告があったのである。


「なんで夏休みの終わりにしたの? 春とか秋とかもっと長閑な季節でも良かったんじゃない?」


 リューは南東部の暑い時期に結婚式を決めた理由を聞いた。


「春は行事が色々あるじゃない? それに秋は収穫で忙しい時期だしね。夏休みの終わりだったら学生のジーロやリュー、リーン達も参加できるし、何より刈り入れ前で忙しくない時期だから丁度いいでしょ?」


 長男タウロは自分達の結婚式なのに、記念日や縁起がいい日などではなく、みんなの都合に合わせて日取りを決めたのだ。


 その辺りがやはりタウロらしい。


 お相手であるエリス嬢もその事に賛成してくれたらしいから、なんともよくできたお嫁さんである。


「それじゃあ、僕も張り切って披露宴用に何か喜ばれるようなものを準備しないとなぁ」


 リューは大好きな家族の結婚式の為に気合を入れるのであった。

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