第564話 贈呈式ですが何か?

 休養日を挟んでノーエランド王国王家から、クレストリア王家とミナトミュラー、シーパラダイン両家に対してエマ王女救出の感謝を込めて贈呈式が玉座の間で行われた。


 クレストリア王家を代表してリズことエリザベス王女が、ノーエランド王から直接、寄贈の目録を受け取る。


 その時に、お互いいくつかの言葉を交わして、握手を交わす。


 次にシーパラダイン男爵の名が呼ばれ、次男ジーロが国王の前に進み出た。


「シーパラダイン男爵。貴殿の素晴らしい活躍で、我が娘は命を救われた。あらためて感謝する。そこで、こちらからお礼の品を用意してはいるが何か望むものはあるかね?」


 ノーエランド王は、最大限の感謝の意を込めて、ジーロに対して希望を聞いた。


「……特に僕は……。──いえ、ひとつだけ、お願いがあります」


「お? 何かな?」


「実は先日、貴国のソフィア・レッドレーン男爵令嬢と結婚を前提に交際を申し込み、承諾を得る事ができました。つきましては国王陛下直々に祝福の言葉を頂けたら幸いです」


 大胆にもジーロは他国の令嬢の交際を公式の場で宣言してみせた。


 それも相手は他国の国王である。


 これはとても大胆と言ってよい行動であった。


「おお? そうなのか? それはめでたいではないか! レッドレーン男爵には挨拶を済ませたのかな? ──そうか、今朝したのか! ならば問題はないな。シーパラダイン男爵、エマ王女の友人にして忠臣であるレッドレーン男爵家の娘であるソフィア嬢との交際を祝福しよう。皆も聞いたな? 二人の交際に異議を申し立てるものはおるまい?」


 国王はジーロの思わぬ言葉に一瞬驚いたが、何か察したのか手放しで祝福すると列席する貴族達に確認する。


 これには当然ながら、他の妙齢でレッドレーン男爵令嬢に興味を持っていた貴族達も何か申し立てるわけにもいかなくなった。


 特に、ゴスリーマ子爵などは、歯噛みして悔しい思いに耐えるしかない。


 ここで異議を申し立てれば、国王からの印象が悪くなるだけだからだ。


 そう、次男ジーロは、それを見越しての大胆なお願いだったのである。


 前日の初デートで邪魔をしようとした者がいたのはわかっていたし、それをリューが阻止してくれたのもわかっている。


 それだけに、国を越えた縁談の難しさを思って、保険を掛けたのだ。


「異議を申し立てる者はいないようだ。──おめでとう、シーパラダイン男爵。ソフィア嬢と幸せになってくれるのだぞ」


 国王は満面の笑みで祝福する。


 エマ王女も自分の事のように、黄色い声を上げて拍手を送った。


 そして、リューやリーンもジーロの大胆な行動に目を大きくして目を見合わせる。


 そして、


「「やるー!」」


 と感心するのであった。


 しばらく両国の架け橋になりそうな縁談が会場で祝福の言葉でいっぱいになっていた。


 拍手も起きていたし、何より、公式の場で国王に祝福の言葉を求める肝の据わった行動に、この場にいる貴族や武官達も好感を持つ。


「エマ王女殿下は救われるべき相手に救われたという事でしょうな」


「なんと大胆な少年だ。レッドレーン男爵も他国に令嬢を嫁がせる事になっても、彼なら安心だろう」


「うちの息子もレッドレーン男爵令嬢に好意を持っていたようだが、この大胆さには勝てんな。わははっ!」


 とジーロとソフィア嬢を祝福するのであった。


 ジーロはエマ王女救出の立役者であり、パーティーでも口々に高く評価されていたが、この一件でさらにその名声を高めるのであった。


 そして、次にリューの贈呈式に移る。


 こちらもジーロ同様に金品を贈られる事になったのだが、同じように国王が、何か希望があるかと聞く。


「恐れながら、僕は自分の商会を持っていますので、貴国での商売の許可を頂けると幸いです」


「ほう。商売の許可とな? 何を商うつもりかな?」


 国王はしっかりしたジーロに続き、その弟であるリューもしっかりした言葉で許可を求めてきたので強い関心を持った。


 先程までは臣下の娘の婚約話で笑みがこぼれていたが、今度は一国の王としての興味である。


「ノーエランド王国の作物の輸入と、この国でその作物を利用した商売をしたいと思っています」


「作物? 我が国で有名なものと言ったら海産物や食用の家畜、サンゴ細工などが有名だが、作物と言うと自慢の家畜にやる餌が豊富な事くらいだが……。他に何かあったか大臣?」


「果物などで、クレストリア王国に無いものが一部あるかと思います」


「ふむ、その辺りか。──それで、ミナトミュラー男爵、その作物とは?」


 国王は想像がつかないとばかりに、リューに再度聞く。


「その豊富な種類があるお米です」


「何? 家畜の餌のか? クレストリア王国の家畜が餌に困っているとも思えないが……?」


 国王はいよいよ疑問符を頭に浮かべて、首を傾げる。


 それは大臣や列席してる貴族達も一緒で、家畜の餌の輸入は一部行っているが、さほど儲けが出るものでもない。


 家畜に与え、良い食用のお肉になってもらうくらいだからだ。


 だから、商売として成立するのかと誰もが疑問に思うのであった。


「それを食用として扱いたいと思っています」


 リューのこの言葉には流石に場がざわついた。


「……食用? あれは家畜の餌なのだがな……。失礼だが、クレストリア王国では米は食用なのか?」


「いえ、わが国でもほとんどは家畜の餌です」


「それを食用として商売にしようと?」


 国王はこの少年は大丈夫なのかと少し心配になってきた。


「実はすでに買い付けを済ませ、この国の商業ギルドにも申請して許可を得ているのです。ですから陛下にはその保証をお願いできますか?」


「それは一向に構わぬが……、本当に家畜の餌を食べるのか?」


 国王もリューの目が真剣なのがわかって、再確認する。


 国王もその雰囲気から少し興味を持ったようだ。


「はい、……今ここでマジック収納の使用を許してもらえるなら、すでに調理したものがあります。ご試食なさってみますか?」


「家畜の餌を陛下に!? それは陛下に対し、不敬だ──」


 一部の貴族が慌ててリューの申し出を注意しようとした。


「まあ、待て! ミナトミュラー男爵の申し出が本当で、食用としての活路があるのなら我が国にとってそれは大きな好機だ。──マジック収納の使用を許可する」


 リューは感謝して頭を下げると、マジック収納から簡易的な机を出し、大皿、小皿、その上に調理した出来立てホカホカの塩おむすびを沢山だしてみせた。


 これには農林水産大臣が、前に出て興味を示し、


「陛下、まずは私が試食しましょう」


 と申し出た。


「許可する」


 陛下の言葉に大臣はリューのもとに行くと、小皿に乗せた白い湯気を立てた塩おむすびを確認する。


「これが、あの粒が硬い半透明の米なのか? ──それでは早速……」


 大臣は恐れることなく、一口かぶりついた。


 その大臣が目を大きく見開く。


 だが、何もいう事なく、二口、三口と頬張り、全てを完食した。


「……陛下。我が国の食料事情が一転するかもしれませんぞ!」


 大臣は目を輝かせて振り返ると、リューから新たな塩おにぎりを乗せた小皿を受け取って国王に差し出す。


「大臣、さすがにそれは大袈裟だぞ……? どれどれ……、──こ、これは!?」


 国王は大臣から受け取った塩おむすびを一口食べると、口に広がる米のほのかな甘い風味とそれを引き立てる塩の味に驚くのであった。

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