第559話 新事業になりそうですが何か?
「こいつは、驚いたよ……。これまで、煮たり、焼いたりしてみたが、うまくいかなくてな。こんな調理の仕方があるのか……」
ヒカリコシの店主は、リューのやり方に感心した。
「ええ。この調理法は商業ギルドに特許は以前からとっていたんですが、良いお米との出会いが少なくてあまり使用できずにいたので、ようやく日の目を見る事になりそうで嬉しい限りですよ」
リューは満足のゆくうるち米を見つけられ、それが調理出来て嬉しそうだ。
「それに、ここまで拘りをみせていろんなうるち米のみをこんな数扱っているお店に出会えて幸運でした。実に素晴らしいです」
リューは店主を称賛する事を惜しまなかった。
本当にそう思っているからだ。
そして続ける。
「──そこでご相談なんですが……、うちと契約してもらえませんか?」
「? ああ、お米ならいくらでも売るぞ? それが商売だしな。それに今日は自慢の米を美味しく調理してもらった礼もある。どれくらい量は欲しいんだ?」
「もちろん、購入はさせてもらいますが、それとは別にこのお米を調理した商品を販売する気はありませんか? 店主さんは元々、お米を食用にできないかと研究していた様子。つまり、商品化するつもりでいたと思うのですが?」
リューはヒカリコシの店主は米穀店以外も始める気だったと睨んだのだ。
「……それはそうだが……。俺はそっち方面のノウハウがないからなぁ。最終的にそういう事も出来ればと思ってはいたが……」
店主はリューが何を言いたいのか、なんとなくわかったが、いきなりの展開に少し警戒した。
「それならば、僕が温めていた案があるので、それを基に一緒にやりませんか? 僕がお金とノウハウ、経営をやって、こちらは、農家との交渉をお願いしたいところです」
「案? それはどんな……?」
「先ほども作ってみせたおにぎりを主戦力にした『おにぎり屋』です」
「『オニギリヤ』……? あ、さっきの塩おにぎりの事か? もちろん、美味しかったが、あれだと単純すぎないか?」
リューの提案を聞くと、店主は慎重に答えた。
「ふふふっ! おにぎりの可能性は無限ですよ? それこそいろんな具材を中に入れるだけでいくらでも新商品が生まれるくらいに!」
「中に具材を!? ……確かにそれならいくらでも思いつくな……」
店主はリューの発想に感心すると、当人も夢が広がる。
「僕が『おにぎり屋』の具体的な案を、店主さんは美味しいお米を提供する。──これでどうですか?」
「……わかった。──それなら具体的な話をしようか? あ、自己紹介がまだだったな。俺の名前は、スライ。スライ・ヒカリコシだ、よろしく!」
ヒカリコシの店主スライは自己紹介すると、リューも自己紹介してがっちり握手を交わすのであった。
こうして、リューとスライはノーエランド王国で、『おにぎり屋』の事業展開をする事になるのだが、リューはもちろん、自国クレストリア王国でもお米を扱う商売をする気でいた。
その為にも店主スライにはこのノーエランド王国で、大いに成功してもらい、米農家との間に今以上に太いパイプ作りをしてもらいたい。
そうする事で、リューはいろんな商品を作る事ができるし、『ニホン酒』造りに適した良い『酒米』を得るルートも作る事が出来る。
職人達が現在、王都内を探して良い『酒米』を探してもらっているから、見つかったら、スライにはその入手ルートを確立してもらえれば、全てお米関係はスライに一本化できて効率がいいというものだ。
それにお互いwinwinの関係になるのが、一番、手っ取り早い。
リューはノーエランド王国に良い関係者が出来て喜ぶのであった。
「じゃあ、あとはよろしくお願いします」
リューは契約を済ませてスライと改めて握手を交わすと、護衛役のスードと共にお店を後にした。
「あ、若。こちらにいたんですか!」
リューが王都に連れてきた職人二人と遭遇した。
「あ、ここのお店とは契約を交わしたから、大丈夫だよ。──それで、『ニホン酒』の新たな材料になりそうな『酒米』はあった?」
「ええ! この国はクレストリア王国よりも良い米がいっぱいありますよ。さっき仲間と一度集まり直して、入手した酒米の確認をしましたが、すでに従来品より良さそうなのをいくつか見つけてあります。持ち帰って試してみる必要はありますが、多分、これまで以上に良いお酒が造れると思いますよ!」
職人達は嬉しそうにリューに答えた。
「それなら良かった。僕の方もこのお店と契約を結べた事で、地元の米農家と人脈が作れそうだから、これからは新たな事業にも取り組めそうだよ」
リューも職人達と一緒に喜びを分かち合う。
「おお、そいつは良かったです!」
職人達もボスであるリューが楽しそうなのが嬉しいのか厳つい顔に満面の笑みを浮かべている。
「あ、それとさっき、街中の飲食店のテラスで若の兄上、ジーロの伯父貴殿がおられましたぜ? デートのようだったので声を掛けませんでしたが、妙な連中がそれを監視していたのでちょっと気になったんですよ」
職人達はお互い確認するように視線を交わして答えた。
「妙な連中?」
リューが真面目な顔に戻り、聞き返す。
「へい。街中の人込みだったんで、最初は気のせいだと思ってたんですが、その連中が『あの男、シーパラダイン男爵と言うらしい』と口にしたんで気のせいじゃないなと」
「……わかった。知らせてくれてありがとう。それでその場所はどの辺かな? ……へぇー……、結構近くだね。──スード君。念の為、二人のデートの邪魔をしない程度に見に行ってみようか」
リューはそう言うと、スードと二人、職人達が目撃した辺りに急ぐのであった。
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