第558話 休養日ですが何か?
面会やパーティー、ノーエランド王家との話し合いなど忙しい日々を送っていた王女リズとその一行であったが、この日は朝から休養日に充ててあった。
「リズとリーンは今日一日どうするの?」
リューは背伸びをして自由を体で表現すると、二人に予定を聞く。
「エマ王女殿下と一緒に郊外の観光名所を視察する事になっています」
王女リズは友人関係になっているエマ王女とゆっくり過ごすようだ。
リーンも護衛役として同行するので予定は一緒である。
「リューはどうするの?」
リーンが同行しないリューの予定を気にした。
「僕? 僕はこの国で作られているお米の見極めをするつもりだよ」
リューはニヤリと笑みを浮かべると応じた。
そして続ける。
「僕よりもジーロお兄ちゃんの予定が重要なんだけどね」
リューはこの場にいない、次男ジーロの事を口にした。
「あっ……! ソフィア・レッドレーン男爵令嬢とのデート、ですね?」
王女リズは連日の忙しさですっかり忘れていた二人の関係を思い出し、何かを期待するように当ててみせた。
「あー、もう! それを先に言ってよ! ──今から二人のデートの監視に予定を変更できないかしら?」
リーンがとんでもない事を言い出した。
やめてあげて!
リューは思わず内心でツッコミを入れる。
リズも興味津々とばかりにリーンの言葉に頷きかけていたからだ。
それにエマ王女殿下もソフィア嬢とは地位を越えた友人であるから、二人の行く末は気になるところだろう。
下手をしたらリーンのとんでもない提案を検討するかもしれない。
「二人とも、今日はエマ王女殿下と観光を楽しんできて。──二人の事は若い者同士、なるようになるじゃろう。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」
リューはイメージする老人の真似をしてそう答える。
「……冗談よ! ──そうね……、二人の好きなようにしかならないものね。──そういう事だから、リズも他人のデートを覗こうとしたらいけないわよ?」
リーンは自分の事は差し置いてリズを茶化した。
「ちょっと、リーン! 私だけ悪者にしないでよ」
王女リズは少し頬を赤らめてリーンに冗談で怒る仕草をとった。
「ホント、二人とも仲いいね。はははっ! お母さんとハンナはもう観光に出かけたみたいだから僕もスードと出かけてくるよ」
リューとスードは王女リズのかわいい様子が見られたと眼福とばかりに笑って外に出かけるのであった。
ノーエランド王都の城下街に繰り出したリューと護衛役のスードは馬車から降りると、人気のない裏通りに入っていく。
「じゃあ、スード君、周囲を警戒しておいて」
リューはそう告げると『次元回廊』を使ってどこかに向かう。
五分くらいすると、リューはマイスタの街の職人達を三十人ほど連れて戻ってきた。
「ここがノーエランド王国ですか、若?」
「おお、さすが、若! 外国まで一瞬だ!」
「やっぱり、すげぇや!」
職人達はよその国に来るのは初めてだったから、連れて来てくれたリューに感心しつつ感動する。
「うん。じゃあ、みんなは『ニホン酒』に向いている『酒米』を探してきて。僕は食用のものを探してくるから。集合場所は夕方にここへ。何か問題が起きた時には、緊急信号弾を上げてね」
「「「へい!」」」
職人達はリューの言葉に頷くと、王都に散っていく。
「主、これは一体?」
スードは詳しい事を聞いていなかったのか、状況を理解できずリューに聞いた。
「あっ、ごめん、ごめん。今日が休みだから昨日の夜のうちに、ミナトミュラー商会酒造部門の職人さん達と相談してこのノーエランド王国で良いお米を見つけようって事になったんだ。それで、手分けして探してもらう事にしたんだ」
「そうだったんですね。でも、いいんですかね? 密入国になってますが?」
「そんな真面目な事言ってたら、若いうちから禿げちゃうよ?」
リューは笑って答える。
スードは思わず頭に手をやると、
「気をつけます……」
と真面目に答えるのであった。
それからリューは城下にある家畜餌を取り扱う米穀店に赴いた。
品種改良まで行って家畜用に作っているだけあって、うるち米だけでもかなりの種類が用意されていた。
リューは、片っ端から買い集めると次々にマジック収納に納めていく。
「そんなに買い込んでどうするんだいボウズ? 家畜の種類を教えてくれれば、それに向いたお勧めの品種を教えたのになぁ」
店主はリューの大人買いに呆れつつ大口のお客になってくれそうだと思って満面の笑みである。
「ここにない種類を扱うお店はありますか?」
「うちにないお米を扱う店? そうだな……。そうなると、北門近くにあるヒカリコシってお店かな。あそこはうるち米のみに拘って新種から古い種類のものまでかなり数を揃えているところだぜ」
店主はライバル店ではないと思われるお店を勧めてくれた。
リューはお礼を言うと、すぐにそのヒカリコシというお店に向かうのであった。
リューとスードは、北門近くにあるヒカリコシというお店にやって来ていた。
そこは文字通りリューには宝の山で、目を輝かせ、嬉々として店内のお米を次々に購入していく。
「これは、当たりだよ、スード君!」
リューはヒカリコシ米穀店の店主の趣味の良さを絶賛しながら、
「これと、これもください!」
と指さして買い上げていく。
「あんた、気持ちいいくらい沢山買ってくれるな! どんな家畜を飼っているんだ?色々試したいと見える」
店主は趣味で集めた沢山の種類のお米を喜んで買ってくれるリューを誉め、興味を持った。
「いえ、僕は食用で考えているので!」
リューは当然とばかりに応じた。
「食用!? ……あんた本気か? いや、本気みたいだな……。まさか俺以外にそれを考えている奴がいるとは……」
どうやら店主もリューと同じように家畜の餌以外で食用にならないかと考えていたようだ。
「でも、どうやって食べる気だ?」
ヒカリコシの店主はまだ具体的に食用として調理を試したことがないのか、リューに疑問を投げかけた。
「炊くんです」
「タク?」
店主が炊くの意味が分からずに首を傾げる。
それもそうだ。
お米を炊くという言葉は、この世界にはない。
燃料を燃やすという意味で、
そして、この世界で基本の調理方法と言えば、煮る、焼く、茹でるであったから、店主が理解できないのも当然であった。
リューは論より証拠という事で、店主に調理場を借りて、お米を炊く事にした。
まずは、マジック収納を使い玄米から胚芽を取り除きそれを精米して水で研ぎ、土鍋の中にお米を平らにして三十分浸水させる。
それからようやく蓋をして中火にかけ、沸騰したら火加減を弱火に落とす。
十五分ほどしてから水分が残っていないのを確認後、蒸らしたら出来上がりである。
「やけに手間がかかるやり方だな? これが、炊くってことなのか?」
リューは店主が不思議がるのを笑みで応じると、蓋を開けて、洗った手に塩を付けてお米を持参のしゃもじで一握り取って三角に握り、店主の前に置いた皿の上に置く。
「? これで終わりなのか?」
「ええ。塩おむすびです。これが一番、お米の美味しさがわかる食べ方です。味わってみてください」
「……それじゃあ──」
パクリ
「……こ、これは……。──とても美味い!!!」
店主はその美味しさに感動して目を大きく見開くと、リューを凝視するのであった。
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