第557話 王家への報告ですが何か?

 ヤーボ第三王子無事生存と護衛近衛騎士の大半とヤミーイ侯爵の死は、リューによって王宮へと知らされる事になった。


 そして、ヤーボ王子と生き残った近衛騎士五名、使用人三人もリューによって無事王都に送り届けた。


 リューは王女リズの親善使節団の一員だから、朝から彼らを送り届けるとすぐにノーエランド王国へと戻る。


 リューには説明責任もないし、現状を知っているのはヤーボ王子とその関係者だけだからだ。


 リューはヤーボ王子が無事である事は王女リズにも当然知らせた。


「……そうですか、……無事で良かったです。──ですが、ヤーボお兄様にとってヤミーイ侯爵の死は大きいですね……」


 王女リズは一緒にリューの報告を聞いていたコモーリン侯爵に漏らした。


「ええ。ヤミーイ侯爵はヤーボ王子殿下を幼少の頃から推していた派閥の長。ヤーボ王子がその後援を失ったという事は、王位継承争いから事実上脱落した事になります。こうなると、ジミーダ第一王子殿下、王位継承権三位の第四王子殿下が有力になりましたね」


 コモーリン侯爵は王女リズの言葉に、整理するように話した。


 リューは王家の継承者争いに首を突っ込むつもりはないから、あまり興味はないが、だからと言って知らなくていい事でもない。


 巻き込まれないにしても、情報はあるに越したことはないからだ。


 コモーリン侯爵はリューにわかるようにさらに話す。


「クレストリア王家にとって、男子の王位継承権は非常に重要な意味がある。その下にエリザベス王女殿下をはじめ、各王女殿下も名前を連ねますが、それは形式的なものに過ぎず、実質、男子であるジミーダ第一王子殿下と第四王子殿下の二人に絞られたと言っていいかもしれない状況です」


「オウヘ第二王子殿下は?」


 リューは過去に関わりがあった嫌な王子の名前を口にした。


「……オウヘ王子殿下は女性王位継承者よりも下にされているので、後援にエラインダー公爵派閥が付いていても、難しいでしょうな」


 コモーリン侯爵はリューの疑問にも可能性の低さを語った。


「もし、ジミーダ第一王子殿下、第四王子殿下にも何か起きたらどうですか?」


 リューが物騒な事を口にした。


「ミナトミュラー男爵、それは不敬な質問だぞ」


 これにはコモーリン侯爵も眉を顰め、リューを注意した。


「……すみません」


「その場合は、陛下の判断にもよりますが、王位継承権が一番最後になっているとはいえ、男子で後援もいるオウヘお兄様が浮上する可能性はあります」


 王女リズがリューの心配に気づいて答えた。


「王女殿下、こんな時だからこそ、そのような不謹慎な質問にはお答えすべきではありませんよ」


 コモーリン侯爵は宮廷貴族として力を持っているが、派閥を持っていないからこそ、足を引っ張られる事もなく周囲から一目置かれている存在である。


 だが、こういった話は派閥が大きくかかわる事なので王家の関係者の前であまり、話したくないのが本音であった。


「でも、今回のヤーボ王子殿下、リズの襲撃未遂事件は、継承権争いに関係する可能性があるのでしょ? 実際、第四王子殿下とオウヘ第二王子殿下には有利に働く事なのだから、リューの質問が不謹慎とは言えないわ」


 王女リズの話し相手兼護衛の一人として付いているリーンがリューを庇うように指摘した。


「……そうであってもだ。王位継承権について下々の者が憶測で話す事は、許されないし、ましてや王女殿下の御前だぞ」


 コモーリン侯爵は今度はリーンに注意する。


「いいのよ、コモーリン侯爵。二人は今回狙われた当人である私の事も考えて問題を提起してくれているの。お陰で私も頭の中が少し整理できて助かったわ。──確かに、王位継承権に関わる事で命を狙われたとして、女性である私も狙われたという事は、相手から危険視されている可能性があるという事。もしくは王位継承権絡みでノーエランド王国との親善を快く思わないからついでに私も狙われたという事かもしれない」


 王女リズの言葉にコモーリン侯爵もはっとした表情を浮かべる。


 確かにヤーボ王子殿下とエリザベス王女殿下どちらとも狙ってくる理由は限られてくる……。それは、敵対国家の謀略か王位継承権争い絡みか? いや、敵対国家なら短期間で二つの襲撃未遂は用意周到すぎる。そうなるとやはり、親善使節団派遣を事前に知っていた国内の大きな勢力くらいしか今回の襲撃は行えない事になる。大きな勢力……、王位継承権で現在不利……、そんな王子や派閥の長と言ったら……。


「エラ……」


 コモーリン侯爵は、そこまで気づいて言葉を飲み込んだ。


 エラインダー公爵が王位継承権争いにこんな形で絡んでくるという事、それは、国家を二分する争いになりかねない。


 それを想像するととてもではないが、王女殿下の前でその名前は口にできないと思ったのである。


「……コモーリン侯爵。頭の中で何を浮かべたのかは聞きませんが、憶測でその名前を口にしないように気を付けてください」


 リズ王女はコモーリン侯爵がおおよその相手が想像できたようなので口止めする。


 親善使節団は王女リズの為に組まれた一団だが、だからと言って徹底できているかはわからない。


 エラインダー公爵に通じている者がいないとは言い切れないからだ。


「全ては僕の憶測です、変な質問をしてすみませんでした!」


 リューは重い雰囲気になりそうだったので明るく告げると、笑ってその場の空気を変えようと努力するのであった。

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