第556話 生存確認ですが何か?

 リューは忙しいスケジュールの中、ノーエランド王国の王都の夕闇を確認後、『次元回廊』で一人サウシー伯爵の領都である港街を訪れていた。


 それはこちらから報告の為に戻した新造中型船『新星丸』が無事到着したかの確認であった。


 王都にはすでにヤーボ王子、エリザベス王女の両親善使節団へ正体不明の海賊からの襲撃があった事は報告してある。


 だが、ヤーボ王子の安否が確認できないが、王女リズの船団は無傷である事から、使節団についてはそのまま予定通り日程を進める事になっていた。


 そして、王家からはランドマークビルに連絡員が常駐する事になって逐一連絡が取れるようにしている事までリューは確認している。


「おお! ミナトミュラー男爵殿、貴殿から寄こされた中型船使者から報告は聞いておりますぞ。──……それでヤーボ王子の安否はまだ?」


 サウシー伯爵の城館を訪れると、サウシー伯爵が自らリューを出迎えて早速本題に入って聞き返す。


「という事は、こちらには、まだ、ヤーボ王子に同行した中型船は寄港していませんか……」


 リューはまだ、報告がない事に眉をしかめる。


「ええ……。こちらからも近海に見回りの船を出して、それらしき船がいたら、保護するようには申し渡しているのですが、そのような報告は全く……」


「そうですか……」


 リューはヤーボ王子が中型船に乗って現場から避難した可能性を考えていたから、芳しくない報告に少し落胆する。


 そこへ、


「領主様! ヤーボ王子殿下を乗船させているという船が係留許可を求めてきております!」


 という領民からの報告がやってきた。


「「!」」


 リューとサウシー伯爵、そして、護衛役のスードは目を見合わせると馬車を用意してすぐに港へと向かうのであった。



 リュー達が港に到着すると、王子のと思われる中型船が桟橋に寄せていたので、そこには人だかりができていたが、あくまでも遠巻きに様子を窺っているようだ。


 船は許可を受けて桟橋に係留し、丁度、その船からヤーボ王子が下船してくるところであった。


 ヤーボ王子はぼろぼろの姿で近衛騎士数人に囲まれて、大地に降り立つ。


「た、助かったぞ……! ──ここの街の領主を呼べ、すぐに食事を用意させよ!」


 ヤーボ王子はふくよかな体ながら、げっそりした雰囲気でフラフラだったが、まだ元気はあった。


「ヤーボ王子殿下、ご無事でございましたか!」


 サウシー伯爵は、部下へ王子を城館に出迎える準備をせよと、申し付けてから声をかける。


「そなたは確かサウシー伯爵だったな? 我は丸一日食事をしておらん。すぐに用意せよ。湯あみの準備もだ!」


 ヤーボ王子は知っている貴族が現れたのでほっとした顔をしてあらゆる準備を要求した。


「すでに準備は整っております。城館でごゆっくり旅の疲れを癒してください」


 サウシー伯爵はそう応じるとヤーボ王子を馬車に案内する。


 一緒に乗船していた近衛騎士もぼろぼろの姿であったが、こちらも無事安全圏まで護衛対象を送り届けられたからか、少しほっとした様子だ。


「近衛騎士のみなさんも」


 今度はリューが、近衛騎士達を労う為に案内する。


 サウシー伯爵とリュー、そして、ヤーボ王子は同じ馬車で城館まで移動する事になった。


「うん? 確かお主は『次元回廊』の……」


「はい、ミナトミュラー男爵です。丁度、様子を窺いに訪れていました」


「ならば、王都にもすぐ戻れるのだな! ──……そうかすぐに戻れるか……」


 ヤーボ王子はそう口にすると、目に涙を浮かべている。


「王子殿下……、ヤミーイ侯爵は?」


 リューは報告の為にも事の真相を移動中の間に聞いておく方がよいと考え質問した。


「あやつは死んだ……。敵は奇妙な魔道具を使って我の船団を攻撃してきてな。それに対してこちらも近衛騎士達が奮戦してくれていたのだが、護衛の大型船が炎上した直後にヤミーイ侯爵が、形勢不利という事で我を中型船で海賊から逃がそうとしてくれたのだ。それで我が中型船に乗船直後、海賊の大型船が我の乗っていた旗船に突撃してきてな……。その直後に爆発した……。──一瞬の事であったよ……。多くの者が死んだ……」


 ヤーボ王子は大きく落胆した様子で、素直にその時の状況を答えると、


「少し、眠る……」


 と続けて静かになった。


 ヤーボ王子はすぐに寝息を立て始める。


「……きっと逃げている間、寝つけなかったのでしょう。目にクマが出来ていますから」


 リューは同乗しているサウシー伯爵にそう答えると、サウシー伯爵も無言で頷く。


 今は休ませておこう。


 というのが、リューとサウシー伯爵の一致した意見であった。


 ヤーボ王子はふっくら体型なので城館に到着後、馬車内から寝室に運ぶのが大変だった。


 リューが上半身を持ち、スードが下半身を持って運ぶ事で解決したほどだ。


「大型船を突撃させて自爆……か。王族を殺す気満々だったって事だね……。リズの旗船に対しても同じ事をする気だったのかもしれない。近づけずに撃滅したヘンリー船長の采配に感謝だね」


 リューはヘンリーから魔法大砲を最大限利用した戦法で接近させる事なく沈めたという報告は聞いていたから、もし、白兵戦に持ち込もうとしたら、自爆されていた可能性は高い。


 それを考えると敵の狙いは、はっきりしている。


 王位継承権上位、もしくは邪魔と思われる王族の暗殺だ。


 それも、背後にいる相手は使い捨てに大型船だけでも合計六隻を用意できる大資産家である。


 今のところ架空の雇い主ソーウ商会の名前が出ているが、背後にいる者は限られてくる。


 国内でそんな資産家は貴族、それも派閥の長クラスの上級貴族以外ほとんどありえない。


 そして、王位継承権に絡む者となれば、やはり一番にエラインダー公爵の名前が挙がるところだろう。


 しかし、そこまで辿り着く証拠がない。


 その間に大きな影が邪魔しているからだ。


 それはエラインダー公爵の闇の部分で活動していると思われるやけど跡の男、バンスカーである。


 バンスカーの存在さえ白日の下に晒す事ができれば、エラインダー公爵の暗躍も止める事ができるかもしれないのに、かなり慎重な人物だなぁ……。


 敵の尻尾を闇の中に見つけているのに、それを掴めないもどかしさで、リューは歯噛みするのであった。

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