第560話 邪魔はさせませんが何か?

 リューと護衛役のスードはお米の購入と今後の事業展開の為の契約を交わした後、次男ジーロとソフィア・レッドレーン男爵令嬢のデート現場に急行していた。


 二人のデートを尾行する怪しい人影を見たと部下の職人達からの報告を受けたからである。


「聞いた話通りならこの通りのカフェらしいのだけど……」


 普段ならリーンが代わりに探してくれるので楽なのだが、今はそのリーンは王女リズの護衛役として離れているからこれが意外に大変だった。


 リューとスードは大通りに連なっているお店の数々を見渡しながら探す。


「主、もしかしてあれでは?」


 スードが少し離れたカフェのオープンテラスで楽し気に話しているジーロとソフィア嬢を見つけて指さした。


「ナイス、スード君! ──二人にはまだ、何も起きていないみたいだね。となると、その二人を監視している怪しい連中がいるはず……」


 リューは二人の周辺に視線を泳がせる。


「あれかな? 向かいのカフェでお茶を飲んでいる厳つい三人組。お兄ちゃん達の方をチラチラ見ている気がする」


 リューはその場に似つかわしくないグループを見つけて指摘した。


「……主。他にも一組、富裕層の若者とその連れっぽい二人がジーロ様達を見ているようです」


「どれ? ──……ああ、あれか」


 リューはスードの指さす方向を見ると確かに少し離れたところから次男ジーロ達の方を見ている貴族風の裕福な格好をした金髪、碧眼の男性が苦々しい雰囲気で二人を見つめているのがわかった。


 連れの者は少し年齢が上と思われ、落ち着いた雰囲気である。


「それぞれ別口ですかね?」


 スードがこの二組の様子を窺ってリューに確認する。


「……どうだろう? うん? 貴族風の組の連れが厳つい三人組の方に視線を向けている……。あ、合図を送った……!」


 リューの視線の先には貴族風の連れの落ち着いた雰囲気である黒髪の男性が小さく手を挙げたのが見えた。


 すると厳つい三人組が立ち上がり、ジーロ達の方に歩いて行こうとする。


「スード君、行くよ!」


 リューはそう言うとその厳つい三人組の行く手を阻むように歩くと軽くぶつかってみせた。


 そして、


「どこ見て歩いてんだ、おっさん!」


 とチンピラのような言い掛かりを厳つい三人組にする。


「はぁ!?」


 厳つい三人組は自分達の常套手段をまさかの二人組の子供にされて、困惑気味に驚く。


 だがすぐ、


「なんじゃワレ! 俺達が泣く子も黙る『豪鬼会』の人間と知って喧嘩売ってんのか、ガキども!」


 と息巻く。


「知らねぇよ! 看板名乗れば相手がビビると思っている時点で、小さいんだよ。裏に来い!」


 リューは普段のキャラからは想像できない、悪ガキを演じて厳つい三人組『豪鬼会』の人間の腕を掴んで有無を言わさず、路地裏へと引っ張っていく。


 スードも残りの二人の腕をガッチリ掴んで離さずリューの後に付いていった。



 その光景は次男ジーロはカフェテラスからポカンと見ていたが、リューがジーロに向けて軽く手を振ったのでそれを察したのかソフィア嬢の方に向き直る。


「──だったんです、ふふふっ。……どうかなされましたか?」


 デート中のソフィアは幸せそうな笑顔で話していたが、ジーロの気が他に反れている事に気づいてソフィア嬢が声をかけた。


「いえ、通りに僕の家族と瓜二つの通行人がいたので、似ているなと思っただけです」


「ふふふっ。そういう事ありますよね。私が聞いた話では世の中に自分に似ている人が三人はいるそうですよ?」


「へー、そうなんですね? あ、でも、うちの弟が三人もいたらそれはそれで凄いなぁ。はははっ!」


 ジーロはリューが三人いるのを想像して、思わず笑ってしまった。


「似ている人ってミナトミュラー男爵だったんですね? みなさん、今日は休養日ですから本人かもしれないですよ?」


 ソフィア嬢は笑顔で応じる。


「かもしれないですね。どちらにせよ。とても思いやりのある通行人だったのはわかりました。ふふふっ」


 次男ジーロはそう言うと、楽し気に笑みをこぼす。


 どうやら、ジーロは自分達が尾行されている事には気づいていて、どうしたものかと考えていた様子だ。


 そこにリューがやって来て未然にその尾行を排除する形で動いてくれたから、そんな言葉が出たようであった。


「?」


 ソフィア嬢はジーロの言葉に不思議そうな顔をしたが、ジーロの冗談だと思って話を続けるのであった。



 リューとスードは、路地裏に厳つい三人組を引きずっていくと、目的と雇い主に付いて丁寧に質問していた。


 その前にお互い熱く語り合うムーブが少しの時間一方的にあったのだが……。


「──それで、君達の雇い主は同じ現場に居合わせたあの貴族風の二人組かな?」


 リューは、姿勢正しく正座して聞いている厳つい三人組に再度確認する。


「へ、へい……。その使用人を名乗る奴に金貨一枚払うから、カフェテラスにいたカップルに因縁をつけ、男の方をコテンパンにしたところで自分達が止めに入るから適当にやられる振りをしろ、と言われました……」


『豪鬼会』を名乗っていた三人組は、鼻血を垂らした状態で、素直に応じる。


「その雇い主の正体はわかる?」


 リューの質問に三人は答えていいものか、一瞬迷う素振りを見せた。


 どうやら、貴族風ではなく貴族という事だろう。


 それも目的を聞く限り、ソフィア嬢に好意を寄せる貴族という事なのは予想がつく。


 職人達の知らせ通りならジーロがよその国の貴族だという事はわかっていたようだし、ごろつきに絡ませるところを助ける形で、両国間の外交問題沙汰にしない程度には頭をひねっているようではある。


「……」


 三人組はさすがに貴族の名を話すわけにはいかないと思ったのか黙り込んだ。


「そもそも、ジーロお兄ちゃんに手を出すなら、この十倍は用意しないと駄目だよ?」


 厳つい三人組に説教をすると、次の質問をする事にした。


「ちなみに、『豪鬼会』ってどんな組織?」


 リューは思わず、異国の同業者に興味を持つのであった。

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