第554話 見せつけますが何か?
パーティーに招待されたはずなのに、なぜかノーエランド王国海軍の腕自慢達と戦う事になったリュー。
対戦相手である第一船団団長ケーンは正統派の剣術使いだった。
試合開始の合図と共に的確に鋭く隙を突く動きで、リューに反撃の余地を与えない立ち回りである。
「これは団長、本気だ!」
「いけー、団長!」
「ノーエランド王国海軍の強さを見せてください!」
と列席している軍関係者がケーン団長に声援を送る。
「正統派だけに隙がほとんどない! でも──」
リューは次から次に繰り出されるケーン団長の剣技に防戦一方であったが、リューも父ファーザからは正統派剣術を学んでいたから対応は難しくなかった。
そして、リューの本領は祖父カミーザから学んだ変則的な実戦重視の我流剣術である。
リューは攻撃を受け流す為に相手のテンポに合わせていたが、そのテンポから逸脱した動きで時折変則的な反撃を行って見せた。
これには対戦相手のケーン団長も、慌てて対応する。
リューは対応してくる事に感心しながらも、徐々に変則性を強めていく。
そして、いつの間にか攻防が逆になり、リューが一方的に攻撃を仕掛ける立場に変わっていた。
これには、観戦している武官達もポカンとしていたが、
「い、いつの間に!?」
「ケーン団長が防戦一方だと!?」
「少年の変則的なペースに変わってしまったぞ!」
と驚いてざわつき始めた。
リューはそろそろ勝負をつけようとするが、相手もノーエランド王国を代表するであろう剣術使いである。
さらにそこから、リューの攻撃を紙一重どころか体を掠めるくらいギリギリの対応をしながら反撃を試み始めた。
「肉を切らせて骨を断つ戦法に変更か……。──やりますね!」
ケーン団長が自分より剣の腕が上と即断して、差し違える覚悟の戦法へと切り替えてきた事にリューは感心した。
だが、そういう類の戦法は祖父カミーザから叩き込まれているリューである。
ケーン団長がリューに自分の左肩を打ち据えさせるタイミングでカウンターを取ろうと踏み込む瞬間、リューもさらに一歩、ケーン団長の懐に踏み込む事で、その反撃の目を奪い、さらにはそのタイミングで肘をケーン団長の
リューの攻防一体の踏み込みに、ケーン団長は白目を剥いてその場に崩れ落ちる。
リューはそれを抱きとめると、
「誰か介抱を」
と周囲に呼び掛けた。
最初、何が起きたかわからない者も多かったが、ケーン団長が意識を失っている現実に周囲は静まり返る。
そして、近くの数人がケーン団長の介抱の為に走り寄ってきた。
「……これは驚いたな。客人の勝利だ」
海軍の総帥であるガーシップ公爵は自慢の部下が敗れた事に素直な感想を漏らす。
ケーン団長を周囲の武官に任せるとリューは、
「では次の方どうぞ」
と淡々と進めた。
これには、武官達もざわつく。
なにしろリューが呼吸一つ乱す事なく連戦しようとしているからだ。
海賊討伐に一番の活躍をしたというもう一人の少年、シーパラダイン男爵の手を煩わす必要もないとばかりに、この少年は立て続けで対戦に応じようとしているから、武官達も驚くほかない。
ケーン団長はノーエランド王国海軍で指折りの剣使いであり指揮官だから、その動揺は武官達にも広がりを見せた。
「ケーン団長は貴殿とは相性が悪かったようだ。──それでは参る」
次に準備していた二挺斧を手にしているツヨン遊撃船団長が、周囲の動揺をよそに前に出た。
今、目の前で実力を示したリューに怖気づく事なく、ツヨン団長は不敵な笑みを浮かべ前に出ると、開始の合図を待たずにリューに斬りかかった。
リューはお互いに視線を交わす事で合図していたので、すぐに応じる。
先程のケーン団長と違ってこのツヨン団長はリューと同じ変則的な動きをするタイプだった。
二挺の手斧を使用している事からも、変則タイプだろう事は容易に察していたが、その動きは左右の斧が別の生き物のようにリューに攻撃を仕掛けてくる。
「これは、面白いですね」
リューもその変幻自在な動きは初めてだったのか感心した。
だが、その変幻自在な二挺斧に動きにもリューは対応して、躱し、受け流した。
先程同様、最初は防戦一方だったが、徐々にリューが対応し始める。
「!?」
ツヨン団長は、先程自分が観察していた相手とは思えない動きに、動揺した。
変則的な動きとは全く別の動きだったからだ。
リューはここにきてわざと正統派剣術で対応して見せたのである。
それも、先程のケーン団長よりも洗練された力強い動きでツヨン団長に迫るから、押しに押され下がっていく。
きっと、ケーン団長と対戦したら、ツヨン団長の方が相性的にも多分わずかに強いのかもしれないが、その上をいく正統派剣術で対抗されると変則さを封じる事は容易だと言わんばかりのリューの攻撃であった。
もちろん、リューは手加減をしていない。
というより、強い相手に手加減できないのがリューである。
だから、相性で対応することにしたのだ。
そうでないと、同じ変則的な立ち回りで対抗するとこれ以上は本気を出す事になるし、そうなれば余計な怪我もさせる事になりかねない。
だから、自分の本気の一歩手前の抑えた力で相性を利用して対抗すれば、どうにか最小限の怪我で終わらせそうな状況を作ったのである。
ツヨン団長は、防戦一方になりながら、先程のリューのように反撃を試みようとしたが、リューはそれすらも許さない的確な剣さばきで追い詰め、その手にしている二挺斧を叩き落した。
「くっ!」
ツヨン団長はそのはずみで両腕を負傷して膝をつく。
「そ、それまでだ!」
今度はすぐにはっきりとわかる勝敗にガーシップ公爵が止めに入る。
「ありがとうございました」
リューはそう言うと丁寧にお辞儀をする。
それまで、沈黙を守っていた武官達はそこでやっと、
「うわぁ!」
と声を上げた。
もちろんそれは歓声である。
リューの圧倒的な変幻自在の剣術に素直に感心し、驚き、魅せられ、最大の賞賛を武官達はこの少年男爵に送るのであった。
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