第553話 パーティーのはずですが何か?

 ノーエランド王国到着後に行われた歓迎式典の翌日。


 王女リズを中心にリュー達は朝から王家との食事会、ノーエランド王国重鎮達との会合などスケジュールがぎっしり詰まっていて忙しい。


 特に歓迎パーティーはノーエランド王国の有力貴族が各自で開いているから、王女リズ、コモーリン侯爵、ミナトミュラー男爵、シーパラダイン男爵でバラバラに参加して数をこなすという状態だ。


 特に王女リズに至っては、どこも自分のところのパーティーに参加して欲しい貴族ばかりだったから、ノーエランド王家側に相談して優先順位を決め、分刻みで回る事態になっていた。


 コモーリン侯爵も今回の親善使節団の責任者だから同じような扱いであったので忙しそうである。


 その中、同じ忙しさでも、まだ、比較的に楽だったのが、リューとジーロであった。


 エマ王女を助けた英雄ながら、男爵というクレストリア王国では下級貴族にすぎない為、武官系貴族からの招待は多かったものの、王女リズ達に比べればまだ余裕がある感じである。


「リズに比べたらこっちはまだ楽なんだろうけど、それでも王都内の移動が目まぐるしくて今どこにいるのかもわからないよ!」


 リューは思わず護衛役のスードに愚痴を漏らす。


 リーンはリズに同行していたので、傍に居ないのだ。


「主、次はジーロ様と合流してノーエランド海軍大元帥主催の歓迎会らしいので、場所は軍港傍の屋敷です」


 スードは案内役にスケジュールを確認して、リューに伝える。


「……場所を知りたいわけでもないんだけどね?」


 リューは真面目に応じるスードに苦笑して応じるのであった。



 会場に着くと続いてジーロを乗せた馬車も到着して合流する。


「お兄ちゃん、そっちはどう?」


「僕の方は、まだ、楽かもしれないなぁ。さっきの会場ではエリザベス王女殿下と一緒だったけど、あっちは沢山の人に囲まれリーンもうんざりしている様子だったよ。──リューこそどうなの?」


 ジーロは答えながら、主催者側の使用人に案内されて会場入りする。


「こっちも忙しいけど、さっき一緒したコモーリン侯爵も同じ感じだったよ。リズと侯爵の二人が主に忙しくて僕達二人はそのおまけ的な位置かな。でも、この会場では僕達が主役らしいよ?」


 リューはここまでのパーティーの状況を分析すると、この会場にそのおまけのはずのリューとジーロがセットで招かれている事を不思議に感じて答えた。


 そんなやり取りをしていると、扉の前に立たされ、扉が開く。


 すると、大きな庭に続くパーティー会場が用意されていた。


 参加者は見るからに武官系貴族達。


 いや、完全に武官ばかりだろう。


 これまでのパーティー会場とは違って、規律正しい厳かな感じの雰囲気だ。


 二人は拍手で迎えられると、今回の主催である海軍大元帥ガーシップ公爵のところまで誘導される。


「エマ王女殿下を救った若き英雄達、ようこそお出で下さった! がははっ!」


 白髪に同じく白いひげを顔一面にはやした豪快な雰囲気で軍服姿の貴族が、リューとジーロを確認すると一人一人を握手で出迎えてくれた。


「「お招き頂き光栄です」」


 リューとジーロはこの日何度目言ったかわからない台詞を言うと、ガーシップ公爵に応じる。


「我々は海軍将校はエマ王女を海賊に攫われた失態を重く考えており、付けていた部下も全員が戦死した事からも、助けてくれた二人に是非とも会ってその当時の海賊との戦闘内容を聞きたいと思っていたのだよ」


 ガーシップ公爵は武骨な物言いで、率直に今回の趣旨を簡単に説明した。


 リューとジーロはその言葉に素直に応じ、当時の状況を話した。


 パーティーに参加している武官達は二人の話に、時折質問したり、「おお!」と感嘆したりとリュー達の活躍に感心する。


 だが、やはり、見た目は子供であったから、どこまでそんな化物じみた活躍を出来たのかどうか判断しづらいという反応も見えた。


 それはそうだろう。


 エマ王女に付けたノーエランド王国海軍自慢の護衛集団を全滅させるほどの海賊相手に、リューとジーロはほとんど被害を出さず、討伐したのだから。


 見た目が子供の為、そんな活躍をしたというのも、疑わずにはいられないのは当然の反応であった。


「ふむ……。うちの連中の中には、二人の活躍が信じられない者もいるようだ……。──どうだろう? ここの庭は、武官達の訓練に利用する事もあるから、道具一式は揃っている。軽くその実力を見せてもらえないかな?」


 ガーシップ公爵はそう言うと庭に誘導する。


 武官達はモーゼの十戒のように二人に庭までの道を開くと、すでにその先には上着を脱いだ数人の武官が準備を始めていた。


 最初から、僕達の腕を試したかったのか……!


 リューはあまりにも用意がいいので、すぐに王女リズやコモーリン侯爵がなぜメインでいないのか理解出来た。


 二人がいると、腕試しを止められるからだ。


 そもそも客人の腕試しをするなどもってのほかだが、相手が若い男爵二人なら国が違うとはいえ公爵相手にお願いされると断るのは難しい。


 これはもう、確信犯だろう。


 リューとジーロは目を見合わせてそれを察するのであったが、先程までの息の詰まるパーティーよりわかりやすく気を遣わないでいいから逆にありがたいと考えた。


「──わかりました。誰かお相手してもらえますか? 兄に代わり弟の僕が数人手合わせしましょう」


 リューはそう言うと上着を護衛役のスードに渡して前に出る。


「若者は話が早くて良いな! ──よし、海軍第一船団ケーン団長、遊撃船団ツヨン団長前へ!」


 ガーシップ公爵がノリノリで腕利きの部下の名前を呼ぶ。


 名前を呼ばれた二人はすでに上着を脱いで準備万端で、模擬専用の剣と手斧二本を各自すでに持っている。


「それではケーン団長から始めようか。──ミナトミュラー男爵は好きな得物を選ぶと良い」


 ガーシップ公爵は、楽しそうに話を進めていく。


 リューは用意されている模擬専用の武器を見て適当に剣を選ぶ。


「──ほう……。武器に拘りなしか」


 ガーシップ公爵はリューの行動に軽く驚く。


 そこにジーロがリューの元に近づき声をかける。


「リュー、わかっていると思うけど、あの二人、相当な使い手みたいだから気を付けて」


「うん。歩き方で僕も思った」


 リューはジーロに笑顔で応じると、ガーシップ公爵に視線を送り、


「いつでもいいですよ」


 と声をかけた。


「ケーン団長前へ。──それでは……、始め!」


 ガーシップ公爵の宣言でパーティー会場は試合会場になるのであった。

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