第528話 使者の案内ですが何か?

 リューとリーンはランドマーク本領、城館の応接室でノーエランド王国の使者とエマ王女、ソフィア・レッドレーン男爵令嬢の再会の場に立ち会う事になった。


「エマ王女殿下、よくぞご無事で! 国王陛下と王妃殿下も無事を聞き大層な喜びようでした。見る限り大丈夫そうですが……、何もされておられませんか?」


 ノーエランド王国の使者で初老の男性、サール侯爵はその場に居合わせた父ファーザ、長男タウロ、次男ジーロ、そしてリューの男性陣を警戒するように視線を向けてエマ王女の身の安全を確認した。


「サール侯爵! その言い方は命の恩人であるみなさんに失礼ですよ! ここにおられるランドマーク伯爵、その与力ミナトミュラー男爵とシーパラダイン魔法士爵のみなさんは海賊から私達を救い出し、密かに保護して頂きました。さらにはその伝手でクレストリア王家と連絡を取って頂き、お陰で王家から直々に私達の安全を全面的に保障して頂いているのですよ!」


 エマ王女はサール侯爵の失言を叱責した。


「クレストリア王家から直々に!? も、申し訳ありません! 王家を動かせる程の貴族とは露知らず失礼しました……」


 サール侯爵は初めて聞く貴族名であった事から、サール侯爵はエマ王女の身柄の引き渡しを条件にどんな無理難題を突き付けて来るのかとかなり警戒していたから、エマ王女の言葉に驚き、謝罪した。


「はははっ! それは仕方ない事です、王女殿下。我が家の家名はこのクレストリア王国内でもまだ、有名とは言えません。ですが、王家より直々に『王家の騎士』の称号を頂くほどには信頼を得ている家ですのでご安心ください。ですからサール侯爵殿もお気になさらず」


 ランドマーク家の名はこの数年で国内でのみ有名になってきただけだから、他所の国の者からしたら、知らなくて当然である。


 そんな無名の貴族から、王女殿下を保護したので目立たない形で迎えを出してくれるようにとの内容で手紙を貰うと、その裏を想像しないわけにはいかないところだろう。


 もちろん、ランドマーク側に裏はないが、その内容は身代金を暗に要求しているように聞こえなくもない。


 それにノーエランド王国の王家の中でもエマ王女は『真珠姫』と称される国民にも愛されている存在だから、その価値は大きいのだ。


 他国のよく知らない貴族の下で密かに保護されていると報告を聞けば、見返りに無理難題を突き付けられる事も覚悟するところであったのかもしれない。


「……改めましてエマ王女殿下を無事保護して頂き、ノーエランド王家に代わり、感謝致します。つきましてはお礼の品をいくつかお持ちしました。それを持ってエマ王女殿下の身柄の引き渡しをお願い致します」


「サール侯爵、お礼などいりませんよ。我々はクレストリア王家の臣下。その王家がエマ王女殿下の国内での安全を保障したのです。感謝は国王陛下にお願いします。──リュー、国王陛下に連絡を。エマ王女とサール侯爵の謁見要請だ」


「いや、お待ちください。王都はここから片道で一か月はかかるはず。さすがにそんな長旅を心労著しいであろうエマ王女殿下にさせるわけにはいきません」


 サール侯爵は一刻でも早く、ノーエランド王国にエマ王女を連れて帰りたいところであったから、リューの『次元回廊』を経験しているにも拘らず、その事を失念して拒否した。


「落ち着いてください、サール侯爵殿。僕の『次元回廊』で王都までは一瞬なのでご安心ください。国王陛下との面会まで数日かかるかもしれませんが、それまではここにご滞在頂きますよう……。──それではちょっと連絡しに行って来ますね。では、失礼します」


 リューはそう言うと、国王陛下への連絡の為に、その場から消えた。


「わっ!?」


 サール侯爵はエマ王女の無事を確認するまでは! と気を張っていてこのリューの能力にも驚く余裕がなかったのだが、エマ王女の安全を確認した後で、緊張も多少解けていたからか、今度は素直に驚くのであった。


「サール侯爵。そういう事だから、あと数日はここに滞在させて頂きましょう。──ランドマーク伯爵殿、もう少しお世話になりますね」


 エマ王女はもう何日もお世話になっているランドマーク領に馴染んで、ランドマーク家の家族とはすっかり親しくなっている。


 末っ子のハンナともよく遊んでおり、家族のような間柄になっていたから、父ファーザに気楽にお願いするのであった。


「ええ、もちろんですよ。いくらでもここにいてください。はははっ! ──サール侯爵、お付きの人々の部屋もすぐに用意させますので陛下との面会までごゆっくり寛いでください」


 父ファーザは相手の警戒を解いてしまう朗らかな笑顔でそう応じると、丁度、応接室の扉を開いてリューが戻ってきた。


「お父さん、王家に報告の使者は出しておいたよ。──じゃあ、サウシー伯爵のところに待たせている他の方々もこちらに呼びますね。──よろしいですか、サール侯爵殿」


 リューは、父ファーザに報告すると、今度は使者であるサール侯爵に確認する。


「お、お願いします……」


 サール侯爵はどんどん話が進んで行く事に戸惑うが、当のエマ王女が落ち着いているので承諾するしかないのであった。



 その後、リューがサール侯爵が上陸の際お供として連れていた近衛兵とエマ王女の世話役の為であろうメイドなど合計十名を連れて戻ると、ランドマークの城館では急遽内輪で歓迎会が行われる事になるのであった。

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