第527話 意外な接点ですが何か?
リューとリーン、護衛のスード、そしてこの日はイバルにラーシュも放課後、いつものマイスタの街へ直行するのではなく、ランドマークビルに集まっていた。
そこで普段ならスードは護衛任務も解かれて帰宅、イバルとラーシュはそれぞれミナトミュラー家の従業員として仕事に向かうところなのだが、リューとリーンに付いて行く。
そう、学園では期末テストの時期なのだ。
リューは雇用主として従業員の成績も気にしないといけないから、この期間は仕事を休ませて一緒に勉強する事にしたのである。
「みんなは先に勉強しておいて。僕は、南部のサウシーの港街へ定期確認しに行ってくるから」
リューはそう言うと、一瞬でその場から消えてしまう。
「定期確認って何ですか?」
ミナトミュラー商会の従業員のラーシュは、リューの活動の全容を詳しく知らないのでリーンに聞いてみた。
「サウシーの港街に他所から使者が来る予定なの。だから、朝と夕方の二度、リューが『次元回廊』を使って確認しに行くのよ。この後、ランドマーク本領にも様子を窺いに行ってからあとは勉強よ」
リーンは簡単にラーシュへ説明する。
「その使者次第では王家やランドマーク本家にも利益をもたらす事になるかもしれないんだよな」
イバルがざっくりと追加で説明した。
「それは、ミナトミュラー商会の利益にはならないのでしょうか?」
ラーシュはミナトミュラー商会の従業員であり、まずは商会の利益を考えるのは当然の疑問である。
「主家の利益は与力の利益。親商会の利益は、子であるうちの商会の利益よ。上から仕事が貰えるのだからね」
リーンの言葉はリューが日頃から部下達に言い聞かせている事である。
ラーシュは友人だから近すぎて聞く機会がなかったようだ。
「ラーシュは商会の従業員だからな。うちの利益を優先して考えるのは間違っている事じゃない。上の事はリューやリーンの上層部が考える事だしな」
イバルもその一人なのだが、本人はまだ、ミナトミュラー家の一員としてまだまだだと思っているようだ。
「イバルもその一人なんだからもう少し自覚しなさい。ラーシュはノストラの直属の部下としてこれからはそういう事も意識しないといけないわよ」
リーンが勉強前に二人を説教し始めた。
スードは会話に加わらなくて良かったとばかりに、黙ってリーンの言う事に頷いているのであった。
しばらくすると、リューが『次元回廊』で戻ってきたのか「ただいまぁ」と玄関から帰ってきた。
出入り口がランドマークビルの前に設定してあるから、戻ってくると階段を上がり直すという面倒があるのだ。
「遅かったわね、何かあったの?」
リーンが開いていた教科書を閉じて、リューに確認する。
「うん。使者の船が丁度、サウシーの港街に入港していてさ。サウシー伯爵がその相手をしていたんだけど、使者が僕の名前を出し、僕以外とは交渉しないと言って伯爵を困らせていたみたい。一応、サウシー伯爵には僕目当ての使者が来るので対応をお願いします、とは言っていたんだけどね。まさか他国の使者とは思っていなかったみたい」
リューは苦笑してその時の状況を説明した。
「さすがにサウシー伯爵にも他国の王女様が非公式に訪問しているとは軽々しく言えないものね」
リーンも納得して苦笑する。
「うん。それで、サウシー伯爵には悪いけど、あとで詳しく説明します、と言って使者の対応をしたのだけど、使者は使者で『王女殿下の無事を確認させろ!』と迫って来るから、今、ランドマーク本家に案内してきたよ」
「今日は勉強どころではないわね。──三人は勉強を続けて。リューと私は出かけて来るから」
リーンはそう言うとリューの手を取って、『次元回廊』でその場から消えるのであった。
「……王女殿下って他国の王家を人質にでもしているんですか?」
傍で聞いていたラーシュが、『王女殿下』というキーワードに反応して、イバルに尋ねる。
「俺も詳しくは知らないが、少し聞いた話では、リュー達が他国の王女を救って密かに保護していたんだよな?」
イバルは簡単にラーシュに説明すると、この中では一番詳しいであろうスードに話を振る。
「……はい。口外厳禁という事でクレストリア王家からも口止めされていましたがそういう事です。主はノーエランド王国に早船を出して事の顛末をお伝えして返事を待っていたのですが、対応が想像以上に早かったみたいです」
スードはリューから聞いていた話だと、ノーエランド王国の使者は早くてもあと数日はかかるだろうとの事だったからだ。
「その王女殿下は、王位継承権高いのか?」
反応の速さから、そう想像したイバルがスードに聞く。
「第二王女という事で、そうでもないと思うのですが……」
スードも首を傾げる。
「ノーエランド王国の第二王女……、ああ! なるほど、そういう事か」
イバルは何か思い出すようにすると、その事で納得した顔になる。
「なんです?」
スードが気になって聞き返した。
「ノーエランド王国の第二王女、確か……エマ王女殿下だったと思うけど、『王国の真珠姫』と呼ばれている程の人気のある姫君なのさ。今では相当な美人とか」
「今では? ……ああ、確かに……。とても綺麗な姫君でした。でも、よくそんな事を知っていましたね」
スードは物知りなイバルに感心する。
「はははっ! なにしろ、エラインダー公爵令息時代、俺の結婚相手候補の一人だったから覚えていたのさ」
「「えー!?」」
スードと黙って聞いていたラーシュは意外な返答に驚きの声を上げるのであった。
「あ、でも、すぐに立ち消えになったけどな。当時、各国の王女や皇女の結婚候補は多かったみたいでエラインダー公爵は自分に有益かどうかで天秤にかけていたんだけど、当時、ノーエランド王国は内紛騒ぎで揉めていた頃だから、その候補から外したみたいなんだ」
イバルは過去の笑い話とばかりにあっけらかんと答える。
「凄い話ですね……。言われれば王家に繋がる家柄ならあり得る話ですね……」
ラーシュはつい忘れがちなイバルの出自を考え納得した。
スードも次元の違う話だったから、ラーシュの言葉に激しく賛同とばかりに頷くのであった。
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