第523話 大会の後ですが何か?

 こうして波乱ずくめの総合武術大会は、混合部門優勝は、ギレール・アタマン(四年生)。

 準優勝リーン(二年生)、三位イバル・コートナイン(二年生)、同三位ランス・ボジーン(二年生)となった。


 女子部門の優勝は、エリザベス・クレストリア第三王女(二年生)。


 決勝の相手はなんと兎人族の転校生ラーシュ(二年生)であった。


 四年生の優勝候補女子生徒がことごとく王女リズと対戦して敗退したというくじ運の良さもあったが、ラーシュは元々『聖銀狼会』の軍師を務めて現場での働きもあるという意外に経験豊富な女の子であったから立ち回りも見事なものだったのだ。


 王女リズはこの兎人族の友人との対決に苦戦を強いられたが、有利な光魔法での立ち回りによる必勝法は健在で、まるで詰将棋のような無駄のない、数手先を読み続ける対決も能力差で王女リズに軍配が上がった感じであった。


 表彰式では混合部門優勝者であるギレール・アタマンが、用意された優勝杯を手にした。


 そして、司会進行役から祝福の言葉と優勝の感想を求められた瞬間、どうやら四年生として背水の陣で臨んでいた緊張が解けたのだろうか? 思わず感極まって涙腺崩壊するという珍事が起きた。


 これには会場の観戦者も驚きであったが、ギレール・アタマンにしてみれば、生徒会長選を惨敗したせいで不利になった就職活動の為にも優勝しかないと思っていたから、その喜びもひとしおだったのだ。


 司会進行役は、この収拾がつかなさそうな優勝者に戸惑って、仕方なく準優勝者であるリーンにインタビューをするのであったが、リーンは一言、「次は破れない結界にして頂戴」と注文を付けて終わったので、関係者席にいた宮廷魔法士団の面々はバツが悪そうな状況になるのであった。


 とはいえ、


 リーンの魔法が、上級以上の威力だったのが原因であり、ルール上、宮廷魔法士団のみなさんには罪はないのでその辺りはご理解ください。


 というのが、運営であるリューの見解である。


 リューにそう言われるとリーンも閉口するしかないのであったが、女子部門の王女リズも司会進行役から一言求められた。


「優勝は嬉しいですが、最後の特別試合こそが、この学園のレベルの高さを表すものであったと思います。王家に連なるものとして、最後のリュー・ミナトミュラー男爵とエクス・カリバール男爵の二人には今後も活躍を期待したいと思います」


 と王女リズらしい視点で感想を述べた。


 このお陰で司会進行役は、リューとエクス二人へのインタビューに移ったのだが、王女リズの横で安堵したのがラーシュである。


 インタビューなんて何を答えれば良いのか分からず緊張していたので、王女リズのコメントで司会進行役の矛先があっちに向いて安堵するのであった。


 司会進行役がリューとエクスの両者にそれぞれ感想を聞き、両者が相手を賛辞するのでその謙虚な姿勢に感銘を受け、「素晴らしい両者に拍手を!」という言葉が観客席に向けられる。


 司会進行役の言葉に観客は改めて大きな拍手を送るのであったが、この状況を観客席の端で見つめていた生徒がいた。


 それはルーク・サムスギンである。


 勇者エクスの親友にして、リューへの不敬行為の数々から停学処分を受けていた生徒だ。


 ルークは親友であるエクスがリューとの対戦中、心から楽しむような笑みを浮かべていた事にショックと共に、自分はもういらない存在なんだと実感していた。


 だがそれと同時に、自分がいないこの一か月、エクスがどういう学園生活を送っているのかも心配していた。


 エクスは親友のルーク以外とはそんなに距離が近い友人がいないように思えていたからだ。


 エミリー・オチメラルダ嬢は、凋落している自分の公爵家の立て直しの為に接近して来ていたし、レオーナ・ライハート嬢はエクスの剣技に感銘を受けて傍に居たので友人という感じでもなかった。


 だから、停学の間、ルークはとてもエクスの心配をしていたのだが、一番の敵と見ていたリューとの対戦であれだけ楽しそうな笑みを浮かべているのを見るとある意味、安心できたという思いになる。


「僕はもう必要ない、……な」


 ルークはまだ、リューに対して敵意を持たずにはいられなかったから、そう感じずにはいられない。


 インタビューもリューを評価して自分の完敗を宣言するエクスの表情は晴れやかだ。


 ルークはそれを寂しく感じる反面、安堵とともに肩の荷が下りた気がした。


 会場を立ち去ろうと出入り口に向かうと、どこからか「ルーク!」という声が聞こえてくる。


 ルークはその声にとても聞き覚えがあり過ぎたから敢えて無視し、会場を後にしようとした。


 だが、その声の主は走って追いかけてこちらに来ているのか、段々とその声も大きくなってきて、背後に迫る。


「ルーク、待て!」


 声の主、エクスがルークの肩を掴む。


「……エクス、久し振りだな」


「なんで無視するんだ。──みんなを紹介するから来てくれ」


 エクスはルークの手首を握り、リュー達の下に連れて行こうとした。


 しかし、その手をルークは振りほどく。


 そこにリュー達が駆け付けてきた。


「ほっといてくれ! あの二年生とつるむような奴とは友人でも何でもない!」


 ルークはリュー達の姿を確認すると、心にもない事をそう言うとその場を去ろうとする。


「待て、ルーク! ──先輩達は私達の事を許してくれている。特にリュー先輩はこんな私でも受け入れてくれているんだ」


 勇者エクスは親友を説得しようと、冷静に努めて話した。


「はん! あんな奴らに許しなんて請いたくないね! そんな奴らと仲良くすような君にはがっかりだよ、勝手にしてくれ。俺は北部に戻る。それがお互いの為さ!」


 ルークはエクスの為にも恨まれ役を買おうとしていた。


 これまでの行いの全てを全部自分が被ろうとしていたのだ。


 当然、問題の多くはルーク自身がしでかした事ではあるが、それに言いなりになっていたエクスのしこりになっているであろう罪悪感も拭って去ろうという演技であった。


「ルーク……、もういいんだ。僕も今、心から学園生活を楽しめるようになっている。ルークも今日の試合を観てそれはわかってくれているだろう? 気を遣わせすまない……。僕の罪まで引き受けようとしなくていいんだ」


 勇者エクスは親友が自分の為に演技をしている事は、すでに気づいていた。


 だから、リュー達に聞こえるように、お互いのわだかまりを解こうと説明口調で話したのだ。


「……」


 エクスの優しい言葉に背中を向けるルークの体が小刻みに震えていた。


 エクスはその背中をポンと軽く叩いてリューに振り返る。


「先輩方、みなさんの仲間にもう一人、加えてもらいたいメンバーがいるのですが、よろしいですか?」


「うん。エクス君の親友なら大歓迎さ! ねぇ、みんな?」


「いいわよ(ああ!)(ええ)(いいぜ?)(……はい)(もちろんだ!)(当然です!)(歓迎します……!)」


 二年生のそれぞれが色んな返事で応じ、笑顔で承諾するのであった。

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