第521話 勝負は決しましたが何か?

 二年生の成績上位者であるイバル・コートナインVS四年生の首席である天才ギレール・アタマンの戦いは、大方の予想では、上級生であるギレール・アタマン圧倒的有利というものだった。


 しかし、その予想に反してイバルが大健闘というか観戦者である関係者達の想像を超える戦いを行った事で、イバルの評価が一気に増したものであった。


 それでギレール・アタマン評価が下がったわけではない。


 二年生のイバルがルールを熟知した上でギレール・アタマン相手に見事な立ち回りを見せ続けたというものであった。


 ギレール・アタマンは冷静にイバルに対しており、その戦い方は上級生の余裕ある風格という感じであったから、四年生としての意地を見せた感じである。


 勝敗を決したのは、ギレール・アタマンが勝負に出た火の上級魔法に対し、イバルが水の上級魔法を使えなかった事であった。


 そこまで、イバルは全系統の魔法を使用できる利点から相手の魔法の弱点を突く形で下級、中級魔法を封じる立ち回りをしていたのだが、ギレールアタマンはそこで勝負に出た。


 上級魔法はルール上一試合で一度のみ。


 それは不発でも一回にカウントされるので、使いどころが難しいが、イバル相手だとどの魔法を使用するかにもよるところだ。


 それは全系統の魔法を使用できるといってもイバルはまだ、二年生。


 全ての上級魔法を使用できるところまで習得できているとは思えないからである。


 だからギレール・アタマンは、元イバルの家庭教師であった兄の当時の発言から、全系統魔法の中では水魔法が一番下手という記憶を思い出し、賭けに出たのだ。


 その結果、常に相手の弱点となる魔法で対抗していたイバルは、まだ、習得していない上級水魔法を使用できないから弱点を突くのを諦め、一歩遅れる形で、同じ上級火魔法を詠唱し始めた。


 その為、ギレール・アタマンが紙一重で詠唱を先に終え、同じ火魔法で強引な相殺を狙うイバルの至近距離で、お互いの火魔法が衝突した。


 当然同じ上級火魔法同士が当たれば相殺されることにはなるが、周囲も無傷とは言えず、詠唱が少し遅れた分、距離が近かったイバルがその余波で魔法ダメージを大きく受けてしまい、減点ポイントが蓄積され勝敗を決したのである。


 まさに紙一重の勝負であったから、この戦いに観戦者達は拍手喝采、称賛する歓声が沸き起ったのであった。


「……二年生とは思えない戦いぶりだった!」


「どちらも、素晴らしかった!」


「ギレール・アタマンか、確か彼はうちから内定をもらっているはずだな?」


「お宅もですか? うちも彼に内定をあげているのだが、そうなると条件を上げて是が非でもうちを選んでもらわないといけないですな」


「そうはさせんよ!」


 観戦している関係者達もヒートアップする中、試合が終わった後のイバルは、すぐに選手控室に戻っていた。


 そこにはリューが訪れていた。


「紙一重の戦いみたいだったね」


 リーンとランスの試合に注目していたリューはイバルの試合を見ていなかったから、そう表現するに留めた。


「ミナトミュラー家の従業員として不甲斐ない戦いだった……。すまない……」


 イバルはそう言うとリューに頭を下げる。


「ううん。相手のギレール・アタマン先輩は学年首席の天才だよ? その先輩にまだ二年生のイバル君が互角ってどれだけ凄いんだよ、イバル君! あははっ!」


 リューは成長著しいイバルが勝利する事を期待していたのは確かだが、口にした通り相手は四年生の首席である。


 それを相手に終始互角に渡り合った事は誇らしい事であった。


「そうか? 勝てると思ったんだけどな……。上級魔法を使わせるところまでは、想定内だったんだが、高確率で使ってくると思った上級風魔法ではなく、火魔法を使用してくるとは思わなかったんだ。俺にとって水魔法はまだ習得途中だったからな。やられたよ……」


 イバルはがっかりするのであったが、リューはその姿を見てふと気づいた。


「イバル君の事、あちらは元家庭教師のお兄さんからある程度情報を聞いていたんじゃないかな? 本当なら一番得意な風魔法で勝負するところを敢えて火魔法で勝負してきたのはそういう事じゃない? つまり、あちらは情報戦でイバル君より優位にあったという事だよ。そこが勝敗を決したのかもね」


 リューのこの言葉を受けて、イバルもハッとする。


「……確かに、彼の兄の家庭教師時代、水魔法について指摘されてた事を思い出したよ。そうか……、あれが敗因か! 自分の負けをはっきり理解出来たよ、ありがとう、リュー。次は同じ結果にならないよう少しでも早く上級水魔法の習得を行うよ」


 イバルは敗因がはっきりすると、落ち込んでいた事が嘘のようにすっきりした表情に変わっていた。


 リューはそれを確認すると笑顔で言った。


「リーンとイバル君の勝負を見られないのは残念だけどね!」


「あっ……、そうか……。この後、リーンとの試合の可能性があったんだ……! 今回は負けて良かった気がするよ……」


 イバルはリューの言葉に本気か冗談かそう応じると、二人は思わず笑ってしまうのであった。



 そして、決勝戦。


 リーンVSギレール・アタマンの対決は、呆気ないものであった。


 いや、最初はお互い初級魔法でけん制し合い、剣でも数合交えて試合らしい試合を行っていたのだが、ギレール・アタマンがリーンの雑な試合運び、強すぎる故の大雑把さではあるが……、そこに勝機を見出し、上級魔法対決に持ち込んだ。


 お互い風の上級魔法を詠唱し始めたのだが、圧倒的に短い詠唱時間でリーンが先に魔法を使用した。


 その威力が規格外すぎた。


 まず、リーンに掛けられた防御魔法(怪我を防ぐ為に宮廷魔法士団の魔法使いによる高度な魔法)が弾け飛び、同じく腕に装着してある魔道具も壊れる。


 審判はその時点でリーンの反則負け(威力が大きすぎて危険だから)を決したのだ。


 幸い会場全体に掛けてあった結界魔法と万が一の時用に要した魔道具による魔法の中和が発動。


 それらもリーンの魔法でほとんど壊してしまうのだが、ギリギリ中和されたので大事に至らずに済んだ。


 ギレール・アタマンに掛けられていた防御魔法もこの時消し飛び、同じく攻撃の類から守り、減点ポイントの計算などもする魔道具の腕輪も壊れ、ギレール本人も驚いて腰を抜かしその場にへたり込んだから、それを見て、観戦者全員がリーンの勝利を確信していた。


 しかし、審判の裁定により、リーンがルールで制限されている以上の魔法を使用したという事で反則となり、ギレール・アタマンの勝利が決定したのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る