第520話 準決勝でしたが何か?

 総合武術大会二日目終盤、混合部門準決勝が行われようとしていた。


 対戦カードはリーンVSランス・ボジーンとイバル・コートナインVSギレール・アタマンである。


 リーンはこの制限が多いルールの中でも無詠唱で下級魔法を間断なく使用してくる上に、その剣技についても圧倒的な実力を持っていたから、確実に勝利を重ねてきていた。


 準々決勝では三年生で生徒会長である知恵者ジョーイ・ナランデールを力で押し切って破ったのが印象的であった。


 対するランスは勝ち上がってきた四年生を相手に、自分のスキルである魔剣士の能力、魔法剣をこの日、初めて使用して見事勝利している。


 これはランスが四年生に苦戦した結果、出し惜しみしている場合ではないと判断しての事であった。


 次にイバルは、その得意分野である魔法で対戦相手を翻弄し続けて勝利している。


 なにしろ使えない魔法はないのだから、相手の使用する魔法の弱点をひたすら突き続けるのだ。


 さらにはリューの下、『竜星組』の仕事で実戦経験をみっちり積んできているから、相手が誰であろうと経験差で負ける事もほぼなかった。


 だから、イバルはリーンに続いて安定して勝利を重ねていた。


 最後に四年生のギレール・アタマン。


 こちらは四年生の貫禄で勝利を重ねてきたという感じであった。


 魔法から剣への切り替えのタイミングなど的確で無駄のない動きは、王立学園で四年間しっかり学んできた天才に敵はないと思わせるもので、これにはリューも、称賛を送る程であった事からその凄さが伝わるだろうか?


 そういった理由でこの時点において、優勝候補筆頭は、ギレール・アタマン、二番手にリーン、そして、イバルとランスが続く評価となっていた。


「やっぱり、強引にでも参加するべきだったなぁ……。ギレール・アタマン先輩と対戦する機会はこの大会くらいしかなかっただろうし……」


 リューはメイン会場である武闘場以外の会場の片付けをスタッフに任せて戻ってくると一人愚痴を漏らした。


 それほどギレール・アタマンの戦い方は見事だったのだ。


 性格は最悪であったが、天才と言われていたのは伊達ではなかったと思えた。


「だけどリューが相手だとアタマン先輩は本気出せないんじゃないか? 教室でリュー相手に頭を下げて謝罪までした関係性だし」


 リューと同じく他会場の片付け作業を指揮して戻ってきたナジンがリューのぼやきに、的確なツッコミを入れる。


「うっ……」


 リューは何も言えずに言葉に詰まる。


 そう、ギレール・アタマンはリューとのトラブルで謝罪をし、誓約書を書かされて以来、ずっと大人しく残りの学生生活を送っていた。


 その間、ギレール・アタマンはリューの下に自分が耳にした貴族の情報をまめに送って誓約通り大人しくしている事をアピールまでしていたのだから、リューがもし対戦相手になりでもしたら、最悪の場合、試合を放棄するかもしれない。


「……そうだよ、リュー君。やり過ぎはいじめと変わらないよ?」


 シズも痛烈なツッコミを入れる。


「うっ!」


 リューは二人のツッコミに見えないナイフで胸を刺されるのであった。


 そんなリューを脇目に、


「ほら、各準決勝の試合が始まるぞ」


 とナジンが指さすと、混合部門の二戦と女子部門の二戦の計四試合が丁度始まるのであった。


 準決勝の戦いはどれも白熱した戦いとなる。


 リーンとランスのクラスメイト対決は、日頃の差からリーンの圧勝で終わるかと思われていたが、この日のランスは魔剣士として躍動していた。


 ランスは下級魔法剣を詠唱無しで使用する事で、リーンを急襲し、その剣先を両断して見せる。


 これには不意を突かれたとはいえ、リーンも驚く。


 審判がリーンの武器破損で減点する。


 武器の破損は珍しいが、破損した時点で勝敗がつく事もあるのだが、リーンの剣はまだ、少し欠けたくらいだったので、続行された。


「やるわね、ランス!」


 リーンの現在の得手は細剣と刀で、この大会には細剣で出場している。


 その剣先が欠けるという事は、細剣としては致命的にも思えるが、審判は続行した。


 リーンはランスの魔法剣による攻撃を躱し続ける。


 その状況はリーンにとって防戦一方で圧倒的不利に見えた。


 その為、応援するリーンファンからも悲鳴が上がっていたが、リーンはランスにわかるように、剣を躱しながら上級魔法を詠唱し始める。


 それまでのランスの作戦は、時間一杯までリーンを攻め続け、減点ポイント分で勝利するつもりでいたのだが、リーンの狙いがそれらをけし飛ばす一発逆転だとわかってぞっとした。


 この大会、上級魔法はルール上一試合、一度だけである。


 出場者の中には、一発逆転を狙って使用しようと詠唱に挑戦した者もいたが、詠唱に時間が掛かるから、最後まで唱える事無く、敗北していた。


 だが、相手はリーンである。


 リューと同じで詠唱には時間がからないし、その間、ランスレベルの猛攻をもってしても攻撃が当たらないのだ、これはもうじり貧だ。


「ちょ、ちょっと待て! リーンの上級魔法だとここに張られた結界や魔道具が耐えられるかわからない威力だろ!? それを使用するのかよ!」


 ランスはリーンがゆっくり詠唱しているので、それが半ばこちらへの脅しとわかり、非難する。


 それでもリーンは詠唱を止めない。


 その間ずっとランスは魔法剣による間断のない攻撃をしているが全く当たる気配がないからたまったものではなかった。


「わかった! 俺の負けだよ!」


 ランスは至近距離からリーンの桁外れの上級魔法を食らって消し飛ばされる未来より、潔く負けを認める方を選んだ。


「──男なら魔法を食らって、死なない程度に耐えなさいよ」


 リーンは詠唱をギリギリで止めると、ニッコリ笑みを浮かべてそう答えるのであった。


「詠唱をゆっくりしていた時点で、俺の事を脅してただろ!」


 ランスは苦笑すると冷や汗をかきつつ、再度非難する。


「勝負あり! 勝者リーン選手!」


 審判が勝敗を決すると、呆気ない幕切れに観客は、ため息が漏れる。


 しかし、それも、次の瞬間喚声へと変わった。


 隣のイバルVSギレールアタマンの試合が決したのだ。


 勝負はなんとリューもびっくり! ギレール・アタマンの勝利であった。

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