第519話 波乱の連続ですが何か?

 初めての大会で初めてのルール、そして、参加者の数が多くて少々の混乱もあったが、大会初日はほとんど問題になるような事はなく二日目を迎えていた。


 二日目まで勝ち進んでいる生徒達は大会ルール内での戦い方も心得て来て試合時間五分内での減点方式を上手く利用する者も多くなってきていた。


 だが、二日目四回戦以降からは試合時間も倍に伸びる。


 五分制限なら目一杯動き回り下級魔法で隙なく小さいダメージを与え続け、接近させる事無く減点ポイント差で勝ち逃げするという方法が有効であった。


 しかし、試合時間が倍になると単純に魔力は倍以上必要になるし、動き回る体力も同様だ。


 誰もが全力で五分間戦い続けるのは大変な事だが、不可能ではない。


 だが、それが十分間となると事情は大きく変わって来る。


 魔力、体力とも十分間フルに酷使できる者はさすがに限られてくるし、ここまで勝ち進んできた者達はそれが困難な事を十分理解しているはずだ。


 必勝法だった戦法が時間が伸びた事で、使えなくなった事はすでに勝ち残ってきた全員が何よりも理解し、戦い方を変更しないといけない事を承知していた。


 イバルなどの頭の良い生徒は、すぐに切り替えて短期決戦の策を練っていたし、ランスやレオーナ・ライハート嬢のような脳筋体力タイプは、試合時間が伸びても自分の体力なら大丈夫だと考えただろう。


 それぞれ自分の武器となる個性を前提に作戦を練り直して二日目の戦いに挑むのであった。



「二日目の試合はみんながどういう戦い方に変更するのか観察している人が多いね」


 リューは他所の会場の進行から戻ってきたスードに出場者達の緊張感を伝えた。


「ここまで勝ち残った者の中に無策の者はもうほとんどいないでしょうが、他の者の戦い方次第では想定した戦い方を変更する者はいるかと思います。ランス君などのような体力お化け相手だったらなおさら大変そうです」


「あははっ! 確かにそうだろうね。みんな試合時間を目一杯使った戦い方から、短期決戦に切り替えている中、初戦から変更しないだろうランス達は厄介な相手かもしれない。でも、そんな相手にも戦い方はいくらでもあると思うから、誰が勝ち残るかはわからないところだよ」


 リューはスードの分析に賛同しつつ、試合という実戦の中では何が起こるかわからない以上、勝敗はどうなるかわからないと答えた。


「主の言う通りです! ──やっぱり自分も出たかった!」


 スードは勝ち進んだ生徒達をメイン会場である武闘場の各ステージに割り振りながらぼやく。


 それにはリューも同じ意見だ。


 自分達で考えた大会だから、実行委員として仕切らなければいけない事はわかっていたけど、出場できない事は考えてなかった! という思いだったからだ。


 当然言い出した本人だから、企画が現実味を帯びてくると自分が出たいとは言えなくなった。


 それでも人手不足の中、なんとか混合部門はリーンに、女子部門は王女リズにそれぞれ生徒会代表として出場してもらう事を学園側と交渉し、納得させた感じだ。


 学園側としては、面白そうな大会になりそうだったから、リューや勇者エクスが出場する事で結果が見えるものにしたくなかったのは理解できる。


 それに会場を破壊されて進行に不具合が起きるのは実行委員のリューでも理解出来たから全日程終了後の特別試合枠という形でリューも渋々納得したのだ。


「自分も勇者エクスと戦ってみたいです」


 スードはリューの特別試合を羨むように言った。


「その役は、今回、僕が引き受けて、エクス君の実力を計ってみるよ。はははっ!」


 リューの言葉は本音だ。


 勇者エクスの能力はまだ、未知数だからである。


 通常の戦いだと、レオーナ・ライハート嬢とほぼ互角らしいが、ボウリング対決で見せた仲間の能力を増加させる『チーム能力強化』や各身体能力強化、さらに勇者固有の能力強化もあるのは、王女リズから聞いてわかっていた。


 他にも勇者スキル秘密の能力もあるのではないかと、リューは考えていた。


 伝承に残る勇者スキルの持ち主の活躍を考えると、そのくらいの能力があっても不思議ではないと思っていたからだ。


 それらを引き出させるのはリューにとってリスクは大きいが、楽しみな部分でもある。


 勇者エクスがずっと真の実力を見せてこなかったのは、相手を壊す可能性を考えてではないかとも睨んでいたので、スード達にその役を任せるわけにはいかない。


 万が一の事があっては、上司として友人として実力的に一番上である自分が引き受けるべき事だとリューは考えているのであった。


 大会は試合時間が伸びた事で、またも波乱が起きていた。


 まず、一年生で唯一勝ち残っていたレオーナ・ライハートが三年生相手に敗退したのだ。


 これには、この日一番かもしれないどよめきが会場から起こった。


 獅子人族であるライハート伯爵家は、国内でも有名な一族の長だったし、なによりレオーナ嬢は『剣豪』スキル持ちだ。


 魔法が苦手という事があってもなお、それをカバーできる程の剣の実力があったから、上位進出を疑う者は観戦者席でもほとんどいなかった。


 だからこそのどよめきである。


「……これは、意外だったね……。こんな波乱が起きるのもこのルールを考えた僕に責任があるわけだけど……」


 リューもレオーナ嬢の予選敗退には、日頃相手をしているリーンも驚いていたのか、隣のステージで呆気に取られていた。


 そのレオーナ嬢に勝利した三年生は、次の準々決勝で四年生に接戦の末に敗退するのだからこの大会は終始波乱含みであった事は言うまでもない。


 その中、順調に準決勝に勝ち進んだのはリーンとイバル、魔剣士のスキル持ちであるランス、そして、圧倒的な実力で勝ち進んできた四年生のギレール・アタマンの四人である。


 そして、その対戦カードは、リーンとランス、イバルとギレール・アタマンに決定したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る