第495話 表彰式ですが何か?
第二回ショウギ大会決勝戦は、白熱した戦いの末、前回優勝者フナリ(ノストラ)が負けを認めて謎の仮面集団の一人、ニゴーの勝利となった。
観戦者達はフナリの敗戦を想像していた者はほとんどおらず、会場はまだ、ざわついている。
「フナリ氏がまさか負けるとは……」
「だが、凄い指し合いだったな!」
「くっ、俺の今月の給料全部、フナリ氏の勝利に賭けてたのに!」
「結局、あの仮面集団は一体何者なんだ?」
「正体がわからない奴が大会優勝者というのは、納得できないな……」
「しかし、実力は本物だぞ?」
などとこの決勝対局については色々と物議を醸していた。
「世の中は広いな。この王都で俺に勝てる奴はそうそういないぜ」
フナリ(ノストラ)は勝者であるニゴーにそう声を掛けると、握手を求める。
これには警備の近衛騎士が握手を阻むように間に入ろうとするが、ニゴーが手をかざしてそれを止めると握手に応じた。
「はははっ! 棋譜(対局の記録)を通して、フナリ氏の強さを知っていた私が有利だったな。しかし、次回また対戦する事があれば、その時は私が負けるかもしれない」
ニゴーは笑ってそう答える。
それはフナリに対しての最大の賛辞であった。
「ふっ。だが、今回は負けちまったからな。それに、優勝賞金も欲しかったが……、あの出来の良い優勝杯は自慢できるぞ?」
ノストラはニゴーにニヤリと笑って応じると会場の脇に置いてある優勝杯に視線を送る。
「優勝杯? おお、あれか? ──なるほど、勝者にはその証が贈られるのか。これは確かに自慢できるな! わははっ!」
ニゴーはノストラの言葉に納得すると、二人は笑って再度握手を交わすのであった。
「──それでは、表彰式に移りたいと思います」
司会進行係がそう告げると、観戦者達から歓声が沸き起こる。
その反応が、全てだろう。
今大会が大成功だったという証だ。
中央会場の舞台は沢山の観戦者から最大限の賛辞が上位入賞者達に送られる。
「おめでとう! 兎人族の女学生ちゃんは、次回も頑張れ!」
「フナリ氏! 惜しかったけど、良い対局だったぜ! 準優勝、おめでとう!」
「仮面の人達もおめでとう!」
「仮面付けてたら誰が誰だかわからないから、最後くらい顔を拝ませろよ!」
観戦者達から、祝福と共に、舞台に上がった仮面集団にそんな声がかけられた。
「それでは、惜しくも準決勝で敗退しましたが、ベスト四入りしたラーシュさん、イチゴーさんには、白金貨一枚(約一千万円)が贈られます! それではどうぞ!」
これにはどよめきと歓声が沸き起こる。
白金貨なんてもの、平民で拝む事など一生無い存在であったから、女学生のラーシュが受け取るの見て、観戦者達からは、
「夢があるなぁ……」
「俺も頑張れば一獲千金のチャンスが!」
「次回こそは、予選を勝ってあそこに立つぞ!」
と気合の声もちらほらと上がるのであった。
ラーシュはガチガチに緊張してその白金貨を受け取っていたが、イチゴーは
「儂も優勝杯みたいなものが欲しかったのう……」
とぼやきながら、受け取る。
賞金を手渡していた総責任者のレンドはその言葉に緊張気味に「次から用意します……!」と応じたのが印象的であった。
「……絶対、イチゴーって、国王陛下だよね?」
リューは舞台袖からその光景を見ながら、傍のリーンに話しかける。
「……追及はしちゃ駄目よ。したら大騒ぎになるもの」
リーンもリューに頷きながらもそう応じる。
「──それでは、決勝で見事な対局を見せたお二人、舞台へどうぞ! ──みなさん、拍手でお二人をお迎えください!」
パチパチ!
司会の言葉に観客も大きな拍手で二人を出迎えた。
舞台に上がったフナリ(ノストラ)とニゴー(宰相)はお互い理由は違うが、慣れたもので大歓声に手を振って応じる。
「それでは、今大会準優勝者のフナリ氏には、準優勝の盾と賞金白金貨二枚が贈られます!」
観客の拍手の中、フナリは総責任者のレンドからそれらを黙って受け取る。
「そして、今大会の優勝者は、謎の仮面集団の一人ニゴー氏です! ニゴー氏には、優勝杯と共に、賞金白金貨五枚が贈られます!」
ニゴーは観客の声援や割れんばかりの拍手に応じながら、レンドから賞金と優勝杯を受け取った。
そして、それを観客に掲げる。
「今回、優勝できたが、対戦相手であるフナリ氏は本当に強い相手だった。次回も対戦したいから、正体を明かしたくないのだが……、それでは観客も納得しないだろう。あの仮面の集団は何だったのかと。他のメンバーについては秘密だが、優勝した私は正体を明かしておこうか」
ニゴーはそう言うと、仮面をゆっくり外して、その面を観客に晒した。
一瞬の観客の沈黙と共に、その面に特に見覚えがある貴族達が
「「「あっ……! 宰相閣下だ!」」」
と声を上げると、
「「「……宰相閣下? ──……えー!?」」」
と観客達から驚きの声が上がる。
「道理で強いわけだよ!」
「さすが、わが国の頭脳だ!」
「「「宰相閣下万歳!」」」
観客達から納得と賛辞の声、そして、宰相を讃えて万歳の声が上がる。
この日一番の万歳による大合唱が起きて異様な盛り上がりを見せた。
司会もまさかニゴーの正体が宰相とは知らなかったのか、どうしていいのかわからず、総責任者のレンドに慌てて確認を取っている。
「諸君、ありがとう。正体を明かした以上、次回の参加は難しいだろう。そこで、提案なのだが、フナリ氏が優勝した第一回大会をその異名であるショウギ名人から取って、次からは名人位大会とし、今回の第二回大会を次回から宰相位大会と名付けてみてはいかがだろう? これで多少は大会に箔も付き、優勝した私も満足なのだが?」
宰相からの提案はレンドに取って渡りに船のようなものであった。
「……そう名付けて良いのであれば、よろしくお願いします!」
レンドは宰相の気持ちが変わらないうちにと、すぐに応じる。
「それでは決まりだな。はははっ!」
宰相が満足気に笑うと会場は最高潮の盛り上がりを見せた。
「ちょっと、待て!」
そこに同じ仮面集団でベスト四に入っていたイチゴーが、舞台袖から出て来ると声を掛けて来た。
「ならば、次回の第三回大会はショウギ王位大会と命名する!」
「「「え?」」」
王を名乗れるのは国王のみだから、それを冠した大会を名乗れるわけがない。
だから観客もこの言葉に一瞬、固まる。
イチゴーはそれを察したのか、仮面を取ってまた告げた。
「この国の王である儂が許可するのだから、問題はないだろう。次回大会はショウギ王位大会と宣言する!」
まさかの国王登場に、観客は喜ぶどころかその場に全員が次々とひれ伏し始めた。
観客の後ろの方は何事かわからない者もいたが、「国王陛下の御前だぞ!」という言葉に慌ててひれ伏す。
「驚かせすぎたか? 宰相達と儂のちょっとした戯れであったが、騒がせたな。皆の者、次回の王位大会での健闘を祈るぞ。わははっ!」
国王は宰相以上に目立てた事に満足したのか、笑うと近衛騎士に囲まれて舞台から退場する。
国王にとっては文字通り戯れであったのだろうが、自ら宣言した通り次回大会に王位大会と名付けた事で、ショウギが国に認められる遊戯になった瞬間であった。
「陛下……、茶目っ気が過ぎますよ……」
リューはこの状況をずっと舞台袖で見ていたが、優勝した宰相の独壇場だったはずの舞台を最後に掻っ攫っていく国王の後姿をひれ伏した状態でチラッと見て、そう漏らすのであった。
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