第490話 第二回大会ですが何か?

 第二回ショウギ大会当日。


 王城傍の広大な広場で行われるこの大会の規模は、前回大会よりも参加者が倍近くになっていた。


 王都だけでなくその近郊からやって来た者も多く、さらには貴族の参加者も多数参加している。


 その貴族は大会支援者としてお金を出している者も多かったので、総責任者でありランドマークビル管理人でもあるレンドの判断で予選一回戦を免除する形で応じていた。


 なにしろこの大会、前回の優勝賞金白金貨三枚(約三千万円くらい)だったのに対し、宣伝文句として王城傍大会と銘打ち、その倍近くある白金貨五枚を賞金にしている。


 準優勝者にも白金貨二枚、四位以内にもそれぞれ白金貨一枚と高額だから人気の程が伺えた。


 それだけ支援者から多額のお金が提供されているという事だ。


 総責任者のレンドにとって責任も大きいが、プレッシャーよりもやりがいを感じているのか、本人はやる気十分である。


 そんな中、大会主催者であるランドマーク家当主である父ファーザが、いつもの調子で短い挨拶をすると、司会者がルール説明をした。


 これは事前に参加者には細かく説明していたから、観戦者へのものである。


 メインの大きな舞台に大きなショウギ盤を模した壁面があり、司会者が予選は一分以内に指さないと負けになる事を簡単に説明、審判団の言う事には従うようにと注意もされた。


 そしてようやく、レンドが試合開始宣言をする。


 すると予選会場からはすぐに「パチン!」というショウギの駒を指す音が至る所から響き渡った。


 前回大会同様、高額な賞金が掛かっている大会だから、参加者達の真剣さは並々ならぬものがある。


 観戦者もその真剣さに応援の声を上げる事が憚られ、沈黙した。


 大会会場にはそれから駒を指す音が響き続けたが、一部で歓声が上がった。


 早速、勝負を決めて二回戦進出を決める者が現れだしたからだ。


 そこでようやく、他の観戦者達も沈黙を破って、話し声が聞こえ始める。


「前回大会優勝者のフナリ氏は、予選免除なのか! 早く来すぎた!」


「今回は前回同様三日間の日程だからな。優勝候補は軒並み二回戦からで、フナリ氏と準優勝者ケイマン男爵は三回戦からだぞ」


「今大会は前回フナリ氏に初戦で敗退したギョーク侯爵がまた初戦から出ているらしいからそっちを見に行くかな」


「ケイマン男爵のライバルと言われていた人物だな。じゃあ、俺もそっちに──」


 観戦者達が目ぼしい参加者の試合を見ようと移動を始めた時であった。


「ギョーク侯爵が負けたぞ!」


「ま、まさか!?」


「相手は誰だ!?」


 前回同様、今回も優勝候補の一角になるはずであったギョーク侯爵初戦敗退の報に、他よりも観戦者が多かった予選会場の一角で、ショウギファンからどよめきが上がる。


「相手は兎人族の少女らしいぞ!?」


「おいおい……、前回の優勝者フナリに続いてまた、ダークホースが現れたな!」


「参加者名簿にはラーシュ・学生とあるな……。これはこの大会も荒れるのか!?」


 観戦者からは無名の兎人族の少女が前回同様、優勝候補であったギョーク侯爵を破った事から、フナリの好敵手現ると予想する者も少なくなく、メイン会場にもその事が伝わり、主催者側もざわつき始めていた。


「……坊ちゃん。ラーシュって坊ちゃんのところの社員じゃなかったですか……?」


 総責任者のレンドがメイン会場の裏側でお茶を啜るリューに呆れながら声を掛けた。


「うん。僕の友人でもあるけどね。──そっか……、ノストラがかなり見込みがあるって言ってたけど、優勝候補に勝つ程の実力だったんだ、はははっ!」


 リューは嬉しそうに笑って応じる。


「えー!? もしかして、そのラーシュってノストラの弟子ですか!? 勘弁してくださいよ! それなら、ギョーク侯爵と対戦しないように二回戦から出場させたのにー!」


 レンドはそう言うと支援者の一人であるギョーク侯爵に同情する。


 ギョーク侯爵は大会支援者の一人だったので二回戦からでも良かったのだが、本人の希望で初戦から参加してもらっていた。


 本人は前回いきなり優勝者のノストラと当たって敗北した事から、今回は心を落ち着かせる為に支援者権限を使わず、初戦からの出場を選ぶ殊勝な人物だったのだ。


 だからレンドもそれを意気に感じ、初戦からの組み合わせに回したのである。


 それが、まさか何の因果かノストラに続き、その弟子ラーシュに敗退する事になったのは、レンドも想定外であった。


「はははっ、レンドの言っていた意外性のある展開になったじゃない!」


 リューは笑ってレンドの背中を叩いて励ます。


「坊ちゃんの関係者は次回から事前に報告お願いしますね? 注目戦は中央会場の盤面で中継しますから。──誰かその対局の棋譜(対局の記録)覚えている人いないかな……。初戦の注目対局の結果として、感想戦(対局の一部を再現する事)したいのだけど……」


 レンドはもう終わった事をくよくよせず、大会を盛り上げる為に、急遽、そのような提案をする。


「私、観てたから全部覚えているわよ?」


 そこにラーシュの試合を傍で観ていたらしいリーンが戻ってきて答えた。


「リーン、ナイス! それに全部覚えているとか天才か! ──あ、リーンは次回大会とか参加しないですよね?」


 レンドは喜ぶ半面、ここにもショウギが強そうなエルフがいたと警戒する。


「私は出ないわよ。リューが出るなら考えるけど」


 レンドは、はっとした表情を浮かべると、すぐにリューの顔色を伺う。


「僕はないから安心していいよ。はははっ!」


 気が落ち着く暇がないレンドを安心させるように笑って否定するのであった。

─────────────────────────────────────    

            あとがき


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


明日、8月19日、この作品の書籍版「裏稼業転生2」の発売日となっております。


厳密には、今日の夜0:00を越えたらですね。


実はすでに発売されている書店さんもあるようです。


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前作に続き分厚くなっておりますが、価格は据え置きなのでご心配なく!d(´▽`*)


このWEB版の今後の続きと書籍版「裏稼業転生2」どちらともお楽しみに!


あ、ついでですが、作品を面白いと思って頂けましたら、フォロー、★のレビュー、いいねの♥をして頂けたら、作者がもの凄く喜びますのでよろしくお願い致します<(*_ _)>


それではまた、続きでお会いしましょう!

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