第491話 初日の盛り上がりですが何か?
初戦からまたもや波乱が起きたショウギ大会は、異様な盛り上がりを見せ始めていた。
一人の兎人族の少女が、今回こそ優勝候補の一角として勝ち上がってくるはずであったギョーク侯爵を初戦で破ったのだから、ショウギファンが騒ぐのも仕方がない。
その他にも注目された対局でいくつか番狂わせはあったが、ラーシュVSギョーク侯爵戦ほどのものはなかったから、中央会場ではこの二人の対局の感想戦が行われ、その名勝負と思える内容から観戦者達を唸らせるのであった。
無事一回戦が終了すると、二回戦からは注目の対戦が増えて来る。
大会の支援をする事で二回戦から出場する貴族や大富豪、秘密のゲストなどが参戦してくるからだ。
注目は、前回の大会の支援者として一番の大金を投じてくれたショウギ愛好家ゴールディー伯爵や同じく支援者の一人で大富豪などであろうか?
お金を出すだけでなく実力も備わっている事から、注目の的となっている。
あとは秘密のゲストとして、近衛騎士団関係者として出場している仮面を被った五人組だろう。
それぞれイチゴー、ニゴー、サンゴー、ヨンゴー、ゴゴーと名乗り、やはり、イチゴーが一番偉いのか他の者達もその人物を立てているようだった。
その光景を会場の裏から見ていたリューは、
「無難に考えてイチゴーが近衛騎士団長、ニゴーが副騎士団長、あとは隊長とか強い順番かな?どうなのレンド?」
と大会総責任者であるランドマークビル管理人でもあるレンドに探りをいれた。
リューにさえレンドはこの参加者について情報を秘匿していたからだ。
仮面の五人組はフード付きマントを付けて容姿をわからなくしていたし、一切しゃべらず黙々とショウギを指していた。
それに警備に当たってくれている近衛騎士達がこの五人が動くと緊張感を漂わせるからなおの事気になっていたから、当然の質問だ。
「坊ちゃん相手でもこれは言えないんですよ。本人から口止めされていますので。それに支援者としても有力な人物達ですから」
レンドは日頃から世話になっているリューにさえ言えないという事はやはり、有力貴族なのは確かなようだ。
もしかしたら大臣クラスも紛れているかもしれない。
そんな異様な雰囲気が二回戦で漂い始めながら、対局は開始される。
この辺りはほぼ順当に有力な出場者が達が続々と勝ち進んでいた。
ダークホースとして注目される事になった兎人族の学生ラーシュをはじめ、支援者貴族や大富豪、謎の仮面集団などもそのメンバーに入っている。
観戦者達はここまでは予想通りだったのか満足そうであった。
「やはり、今大会の注目は兎人族の学生さんだな!」
「二回戦を観たが、指す速度に淀みがなく、対戦相手は圧倒されていたからな」
「貴族のみなさんも相当強かったぞ? かなりやり込んできているのはすぐわかったよ」
「……俺は仮面を付けた謎の出場者の一人の対局を観ていたが、あれも只者じゃない気がしたな……」
「そうなのか?」
「三回戦からは前回大会の優勝者フナリ氏、準優勝者のケイマン男爵が出て来るからな。本格的になるのはここからだ」
と前回大会からのファンなどは通っぽい事を語る。
「大会初日から良い対局をかなり観れたな。あとは中央会場での注目対局の感想戦を見に行こうぜ」
観戦者達はそう言うと、大会開催中出されている露店で思い思いの食べ物を買うと中央会場に向かうのであった。
「初日にはラーシュの活躍以外は順当に進んでいるみたいだね」
リューは満足そうに頷く。
「……そうですね。いやー、秘密ゲスト枠が初戦を順当に勝ってくれたから私的には安心ですよ」
レンドは余程、そこが気になっていたのか大きな安堵の溜息を吐いて、お腹を押さえる。
どうやら、相当気になっていたようだ。
「……レンド。まさかと思うけど、あの仮面集団って──」
リューが正体を指摘しようとした時だった。
近衛騎士の警備総責任者であるヤーク子爵がリュー達のいる会場の裏にやってきた。
「ミナトミュラー男爵、そちらの警備担当がうちの近衛騎士と揉めているから来てくれないか?」
「えー!? それはすみません。何があったんですか?」
「出場者の一人に次戦で対局予定の貴族が接触しようとしたらしいのだが、そこでそちらの警備が間に入ったらしい。理由はよくわからんが、その後、近衛騎士が貴族側を守ろうと動いて揉み合いになっている」
「わかりました。行ってみましょう」
リューはリーンと視線を交わすとスードとヤーク子爵と共に現場に向かうのであった。
「何だこの野郎! その貴族を庇うのか!?」
「そっちが貴族を取り押さえようとするからだろ!」
ミナトミュラー家の警備と近衛騎士は言い合いから、掴み合いへと変わっている。
数人同士が揉み合い押し合い、掴み合いに発展してしまった事に、傍に居たラーシュはオロオロしていた。
「どうしたのラーシュ!?」
リーンが渦中の人らしいラーシュに声を掛ける。
「次戦で対局予定の貴族様がボクにお金を渡してきたから、警備の人が止めに入ってくれたのだけど、近衛騎士もその状況をみて揉み合いに……」
ラーシュは困惑気味にリーンに答えた。
どうやら、対戦相手の貴族が、手強そうなラーシュを買収しようとしたのだろう、足元には金貨の入った革袋が落ちて中身が散乱している。
「私は何もしていないぞ! その兎人族の娘が何か勘違いして私の財布を払い落としたのだ!」
貴族はそう言うと、買収未遂容疑を否定した。
「俺達は見ていましたよ。その貴族様がラーシュさんを買収しようと詰め寄っていたのを!」
警備を務めているリューの部下が、リューにそう報告する。
「貴族に対して何たる無礼! そのような事をするわけがないだろう! それに私はたまたま対戦相手を見つけたから声を掛けただけだ!」
貴族は非常に怒ってその事実を否定した。
「……なるほど。お互いの主張が異なりますが、どちらにせよ、貴族の方が次戦の対局相手に近づいたのは事実のようですね。対局前の接触はご法度。警備が止めに入るのは当然ですよ。近衛騎士の方を下げてもらっていいですか、ヤーク子爵」
リューは静かにだが、状況を確認して理路整然と凄みを持って指摘する。
「わ、わかった。──お前達下がれ!」
「しかし隊長!」
「ミナトミュラー男爵の指摘はもっともだ。誤解を招いたのはこちらの方だから下がれ!」
総責任者のヤーク子爵が仲裁すると近衛騎士も渋々下がった。
「今は敢えてどちらが正しいかは判断しません。この問題は明日の対局でスッキリさせましょう。それでよろしいですね?」
リューはラーシュと揉めた貴族を圧を持って見据えると、貴族の男は気圧されるように「わ、わかった」と応じる。
「それではこの揉め事も終わりです。まだ、対局中の方もいらっしゃいます。元の配置に戻ってください」
そう言い放つと、リューの部下は速やかに、近衛騎士は渋々と戻っていくのであった。
こうして一部トラブルもあったが、全体的には予定を消化して初日を終えるのであった。
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