第473話 役員任命ですが何か?

 朝の教室。


「やってくれたな、リュー」


 クラスメイトであり、友人であるナジンが、恨めし気に朝の挨拶もそこそこで恨み言を言ってきた。


「……前もって相談くらいしてよ、リュー君」


 シズもナジンと同じく愚痴をこぼす。


「自分は主のいるところならどこでも大丈夫です!」


 スードだけは、賛同している様子である。


 そう、この三人は前日、リューが生徒会役員に推薦したのだ。


 学校に到着したら生徒会長が玄関に待機しており、早速、ナジンとシズ、そしてスードの三人にリズをはじめとしたリュー、リーン三人の推薦があった事を伝え、断る理由もこれといってないから役員に任命されたのだという。


「推薦はしたけど……、強制する気はないよ。……それで、一緒にどう?」


 リューは、自由意思に任せると言ってはいたが、推薦すれば、この一年で成長著しいあのジョーイ・ナランデール生徒会長である、言葉巧みに三人を説得してしまう。


「断れると思うか? リューはともかく王女であるリズの推薦を断れるわけがないだろう? 生徒会長もその点を強調してきたしな……」


 ナジンは王家への忠誠があるから、断れるわけがなかった。


「……それに私はリズの親友だもの。断れないよ」


 シズもナジン同様の理由の他に、リズとの友情を大事にしているから、断れるわけがない。


「自分は終始、主の推薦である事を告げられていました」


 スードはリューが関わっていなければ、絶対断っていただろうが、リュー本人が役員として在籍し、推薦までされれば断るわけがなかった。


 こうして、前日のリュー、リーン、リズに続き、二年生からさらにシズが広報に、ナジンが庶務、スードが監査に決定したのであった。



 授業の合間の休憩時間。


「それにしても意外だったな。リューが引き受けるとは」


 部下であり、将来の左腕(右腕はリーン)になるであろう友人のイバルが、リューが役員を引き受けた事に驚きを見せていた。


 それは、同じくミナトミュラー商会の社員であり、同じく友人であるラーシュも同じである。


 部下になった事でリューの仕事量について多少は把握しているから、生徒会の役員は必ず断ると思っていたのだ。


「リズも僕達も生徒会長に外堀埋められていたからね。断れない状況を作られていたよ」


 リューは苦笑して答える。


「私が最初に承諾しなければ、リュー君達に迷惑かけずに済んだと思うのだけど……」


 リズがちょっと反省するように言う。


「リズは悪くないわよ。半ば国王陛下の命令みたいなものだったんでしょ? 仕方ないわ」


 リーンはリズを擁護する。


「そうだよ。まさか生徒会長が学園長を使って国王陛下を説得しているとは誰も思わないよ。僕もお父さんを丸め込まれていたし……。お陰でマイスタに移り住みたいという人手を沢山回してもらえたけどね。はははっ。まぁ、生徒会長は本当に『三日会わざれば刮目して見よ』だったね」


 リューもリズを励まし、前世のことわざを出して生徒会長を評した。


「なんだその、三日なんとかって?」


 ランスがリューの聞き慣れない言葉に首を傾げる。


「『人は別れて三日もすれば大いに成長しているから、次に会った時はしっかり見なければならない』って、意味かな。一年会わない間に、立場が生徒会長を成長させた感じかな」


 リューはランスに説明すると同時、リズの推薦もあって生徒会長になったジョーイ・ナランデールが頼もしい先輩になっている事は評価すべき事であった。


「へー。じゃあ、今回、リズやリュー達が役員になった事も悪い事じゃないな。それで成長できるなら良い事じゃん。残念がらないで頑張れよ」


 ランスが自然な流れで良い事を言う。


「……ランスが凄く良い事言ってるよ」


 リューがビックリという表情で、反応する。


「おいおい! 俺だって三日に一回くらいは良い事言ってるぜ?」


 ランスがリューの言葉に心外とばかりに言い返す。


「ちなみに三日前はどんな名言を言ったんだ?」


 イバルが、茶化すように聞く。


「そうだな……。あっ! ──『あと二人前はいけるぜ?』とか?」


 ランスは少し考え込むと、思い出して、決め台詞のように言った。


 それには隅っこグループ全員が思わず笑ってしまう。


「ただの大食いじゃん!」


 リューが間髪を入れずに笑いながらツッコミを入れる。


「男は大食いの方がモテるっておふくろが言ってたんだって!」


 ランスの中では本気で名言だと思っているのか、みんなに笑われている事に抵抗するのであった。



 放課後。


 リュー達生徒会役員に決定した六人は初めての生徒会の集まりに参加する事になり、生徒会室に集まっていた。


 出迎えてくれたのは、三年生副会長のバンテ・ニセーセキで、全員に席に座るように勧めると、すぐ、お茶を入れて出してくれた。


「会長は今、みんなの役員任命証を受け取りに行っているからちょっと待ってて」


 バンテ・ニセーセキ副会長はそう言うと、お菓子も出してくれる。


「今日は、僕達の役員任命手続きが、主な仕事でしょうか?」


 リューはお茶を一口飲んでから、今日の予定を確認した。


「そうだね。それと──、あ、帰ってきた」


 バンテ・ニセーセキ副会長は生徒会長のジョーイ・ナランデールが戻ってくると立ち上がって出迎える。


「王女殿下もみなさんも良く引き受けてくれました。これが役員任命証になります。お受け取りください」


 ナランデール生徒会長はそう言うと一人一人に任命証を配っていく。


「この通り、肩ひじ張ってやるものではないから、気楽に生徒会の仕事を覚えるくらいの感じでいて大丈夫ですよ」


 生徒会長は中でもシズやナジンが緊張気味なのを察して声を掛けた。


「これでみなさんは生徒会役員です。それぞれの仕事は私達三年生役員が教えるのでご安心を。そして、早く覚えて来年に備えてください。──あ、それとみなさんに最初のお仕事をお願いしたいのですが……。王女殿下を中心に今学期中に一つイベントを考え、実施して欲しいんです。出来れば今後も毎年、生徒が楽しみにするようなものをお願いします」


 ジョーイ・ナランデール生徒会長は笑顔でしれっと無理難題をお願いしてきた。


「「「えー!?」」」


 気楽にと言いながら、いきなりの大仕事と思える注文に、リュー達は悲鳴に近い驚きの声を上げるのであった。


─────────────────────────────────────     

      あとがき


ここまで読んで頂きありがとうございます。


一週間ほど、お休みを頂き、休載しておりましたが、再開することになりました。


内容について納得がいかないと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、物語だからとご理解頂けたら幸いです。


詳しくは「近況ノート」で!


それでは、引き続き、「裏稼業転生」をお楽しみください。

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