第472話 役職ですが何か?

 今年の生徒会選挙は、異例尽くしであった。


 まず、三年生からは前年に引き続き立候補したのが、ジョーイ・ナランデールのみ。


 そして、二年生であるリュー達の学年は王女リズが、これも前年に続きジョーイ・ナランデールを支持する事は二年生に進級した時から声明を出していた。


 だから、生徒会長に立候補する二年生は現れるわけがない。


 勝ち目がないからだ。


 最後は一年生の勇者エクス・カリバール男爵が立候補する可能性であったが、こちらも勇者エクスが他の生徒に推薦されても辞退した事から、他の一年生は沈黙。


 他の有力な一年生、エイミー・オチメラルダ、レオーナ・ライハートなどは、驚いた事に立候補期間中になってジョーイ・ナランデール支持に回ったから、いよいよ誰も立候補しない。


 その為、異例である信任投票での再選が確定した。


 二年続けて同じ生徒が生徒会長というのは過去にも何度か例があったが、選挙無しは初であった。


 そして、リューとリーン、そして王女リズの三人は生徒会長であるジョーイ・ナランデールの事前の根回しもあり、生徒会入りが内定する事になった。


 放課後、忙しい身であるリューにとって、ランドマーク本家からの支援もあり、断れるものではなかったし、何より保護者からのお達しだったから賛成するしかない。


 それに学生の本分である学業とそれに関する活動は王立学園生徒なら義務であるという主張は至極真っ当なものだったし、王家にランドマーク本家、学園長まで説得され、外堀を埋められていたとあっては、さすがのリューも貴族の手本となるべき立場としてこれをひっくり返す言葉が見つからなかった。


 実際、ランドマーク本領は最近の急速な人口増加に伴い、働き手は充実していたし、リューを慕う領民の一部がミナトミュラー領に移住を希望しているという事でマイスタの街にやって来る。


 そのお陰で人材面でもリューはかなり助かりそうであった。


 残りはリューの事務処理や商会関係、竜星組などの重要な部分の仕事だが、それらは執事マーセナル、幹部達ランスキー、マルコ、ノストラ、ルチーナなどが分担してくれる事になる。


 当然ながらリューを中心に動いている各組織だが、そもそもリューが一人で色々と掛け持ちし過ぎていたのだ。


 今回の件でリューの仕事や、部下達の分担について、急激に成長していた組織構成を一度見直し、よりよく改善する事が出来た。


 それに、部下達にとってもボスであるリューの負担を下げられる事になった事に安堵するのであった。



 そういう事で意外なきっかけで選挙期間中に組織の改善をする事で負担が軽くなったリューとリーンは、リズと一緒に生徒会室にやって来ていた。


 生徒会室は一般の教室と比べて調度品が高価なもので揃えられ、美術品なども並んでおり、それらにかなりのお金が掛かっているのがはっきりとわかる。


 リューはそれを確認して生徒会長であるジョーイ・ナランデールについて少し、見損ないそうになっていた。


「王女殿下、それにミナトミュラー男爵にエルフの英雄の娘リーンさんもよくぞ生徒会入りを決断してくれました。私達は三人を歓迎しますよ。──あ……。生徒会の内装や調度品などが気になりますか? 先に言っておきますが、私達が殿下達の後押しのお陰で生徒会入りを決めてこの部屋に来た時はもっと派手で豪華だったんですよ。歴代の生徒会は予算をこの部屋を彩る為に贅沢に使用してきたようで、それを少しでも抑える事が私達の最初の仕事でしたから」


「地味にしてこれなんですか?」


 リューは十分豪華な生徒会室見渡して思わず正直な感想が漏れた。


「はははっ。学園では特殊な立場である歴代の生徒会が積み上げてきた資産を勝手に全部処分するのにも問題があってね。元々学校から毎年予算が出ているわけだから、それを消化するのも生徒会の役目なんだ。かと言って、その為に、各委員会や部活などに割り当てる予算が大き過ぎても問題だし、生徒会の手許に使われないまま予算を抱え込むわけにもいかない。学校側へ返却するとそれはそれで支援者達から文句がくるから、この一年をかけて少しずつ処分し、出来たお金で各自に予算を増やして割り当てる、という努力をしてきたんだ」


「……なるほど。急激に予算を増やし過ぎても、各委員会や部活動が贅沢を覚えてしまうと後々、資産が底をついた時、予算だけでは賄えない状況だけが残るという事ですね」


 リューは生徒会長の考えを理解して答えた。


「そうなんだ。何事も、緩やかに少しずつしかやり方が無くてね。かと言って増やし続けるのも問題しか残らないから、生徒会の資産は何年もかけて少しずつ減らしていくしかなさそうなんだ」


 生徒会長を務める期間はわずかだから、それらをやり遂げるのはまず不可能だろう。


「だから王女殿下達が私達のやり方を引き継いでくれると、ありがたい」


 どうやらそう考えて、生徒会長は引継ぎに相応しいと思える王女リズやリュー達を生徒会長に引き込むべくこの一年動いていたようだ。


「……来年の選挙はどうなるかわからないので、私は何も答えられませんが、今年は生徒会長の元で学ばせてもらいます」


 王女リズは生徒会長の思惑を理解して、当初は嫌であったこの役目も受け入れる気になったようである。


「僕もリズ同様、経験だと思って勉強させてもらいます」


 リューもリズが覚悟を決めた以上、断れるはずもなく、生徒会役員を引き受ける事にした。


「リューが良いのなら、私も文句はないわ」


 リーンも頷く。


「そこで役職ですが、昨年に続き選挙の時に私を支持して動いてくれた王女殿下には副会長を、成績一位で優秀なミナトミュラー君には会計を、手先が器用で字も綺麗なリーンさんには書記をお願いできますか?」


 生徒会長ジョーイはこの日の為に調べ上げ、考えていた役職の分担を口にした。


「……私が副会長ですか? 相応しい方が三年生の先輩方にいると思いますが……?」


 王女リズは自分の役職について少し疑問を口にした。


「副会長には三年からも一人、こちらのバンテ・ニセーセキに前年同様やってもらうのでご安心を。王女殿下には来年に向けて、この一年間は生徒会全体の仕事を覚えてくださると助かります」


 ちゃんと生徒会長は王女リズの役割も考え尽くしていたようだ。


 それは来年の学園の事も、王女リズ個人の事も、生徒会の事も全てである。


「……僕は会計ですか。それなら、得意分野だから比較的楽でいいかもしれないです。──会計の役職、引き受けさせてもらいます」


 リューは思ったより楽な役職だとわかり安堵すると、承諾した。


「書記って何をするの?」


 リーンは生徒会の存在自体興味の範囲外だったので、知るわけもなく自分の役職について当然の疑問を口にした。


「書記は、議会の議事録の作成をしたりする役職です。字が綺麗な人でないと、あとから議事録が字が汚くて読めないという事になりかねないからね。リーンさんの字が綺麗なのは、担任のスルンジャー先生からも保証してもらっているからお願いできるかな?」


 生徒会長は丁寧に説明してお願いしつつ、リーンを褒めるのも忘れない。


「……仕方ないわね。大変そうだけど、わかったわ」


 リーンは字を評価されてちょっと嬉しそうであり、リューもいる事から気軽に引き受ける事にした。


「他にも推薦する生徒はいますか? 二年生は優秀な生徒が多い事はわかっているから、推薦してもらえると助かります」


「みんな忙しいからなぁ……。あ、でも、僕の護衛役のスード君とシズとナジン君なら大丈夫かな?」


 リューは比較的に暇そうな三人を口にする。


 王女リズとリーンも同様で、暇を持て余している仲間三人を推薦するのであった。

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