第471話 嵌められましたが何か?

 生徒会会長であるジョーイ・ナランデールの勧誘を断る気満々であったリュー達であったが、そう簡単にはいかなかった。


 元々、王女リズについては、ジョーイ・ナランデールに生徒会長へ勧められていたのだが、それをずっと断り続けていた。


 だからだろう、王女リズを説得する為にも、外堀を埋める戦略を取られた。


 まず、生徒会長のジョーイは諦めたと思われていた王女リズの生徒会入りを校長である老師や担任であるビョード・スルンジャー先生を説得して動いてもらった。


「──そういう事で、今年の選挙は現生徒会長のナランデール君以外、立候補者がいない為、当選予定になりそうです。それで、来年君達は三年生として他の生徒の模範になるべき立場になる。それを忙しいという理由だけで、わが校の学生である事を放棄されても困るのだよ。学生はあくまで学業が第一。そして、学校の活動にも参加する義務がある。それはわかりますな?」


 校長室において、現在、王女リズは珍しく説教をされるという状況にあった。


「はい。……ですがその前に私は王家の一員として公務を遂行する義務が──」


 王女リズは当然ながら特別な立場であり、学生であろうが未成年であろうが、王族としての立場がある。


 だからその主張も理解出来るものであったが、校長はその言葉を遮った。


「──その事なら問題ありませんぞ。私が国王陛下に、王女殿下の学校での活動を優先させてくれるようにお願いし、先程、許可を頂きました」


 校長はそう言うと、国王の印璽が押された書状をリズに見せる。


 父上! 私、聞いてないですよ!?


 王女リズはそれを見せられて内心でツッコミを入れる。


 父である国王が娘の為なら学生の間は公務は免除するか、と簡単に応じたようだ。


「……謀りましたね、校長先生……」


「人聞きが悪いですぞ、王女殿下。ふぉふぉふぉっ。わが校の生徒会長もこの一年頑張って成長していたという事です。全ては彼の学園と生徒を思っての根回しですな」


「……わかりました。それで私はどうすればいいのですか?」


 リズは観念したように、生徒会入りを了承する。


「王女殿下を始めとし、複数の生徒には来年、生徒会上層部には必ず入ってもらう事になるでしょう。その為に今回は生徒会長も役員の仕事を学んでもらう為に、書記、庶務、会計、広報を用意しているようですな。詳しくは彼らに聞いてくだされ。ふぉふぉふぉっ」


 校長は一仕事終えたとばかりに、頷く。


 リズの後ろではビョード・スルンジャー先生が安堵の溜息を吐いていた。


 王女リズを陥落させたジョーイ・ナランデール生徒会長の次の説得対象は、当然ながら、二年生でトップの成績を誇るリューに移った。


 リューも担任であるスルンジャーに職員室に呼ばれる。


 すれ違いでリズがリューとリーンに視線を合わせるが、それも一瞬であった。


「「?」」


 リューとリーンはよそよそしく教室に戻るリズに疑問を持ちながら職員室に入ると、すぐにその疑問が解けた。


「──という事で、ミナトミュラー君。君も生徒会入りしてくれるかい?」


 担任のスルンジャーがリズが承諾した事を伝えて、リューにも生徒会入りをお願いした。


「残念ながら僕は本当に放課後忙しいので、生徒会活動をする余裕がありません」


 リューはリズが説得されて承諾した事に内心驚きながらも、役員入りをはっきりと断った。


「君はわが校の生徒だ。そして、与力貴族ではあるが、学園で現役の爵位を持つ一人の貴族として生徒として他の学生の模範になる義務があるのはわかるね?」


 うっ……。


 リューは貴族としてと言われると、言葉が詰まる。


 それはランドマーク家の与力としての立場を示すものであり、その義務を怠る事は本家の顔に泥を塗る行為だ。


 そして、担任のスルンジャーは直接言いはしないが、友人であり、仕えるべき王族のリズが承諾したのに貴族である君が断るのかな? という状況が出来上がっている。


 完全に外堀が埋められている!


 リューはようやくここで理解した。


 先程のリズのよそよそしい態度、あれはきっと説得された事で、リュー達も一緒に入るならという思いが脳裏にチラついてしまい、その事がリュー達への罪悪になったのだ、と。


 あの時気づいていればまだ、リズと廊下で考える時間が貰えたのに!


 もうそれも後の祭りであった。


 しかし、まだ、言い訳はある。


「貴族としての義務は理解出来ます。ただし、僕は領民に対して果たす義務もあります。そして、商会の運営や酒造ギルドの相談役などとしての仕事も。生徒会役員を引き受けるとその仕事に支障をきたし、金銭的な被害も被る事にもなりかねません。その補填を学園は保証できませんよね? お互いの事を考えると僕は役員入りは断るのが妥当だと思うのですが……」


 リューはとっさながら当然とも言える大人の事情的な言い分を主張した。


「……その事ですが、実はミナトミュラー君も一応未成年者という事で保護者であり寄り親でもあるランドマーク伯爵に手紙で説明させてもらいました」


「え? いつの間に!?」


「ランドマーク伯爵は、そういう事なら我が家も与力でもある息子の仕事のサポートの為に一肌脱ぐ用意がある、との事でした」


 担任スルンジャーはそう言うと、父ファーザの書状をリューに見せる。


 そもそも与力とは寄り親から領地を与えられ、爵位を推薦してもらった立場であったから、リューも意外に立場は弱い。


「! お父さんのサイン……だ」


 リューは確認して驚く。


 そして、最近の事を思い出した。


 それはランドマーク本領からリューを慕う領民のミナトミュラー領への移住希望者がいるという父ファーザからの打診である。


 ランドマーク本領の領民は識字率も高く、誠実でまじめだから、そういう領民が自分のところに来てくれると大いに助かると喜んでいたのだ。


 リューはもちろん、それを承諾していたのだが、つまりそれはリューの負担を下げる為のものだったのだと理解した。


「それでは……、ミナトミュラー君。よろしいですか?」


 ぐぬぬ……。


「(学園の動きは完全にノーマークだった……!)……わかりました」


 リューは完全に先の先を読まれてあらかじめ策を打たれていた事を知るのであった。


 これはきっと、生徒会長だろう。


 生徒会入りを望んでいるのは、現会長だからだ。


 まずはリズを説得する事で僕の断る理由を一部無くし、さらに他に考えられる理由も父ファーザに手紙を送り根回しする事で解消する。


 そして、僕が説得されるという事は……。


「リューが生徒会入りするなら、私も入るわね!」


 リーンが当然とばかりに頷く。


 そう、リューさえ攻略できれば、成績二位でリューの従者であるリーンも自ずと付いてくる。


 生徒会長は完全にこの説得の為に時間をかけてリズや自分達の周囲を調べ上げていたと考えるべきだろう。


 生徒会長は目立たない人だと思っていただけに、リューも無害と判断してノーマークだったから、ジョーイ・ナランデール生徒会長のその執念と手腕に舌を巻くしかないのであった。

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