第470話 またこの時期ですが何か?

 中間テストも終わり、王立学園には一時のゆったりとした時間が流れている。


 だが、昨年同様、いや、昨年は入学したての一年生だから許されていた時期がやってきた。


 それは生徒会選挙である。


 昨年は一年生という事で生徒会長に推されていた王女リズもその申し出を断り、当時の二年生ジョーイ・ナランデール先輩を生徒会長に押す形でリュー達は生徒会入りを避けていた。


 だが、二年生になった事で、三年になった先輩であるナランデール達生徒会役員一同が、満を持して今年こそはとリズ王女のいる特別クラスにやって来たのである。


「エリザベス(リズ)王女殿下、今年こそは生徒会会長に立候補してくれますよね?私達は進んであなたを支持しますよ」


 王女リズの熱狂的な支持者でもあり、会長であるジョーイ・ナランデールは自分の席を明け渡すつもりでそう申し出た。


「その申し出は嬉しいですが、ナランデール先輩。私は今年も先輩が生徒会長としてその座に付く事を支持します」


 王女リズは立ち上がるとそう答えた。


「しかし、昨年は王女殿下の支持を得て生徒会長の座に付く事が出来ましたが、私は本来その席に相応しくありません。やはりここは、それに相応しい王女殿下に立候補して頂いて、堂々とその任について欲しいのです」


 ジョーイ・ナランデールもこの一年間、生徒会長として立派に職務をこなしてきたからか、とても堂々としており、昨年の頼りない姿はそこにはなかった。


「残念ですが、私は生徒会に立候補するつもりはありません。それは私にとってあまり重要な事ではないからです」


「では王女殿下にとって重要な事とはなんでしょうか?」


「……王家の者として公務を行う時間を優先したいという理由もあります。ですが、そのひと時の中で、友人との些細な出来事が私にとっては、とても大事な事であり、その一つ一つを大切な思い出として残す事が私にとって重要な事なのです」


 リズはリュー達クラスメイトと一緒の時間を過ごす為に、学校での時間を利用したいと宣言したのであった。


「……確かに王女殿下は忙しい身。学校での時間くらいは友人諸君と一緒に楽しみたいですよね。……わかりました! また当選できるかわかりませんが、私がまた生徒会長に立候補します。ただし、当選した暁には、来年の生徒会運営の事を考えてこのクラスから役員を出して頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」


 ジョーイ・ナランデールは交換条件とも言えるような提案をしてきた。


「「「役員?」」」


 これにはリズのみならず、リュー達もざわつく。


「もちろん、私が当選したらの話です。聞けば、このクラスの生徒でテスト上位を占めているとか。そんな成績優秀な生徒なら次代の生徒会長候補として役員に入って生徒会の仕事を覚えてもらいたいのです」


 ジョーイ・ナランデールはこの一年でしたたかな面も成長したのかもしれない。


 きっとリズに断られた時の保険としてこの案を用意していたのではないだろうか、とリューは想像するのであった。


「……それは本人に確認してもらわないとお答えする事はできません。うちのクラスの生徒は学業以外にも忙しい者がいますから」


 リズは当然と思える返事と共に、即答を避ける。


「とりあえずは、このクラスのみなさんにその事を知ってもらえればよいのです。それではその時改めて勧誘しますのでよろしくお願いします」


 ジョーイ・ナランデールと生徒会役員は礼儀正しく挨拶すると退室するのであったが、その時、チラッとリュー達を見て出て行く。


「……今、私達見られたわよ」


 リーンがリューに声を掛ける。


「さすがに生徒会役員までやれる程、僕も暇じゃないよ……?」


 とリューはその可能性を否定した。


「はははっ! リューとリーンは生徒会長が推薦する王女リズよりも成績が良い生徒だからな。役員にしたいと思ってもおかしくないよな」


 ランスがリューを茶化すようにして肩を叩く。


「それにこのクラスにはリューとリーンの他にも、元エラインダー公爵家のイバルや名家であるボジーン男爵家のランス、聖騎士スキル持ちのスードもいる。それにみんな学年成績が良いから役員として選び放題だろうな」


 ナジンが自分の事は差し置いてみんなを評価する。


「おいおい。天才ラーシュや名家のラソーエ侯爵家のシズ、マーモルン伯爵家のナジンも成績優秀じゃないか」


 ランスが口を尖らせてナジンに言い返す。


「ボクはこの学校に来たばかりですし、平民なので可能性はないですよ。それに、ミナトミュラー商会の正式な社員として働いているのでそんな時間はありません」


 ラーシュは社員になった事が自慢なのか胸を張って答えた。


「そうなるとナジンとシズが時間に余裕もあって、名家の出だから一番可能性があるだろう」


 そこで黙っていたイバルが鋭い指摘をした。


 当然ながらイバルはラーシュ同様リューの部下として働いているから忙しい身だ。


 そしてその雇い主であるリューや、従者のリーン、同じく護衛役として雇われているスードも同様に忙しい。


 ランスも以前から国王の側近として、侍従長を務める父親の仕事を放課後手伝っていたから当然忙しい身だ。


 イバルの指摘通り、この隅っこグループの中で時間に余裕があるのは、シズとナジンだけであった。


「うっ……。墓穴を掘った……」


 ナジンが嫌な顔をする。


「……ナジン君、私まで巻き込まないで」


 シズもとんだ流れ弾に危機感を持つ。


「はははっ。リズも断った事だし、嫌ならみんな断ればいいさ」


 リューは最初から断る気満々であったから、みんなにもそれを勧めるのであった。

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