第468話 会場視察ですが何か?

 王都内某所。


 この日、リューはいつものメンバーであるリーン、警護役のスードに、ランドマークビルの管理人であるレンド、そこにミナトミュラー商会副商会長ノストラを連れて下見をしていた。


 そこは王都でも最大級の広場を擁し、何より、目と鼻の先に王城がある超一等地だ。


「こんな場所、よく許可下りましたね……」


 今回の主催者側の責任者であるレンドが王城の城壁をお堀越しに見上げながら呆れるように溜息を吐いた。


「レンドがうちに広い場所の確保をお願いしたんじゃない。僕はその希望を聞いてここが良いと思ったんだよ。ここの使用許可取るの大変だったんだよ? うちのノストラは張り切っていたけど……。それに背景に王城があると見栄えが良いでしょ?」


 リューはレンドの呆れ顔に苦情を言うと大変だったことをアピールした。


「若が『王家の騎士』の称号を与えられているお陰で、なんとか借りられたな」


 ノストラは自分の仕事に満足して笑みを浮かべる。


「いや、限度ってもんがあるだろ。そもそも、前回優勝者のノストラ、いや、フナリが対戦会場を選んでくる事自体、おかしいからな?」


 レンドがノストラの言葉にツッコミを入れる。


 そう、この王城の傍の広場は第二回となるショウギ大会会場としてノストラが選んできたのだ。


「……それは僕もノストラの私情がかなり入っている場所とは思ったけどね?」


 リューもノストラに頼んでおいた会場選びがこのスケールになるとは思っていなかったから、苦笑する。


「若が前回大会よりも派手にしたいって言ったからだろ? 俺はその希望に沿ってこの上ない場所を見つけて来たんだぜ?」


 ノストラは前回優勝者であるから、その優勝者に次の大会会場選びを任せるというのは、お願いしたリューのミスだろう。


「はははっ……。そうなんだけどさ……。まぁ、無事借りられたから良いけどね……? 一応僕の苦労を言っておくと、ここ借りるのに国王陛下の許可も必要で大変だったんだよ? 僕が友人(王女リズ)とのコネや称号(王家の騎士)を駆使して走り回ったんだから本当に失敗しないでね?」


 リューはレンドとノストラに肉薄すると真剣な顔で圧を掛ける。


「(か、顔が怖い……!)わ、わかってるって若! 今回も俺が優勝して大会盛り上げるからさ! 任せてくれ!」


 ノストラはリューの圧力を感じながら連覇宣言をした。


「はぁー……。私的にはそれだとつまらないんですけどね? 無名のダークホースが接戦の末にフナリの連覇を阻止するという戯曲のような展開があると良いんですけど?」


 レンドが優勝最有力者の前で不満を漏らす。


「おいおい、俺じゃあ、不足だって言うのかよ?」


 ノストラはレンドの筋書きに不満のようだ。


「いや、前回がまさにそのものだったから、盛り上がったんですよ。フナリという無名の商人が、優勝候補の貴族階級や知識人を破って優勝したわけですから。そのフナリも今では王都のショウギ界界隈では有名人。大会の時の棋譜(対局記録)も参考にしている者が多いって話ですからね」


「「そうなの!?」」


 レンドの言葉にリューだけでなく当人のノストラも驚くのであった。


「そんな人気者のフナリは今大会の本命なんですよ。連覇も良いですが、こんなとんでもない会場を押さえた以上、伝説的な大会にするなら、ダークホースが欲しいのが本音ですよ」


 興行主であるランドマーク伯爵家の責任者であるレンドの言う事はもっともである。


 三回、四回と続けていく上でドラマチックな展開があればより良いのは確かであった。


「レンドの言う事もわかるけど、八百長はさせないよ?」


 リューはそこには釘を刺す。


 前世が極道であるリューにとっては八百長も慣れたものだと思うが、興行主が寄り親のランドマーク家である以上、そんな事で名を汚すわけにはいかないのだ。


「もちろん、そんな事は望んでませんよ! (ちらっ)」


 レンドは否定しながらノストラをチラ見する。


「今、ちらっと俺を見たな!? 俺はやらないぞ! ショウギは俺の一番の楽しみで誇りなんだ。これは譲れないぞ!」


 ノストラはレンドに興奮気味に答えた。


「まぁまぁ、二人共、落ち着いて。やらせ無しでやるから、名勝負は生まれるんだよ。風の噂では前回の上位進出者も『打倒、フナリ!』で切磋琢磨していると聞くし、そう簡単に連覇は出来ないかもよ? 大会の盛り上がりについては参加者みんなの頑張りに期待しよう」


 リューはそう話をまとめると、丁度そこに待ち合わせしていた王城の責任者である官吏達がやって来たので当日の警備体制について打ち合わせを始める。


 当日の警備は当然、下請けのミナトミュラー家が自分のところの部下を出すつもりでいたが、そこに王城からも近衛兵を一部派遣するという提案がなされた。


「「「近衛兵を!?」」」


 リューをはじめ、レンドとノストラは驚いて聞き返す。


「王城傍での催しですからな。これまで前例が無いですし、もし、怪我人が出たりしたら許可を出したこちらの外聞もよろしくない。ですから、要所要所に近衛兵を待機させ、万全の体制を取りたいのですよ」


 王城の責任者はそう言うと、等間隔で近衛兵を配置する案を地図を拡げて説明する。


「(これは想像以上に大変な大会になるかも……)……わかりました。ちなみに近衛兵のみなさんはうちの指揮下に入ってもらえるのですか?」


 リューは指揮権がバラバラになるのを恐れて、確認した。


「残念ながら近衛隊が王家以外の指揮下に入る事はありえません。当日はこちらの指揮下に入って警備するという形でお願いします」


 責任者は当然のように断ると、頑として指揮権を主張した。


「(なんだ、この違和感……)……それは決定事項ですか?」


 リューは理由を聞く事なく短い言葉で確認する。


「決定事項です」


 責任者も短く答えた。


 まさかね……?


 リューはその明確な返答に何か疑問を持ったようだが、深く追求する事無く、責任者の言葉に「了解しました」と頷いた。


 そして、大会進行の詳しい部分について責任者と最終確認をし、その日は解散するのであった。

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