第464話 拘束されますが何か?

 リューとリーンの二人は路地裏でチンピラ達に絡まれ、一触即発状態になっていた。


「大人しく俺達に従った方が身のためだぞ? 女子供でもうちの奴らは容赦しねぇからな」


 チンピラのリーダーはリューが抵抗の意思を見せたので、再度警告する。


「先程も言いましたが、僕達は善意の情報提供者です。それに対して荒事で従わせるのは感心しません」


「だから、うちの拠点まで大人しく付いて来いって言っているだろう!」


 チンピラのリーダーは聞き分けの悪いリューにしびれを切らしたように言う。


 そして、


「ああ、もういい! 野郎ども、この二人を縛り上げろ。詳しい話は拠点で聞く」


 チンピラのリーダーが最終判断をするとチンピラ達はリューとリーンを拘束するべく不用意に近づいてくる。


 リーンの手首をチンピラが掴もうとすると、リーンは逆に相手の手首をもう片方の手で掴んで捻り上げ、投げ飛ばして地面に叩きつけ、気を失わせた。


 他のチンピラもリューを左右から腕を掴もうとしたが、リューはそのチンピラ二人を両手で引き寄せて顔面をぶつけ、失神させる。


「なっ! ──やはり、只者じゃないな……。うちの奴らはこう見えて腕が立つ。どこの手の者だ。うちと『黒虎一家』を仲違いさせる為に『赤竜会』が寄越した連中か!?」


 チンピラのリーダーは隙なくナイフを構えるとリューの対応に出た。


 そこにこの騒ぎに気づいた他のチンピラがリーンを取り押さえようと新たに包囲した。


「何度も言いましたよね? 善意の情報提供者だって。話が分からないのなら、上の人を連れて来てください」


 リューはせっかくの情報がゆがんだ形で伝わりそうだと思って予定を変更する事にした。


 それに目の前のチンピラのリーダーは思ったよりも強そうなのがわかったからだ。


 先程までの小物感が、ナイフを構えて本気モードになると強者の雰囲気を漂わせ始めている。


 だが、それもリューが相手では分が悪過ぎた。


 リューはチンピラのリーダーの攻撃を何度か躱した後、腹部に拳を叩きこんでその場に膝を突かせた。


「ぐはっ!」


 チンピラのリーダーは吐しゃ物を吐き、動けなくなる。


「良い動きでした。やっぱり『蒼亀組』上層部の関係者でしたか」


 リューは跪くチンピラのリーダーの肩を軽く叩いてそう評価した。


「カゲンの兄貴がたった一発でやれた!?」


「そんな馬鹿な!?」


「兄貴!」


 チンピラ達はこのカゲンというチンピラのリーダーに絶対的な信頼を置いているのかリューに敗れた事で驚き動揺の色が激しかった。


「リーン、この人を治療してあげて」


 リューは決着がついたと判断したのかリーンにカゲンの治療をお願いした。


 リーンが頷いてすぐに治療すると、カゲンの真っ青な顔は見る見るうちに回復する。


「……何の真似だ」


 カゲンはお腹を擦りながら、立ち上がるとリューにそう言う。


「先程の情報、これであなたから上に正しく伝えてくれますよね? それとも、上の人をここに連れて来て僕から伝えましょうか?」


 リューはカゲンにそう念押しする。


「……」


 カゲンはリューの言葉に頷かず、少し考え込む。



 そこへ、


「何をしている!」


 と警備兵が路地裏に入ってきたのだ。


「あらら。邪魔が入っちゃったね。──警備兵の方、僕達、道に迷ってこの人達に絡まれていました」


 リューがリーンと共に手を上げて、そう申し出る。


 こうなるとチンピラ達は連行される事になるだろう。


 と思ったの束の間であった。


「カゲンの旦那、大丈夫ですか? ──おい、この二人を連行しろ」


 警備隊長らしき人物はカゲンを知っているのか、最初から余所者であるリューとリーンが怪しいと判断して捕縛にかかった。


「え?」


 さすがにリューもこれには驚いたが、抵抗はしない。


「ちょっと、あんた達、絡んで来たのはあっちよ!」


 リーンは警備兵の手を振り払ってそう答えるが、リューが抵抗しないので不満顔ながら抵抗を止めるのであった。



 リューとリーンは警備隊の本部に連行され、尋問されていた。


「──だから、絡まれたのはこっちだって言っているでしょ!」


 リーンは正当防衛を口にした。


「カゲンの旦那はこの街の顔役の一人だ。街の治安維持にも一役買ってもらっている。余所者の言う事とその信用のおける人物とどちらを信じると思う?」


 警備兵はリーンの言う事に耳を貸さない。


 確かに絡まれたのはリュー達だが、きっかけ作りもリュー達だから、警備兵の言う事には一理ある。


 その頃、リューの方でも同じように尋問されていた。


「──カゲンという人はこの街の有名人なんですね。それはわかりましたが、こちらの言い分も聞かずに拘束したのは頂けないですよ。あ、それと僕はランドマーク伯爵家の与力であるミナトミュラー男爵です。上の方にお取次ぎを」


 リューは普段貴族の名を笠に着るような事はしないのだが、時間が勿体ないと思って名を口にした。


「え? 男爵?」


 警備兵もそれには驚いて聞き返す。


 事実ならそれはかなりの大問題だからだ。


 リューはマジック収納から男爵の記章を取り出して襟に付ける。


 さらには『王家の騎士』の称号を賜った事で、王家の紋章が刻まれた記章も同じく取り出して襟に付けた。


「お、王家の紋章!?」


 警備兵は、ここで初めて事の重大性に気づく。


「し、失礼しました! 小官では判断が出来ませんので上に知らせて参ります!」


 リューを尋問していた警備兵はそう言うと慌てて尋問部屋から飛び出していくのであった。


 少し開いた扉からすぐに、


「相手は男爵様だったぞ!? すぐに領主様に報告を!」


「あの子供が、だ、男爵!?」


「ヤバいぞ、首が飛ぶ前に領主様をお呼びしろ!」


 とドタバタと裏で騒いでいるのが、耳の良いリーンだけでなくリューにも聞こえてくるのであった。

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