第455話 放課後は疾駆してますが何か?
ある日の放課後。
リューはリーンと共にランドマークビルの自宅へと早々に帰宅していった。
「この数日、やけに二人共帰るの早いよな?」
ランス・ボジーンがそんなリュー達の馬車を見送って周囲に声を掛けた。
「いつものことじゃないか? リューはマイスタの街長だし、イバルはその部下だから忙しいだろう? リズも王宮の公職の為に最近帰るのが早いし、ラーシュもバイト先に向かうのが早い。そんな事を言っているランスだって、親父さんのお手伝いでいつも帰るの早いじゃないか」
シズ・ラソーエの幼馴染であるナジン・マーモルンが最近のみんなについて指摘した。
「それはそうなんだけどな……。あ、ラーシュはあれだろ? リューのところに正式な社員として雇用されたから張り切っているんだろ?」
ランスは自分の事は棚に置いておいて、話をラーシュに振った。
「ボクは雇ってもらった事もだけど、友人としても役に立ちたいから。それに、寮から引っ越したばかりだから、忙しいんだ」
ラーシュはリューの友人として他人行儀な言葉遣いを変えるようにお願いされていたからか、この数日でみんなに対しても気さくな物言いに変更していた。
「じゃあ、ラーシュは置いといて……。──イバル、どうなんだよ、最近。リューとリーン、妙に家に帰るの早くないか?」
ランスはリューの側近でもあるイバルに真相を確認した。
「リューとリーンは仕事だよ。それ以上は言えないな。俺もこの後、マイスタの街に直行して仕事だしな」
イバルはリューとリーンが東部地方を目指してこの数日、放課後は『次元回廊』で南東部に作った出入り口からひたすら北上している事は言わない。
友人であっても仕事について教える義理はないからだ。
「なんか二人共、ここのところ大変そうなのは伝わってくるんだけどな……」
ランスは友人としてそれを察知して悩みがあるなら相談して欲しいと思っての事のようだ。
「リューが本当に困ったら俺達に相談するさ。少なくとも部下の俺にもそんな話は無いから安心しな。あ、最近、馬車に揺られ過ぎて、さすがにお尻が痛いとは愚痴を漏らしてたな」
イバルが、ランスの気遣いに微笑むとリューの不満について教えた。
「馬車に揺られ過ぎ?王都郊外にでも出かけているのか?」
ランスがイバルのヒントに首を傾げて聞く。
「さあな。仕事関係だから、それは言えない」
イバルはこれ以上は駄目とばかりに人差し指を口元に立てて答えた。
「確かに、そうか。──おっと、俺も馬車が来たから帰るわ。じゃあな、お先に!」
ランスはいつも通り、放課後は早い帰宅で学校を後にする。
「結局、ランスは普段通り帰るの早いから、それ以上に早いリューが気になっただけだな」
ナジンはランスの馬車を見送ってそう結論付ける。
「それじゃあ、俺も、帰るよ。──ラーシュ。うちの馬車が来たから行くぞ」
イバルはラーシュと共にシズとナジン、そしてリズに軽く手を振ると、二人で馬車に乗り込んで帰っていく。
「……次の休みの日の新作スイーツのお食事会大丈夫かな?」
シズがみんなの忙しさが心配になったのかそう漏らした。
「きっと大丈夫よ、シズ。リュー君も約束を破るような人じゃないでしょ」
王女リズが一緒に馬車を待っていたシズに声を掛ける。
「そういう事だ。でも、万が一、忙しさで約束が駄目になっても怒るなよ?みんな、用事があるのかもしれないしな」
ナジンが幼馴染のシズを諭すように言う。
「……ナジン君に言われなくても、わかってるもん」
シズはぷっくりと頬を膨らませて、ナジンに言い返す。
「二人共馬車が来たみたいよ」
リズが指摘する通り、王家とラソーエ侯爵家の馬車が連なってやって来た。
「「それじゃあ、また、明日」」
「ええ、二人共ね」
シズとナジン、そしてリズは挨拶すると馬車に乗り込んで放課後の学校を後にするのであった。
その頃、リューとリーンは護衛役のスードも伴わず、馬車に揺られていた。
スードには休みをあげている。
馬車の移動は軽い方が良いし、時間ギリギリまで移動に費やしていたから、その分帰宅が遅くなってしまうスードの同行は無しにしたのだ。
それならリーンもというところだが、それはリーン本人がうんと言うわけがない。
リーンはリューの従者であり、家族であり、半身のようなものだから、リューの行くところはそこが地獄だろうと一緒に行くつもりでいたから、ひたすら馬車で北上する移動にも黙って付いて来ていた。
馬車は当然ながら御者に任せているが、ミナトミュラー家の専属御者で、無茶をお願いしているから特別手当を支払って頑張ってもらっている。
放課後から深夜までランドマーク製最新最速の馬車を持久力と速さを兼ね備えた自慢の馬に引かせて、街道を連日飛ばしていた。
「……毎日何時間も、北上以外の目的もなく馬車を走らせていると、乗っているだけの僕達二人は暇だね……」
リューがこの数日、代わり映えしない移動に飽きて来て愚痴を漏らした。
「リューが言い始めた事でしょ。最後までやり切るわよ」
リーンがリューを叱咤する。
「……そうだね。東部の状況をこの目で確認したいし、当分は我慢だ!」
リューはリーンの叱咤に奮起してこぶしを突き上げるのであった。
「──御者さん。ちなみに今どこの辺りかわかる?」
リューは日が沈み、暗くなった道で慣れたように馬車を走らせる御者に声を掛けた。
「もうすぐスゴエラ侯爵領を抜けるところですね!」
御者は夜道に目を凝らして前を向いたまま、後ろのリューに聞こえるように大きな声で答える。
「え?もうそんなに進んだの!?」
「はい。スゴエラ侯爵領内の街道はよく整備されているし、この馬車も馬二頭が引くには軽すぎるし、研究開発部門が作ったアシスト機能? のお陰で馬が疲れ知らずですから、あっという間ですよ!」
御者は普段からリューを乗せて最新の馬車を操っているから、とても慣れた手綱さばきで夜の街道を飛ばし続ける。
「……そうか。この分なら、本来、一日中飛ばして一週間くらいかかるところを、放課後の移動だけなら二週間ぐらいで移動できるかも!」
リューは三週間を目途に考えていたので、嬉しい誤算だ。
「それは何もトラブルがない場合でしょ? リュー、この先で道を塞いでいる連中がいるみたいよ? ──御者さん止めて頂戴」
リーンがその優秀な探索系能力を駆使して危険を知らせた。
「スゴエラ侯爵領を抜けたら、すぐこれかぁ。御者さん、今日はここまでにしようか。──じゃあ、帰るよ」
「え? 二人でやっつけないの?」
「時間の無駄だからね。『三十六計、逃げるに如かず』だよ」
リューはそう答えると、馬車をマジック収納に戻し、馬を『次元回廊』でランドマークビルの自宅前にリーンと御者を夜の街道で待たせている間に運ぶ。
そして、戻ってくると、
「明日は、改めてここからだね」
リューは夜中の街道でリーンと御者にそう伝えると、『次元回廊』で自宅に帰るのであった。
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