第454話 東部への興味ですが何か?

 現在、王都の裏社会は、当然ながら『竜星組』が最大勢力として力を持っている事は言うまでもない。


 そこに、一番の古参勢力である『黒炎の羊』、そして、その『黒炎の羊』と最近まで抗争し、一時は潰されかけた『月下狼』の三強体勢が維持されている。


 だが、東部地方から最近よく抗争に敗れた組織が王都方面に活路を見出して流れてくる事が多く、一部はすでに王都郊外の街などに組織を構えるなどして王都進出を窺うところもあった。


『竜星組』は表向き、王都周辺に縄張りを持つ大組織であり、外に勢力を伸ばす素振りは見せていない。


 と言っても、遥か離れた南部地方にシシドー一家を使って、エルザの街に拠点を作ってはいるが、これは全然有名ではない。


 王都方面には全く知られておらず、王都では『竜星組』は大きい組織だが、他の縄張りに無法に手を出さない、とても大人しい組織として、藪を突かなければ全然大丈夫という認識が広まりつつある。


 それに南部のシシドー一家の肩書きは、『竜星組』系シシドー一家となるが、シシドー本人はリューから南部での勢力拡大を指示されているので、地元の組織である事を前面に出して反感を買わない立ち回りをしているから、『竜星組』のイメージを損なわない形で勢力を伸ばしつつあった。


「──『黒炎の羊』の内部抗争鎮圧以来、王都に進出しようとする組織の動きがピタリと止まったね」


 リューは天気がいいからと街長邸の庭でメイドのアーサが淹れたコーヒーを飲みつつ、ランスキーからの報告書に目を通していた。


「良い事じゃない。うちの縄張りに手を出したらどうなるか、王都の治安を悪くしたらどういう末路を辿るのか理解したって事でしょ?」


 リーンが、リューの言葉に反応して答えた。


「そうなんだけどね? 同じ王都の勢力である『黒炎の羊』は、方針転換で王都郊外に勢力を伸ばすべく外の組織と接触を始めたらしい。『月下狼』はボスのスクラさんが、改めて力を付けるべく組織の再編成をはじめているし、また、動きがありそうなんだよね。それに東部の抗争はまだまだ終結しそうにないしなぁ」


「『黒炎の羊』の資金力って馬鹿に出来ないわよね……。やっぱり、資金提供元はエラインダー公爵なの?」


「そうだろうね。あそこから潤沢な資金が投入されているからこそ次々に色んな手が打てるんだと思う。それに、前回の抗争で捕まえた蜥蜴人族から聞きだした事も気になるしなぁ」


 リューはしかめっ面になって考え込んだ。


「東部抗争の火種になった『赤竜会』という組織が、東部を支配したらその勢いで王都進出を目論んでいるとかいう話?」


「そう。今、あそこはその『赤竜会』と、王都から一番近い『蒼亀組』、南東部に近い『黒虎一家』の三つ巴になっているから早々に終結しそうにないって報告を受けているけど、『赤竜会』は、そうは考えていなくて王都への足掛かりを着々と進めているというのが蜥蜴人族の情報なんだよ」


「……つまり、東部抗争の勝算があるから、という事ね?」


「そういう事。さすがに蜥蜴人族の連中は大金を積まれてソー兄弟を助けて王都に混乱の元を作れと命令されていただけで、それ以上詳しい情報は聞きだせなかったけど、『赤竜会』の最終的な狙いはこの王都の裏社会を牛耳る事なのは確かだよね」


「東部の組織ってそんなに凄いの?」


 リーンは情報が少ない東部の組織について素直な疑問をリューに聞いた。


「そうだね……。東部地方は一昔前の西部地方だと思っていいかな。西部地方は国境紛争で治安が悪化したところに兵隊崩れなどが集まって出来たのが『聖銀狼会』という武闘派集団だったでしょ?今の東部は貴族同士の争いに連動して同じような状況になっているっぽい。……ただし、その争いも隣国が裏で油を注いで炎上させているのではないかというのがスゴエラ侯爵筋の情報だよ」


「表はともかく裏社会にも隣国が関わっているかもしれないって事ね?」


「僕はそう睨んでいるよ。ただし、それには内部から手招きしている存在が無いと中々成功するものでもないと思うんだけど……。──ここからは仮定の話だけど、それをしているのがエラインダー公爵派閥の関係者じゃないかなと」


「また、エラインダー公爵なの?」


 リーンはうんざりとばかりに呆れる表情をした。


「あくまでも仮定の話だよ。エラインダー公爵が資金援助している『黒炎の羊』が今、郊外に勢力伸ばしているのも東部方面だし、接触している組織も報告だと東部地方から最近、王都郊外の街に勢力を伸ばしてきたグループらしいからね。偶然かもしれないけど、最近の東部の組織と『黒炎の羊』の結び付きは背後のエラインダー公爵によるものだとしたら、点と点が綺麗に結べるんだよ」


 リーンの意見に賛同とばかりにリューもうんざりした表情で答えた。


「……それでどうするの?このまま放置していたら、東部の抗争に『赤竜会』が勝利して進出してくる事になるんでしょ?」


「だから、これから僕は『次元回廊』の出入り口を東部地方にも作る為に、毎日、少しずつ東に馬車を進める事にするよ」


 リューは決意したようにリーンに答える。


「?──それって、南部に続き東部にも勢力を伸ばすって事?」


 リーンはリューの意図があまり掴めず聞き返した。


「勢力を伸ばすかどうかはまだわからないけど、東部の情勢をこの目で確認しておきたいなと思って。だから、これまで『次元回廊』の出入り口は、この街長邸と、王都のランドマークビル、南部のエリザの街、そして、ランドマーク本領だったけど、この街長邸の出入り口を一旦取り消して、東部地方の丁度いいところに設置しようかなという話だよ」


「それってどのくらい時間掛かるのよ」


 リーンが少し呆れ気味に質問した。


 王都から東部までは普通の馬車を飛ばしても一か月近くはかかるはず。


 いくらランドマーク製馬車が早いと言っても、やはり時間はかかるだろう。


「そこは簡単だよ。南東部のランドマーク本家から北に進めば、東部地方には一週間くらいの時間で行けるよ」


 リューはニヤリと笑って、提案する。


「それでも一週間もの間、学校はどうするの?」


「あくまでも空き時間の間に進んで時間が来たら出入り口を設置して、帰宅。用事が済んだら、また、空き時間に設置した場所からまた進む、の繰り返しだよ。これなら無駄な時間を浪費せずに済むし、王都では速すぎて走らせられないスピード重視のランドマーク製馬車のテストも出来て一石二鳥だよ!」


 リューは自信満々に笑顔で答える。


「……それって学校以外での他の仕事の事考えてないでしょ?」


 リーンの当然の指摘に、リューは「あ!」となる。


 どうやら指摘通り、考えていなかったらしい。


「そこは、また、時間調整……、しようかな?」


 リューは苦笑すると東部地方での情報収集を兼ねて空き時間には馬車を走らせる決意をするのであった。

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