第451話 制圧ですが何か?
ルチーナとその分身、そしてスードの三人は蜥蜴人族の男の宣言通りの猛攻に守勢に回っていた。
蜥蜴人族の巨体はその大きさに反して動きが速い。
だが、ルチーナと分身、そしてスードの三人はその上を行く俊敏性で躱しているが、攻撃に転じられる程ではない。
「ほらほら、どうした!躱してばかりじゃ俺には勝てないぞ!──これならどうだ!」
蜥蜴人族の大男はその巨体で飛び上がり、手にした剣をルチーナに振り下ろしてきた。
ルチーナはそれを難なく躱す。
大技の後だ、蜥蜴人族の大男はバランスを崩した。
「隙あり!」
ルチーナとスードはその隙を逃さず、反撃に出ようとする。
すると、
「かかったな!」
蜥蜴人族の大男は、バランスを崩したと思われる前屈みの状態から身をよじると、股の下から鋼鉄の塊が付いた尻尾の先端がルチーナを襲った。
ルチーナはその直撃を正面から受け止める形になる。
「まずは一人だ!」
蜥蜴人族の大男が手応えを感じた事で本体を仕留めたと確証したのだろう、そう宣言した。
「それは私の分身よ!」
もう一人のルチーナが応じると、分身のルチーナの姿がかき消えた。
蜥蜴人族の大男はその事に驚く。
確かに手応えはあったのだ。
実体がある分身など聞いた事がない。
そんな驚愕する蜥蜴人族の大男の隙をスードは見逃さなかった。
ルチーナもそれは同じで、相手にドスを構えて飛び掛かる。
蜥蜴人族の大男は、正面のルチーナに対してのみ反応して、剣を振り下ろそうと右手を振りかぶる。
そこに死角から距離を詰めたスードが専用ドスに魔力を込め、必殺の光の刃『聖光剣』でその長さを倍にし、蜥蜴人族の右腕を切り落とす。
それに対してルチーナは躊躇する事無く踏み込むと専用ドスで蜥蜴人族の大男の腹部に突き刺した。
だが、硬くて奥まで貫き通せず止まる。
しかし、ルチーナが再度分身を出して、そのドスを一緒に奥まで貫いた。
「ぐはっ!」
蜥蜴人族の大男は、白目を剥いてその場に倒れるのであった。
リューの相手をしていた蜥蜴人族はリューの一撃でその場に四つん這いになっていた。
誰から見てもこれは勝負ありである。
信じられない事だが、小さい少年が二倍近くある巨体で異種族の男をわずか一発のパンチで膝を突かせた形だ。
「……目が死んでないなぁ。僕が近づいたら組み伏せようと狙っているよね?」
リューは膝を突いた蜥蜴人族の男に聞く。
「!」
痛みに冷や汗をかく蜥蜴人族の男はリューが勝利を確信し近づいてくるところを掴みかかるつもりでいたから、図星を突かれ目を見開く。
「喧嘩っていうのはね、相手の心をへし折った時に初めて勝敗がつくんだ。だから相手が膝を突いても、倒れてもその時点では勝ちにならない。──君、まだ、勝負は着いてないと思っているよね?それなら、僕は手加減しないよ?」
リューはそう宣言すると、一歩踏み込む。
蜥蜴人族の男は騙し討ちも不可能と見るや、
「くそー!」
と叫ぶと、リューに覆いかぶさるように掴みかかった。
次の瞬間、バリバリという音と共に、蜥蜴人族の男の体に青白い電気が幾重にも走った。
そして、リューの脇に倒れ込む。
「魔力を加減したつもりだけど、『
リューはそう言うと、抜き放った自分専用のドスに感心して一目見直すと、それから鞘に戻して、マジック収納に納める。
リーンの方の勝負は、尻尾を切り落とされた蜥蜴人族は完全に戦意喪失していた。
一応、仲間の手前、リーンと睨み合っていたが、他の二人が敗れるのを確認すると、負けを認め、止血を頼み込んできたのだ。
「……骨がないわね」
リーンは呆れるとその蜥蜴人族を拘束してから、止血をしてやる。
リューはルチーナとスードが倒した蜥蜴人族の大男を治療するようにスードにポーションを渡した。
そして、
「ルチーナ、君は他の部下達の支援に回って。怪我人は僕達が治療するから」
「了解、若」
ルチーナは汗を拭うと、部下を連れてまた、室内の制圧に向かうのであった。
こうして、王都の『黒炎の羊』の縄張り内で起きていた内部抗争による治安悪化は、『竜星組』の介入により、わずか数時間で収まる事になった。
これにより、警備隊、王国騎士団も表立った動きを中止した形だ。
もちろん、これにはマルコが『竜星組』を代表して、警備隊、騎士団両者の代表と密会して話をまとめたからでもある。
「若、お疲れ様でした。こちらはちょっとあちらが難色を示してましたが、捕縛した流れ者の引き渡しを条件に一日の猶予を得て、話はまとまりましたよ」
マルコが、『竜星組』本部事務所に戻ってきたリュー達を出迎えて、そう報告した。
「ご苦労様。こっちも戻って来る途中に、警備隊本部に捕縛した連中を届けて来たよ。──あ、だからか? まだ、数時間しか経っていないから、あちらも驚いていたなぁ」
リューは長布の覆面を外しながら、マルコに答えた。
リーンやスードも覆面姿から元に戻る。
「今回はルチーナが大活躍だったね」
「何を言ってんだい、若。私はスードと協力して蜥蜴野郎を一人倒すのがやっとだったじゃないか」
ルチーナは、ボスの手を煩わせた事を気にしているようだ。
「何をいっているのさ。全体の指揮も含めて、ルチーナがいないと今回の介入作戦はもっと時間が掛かっていたよ。ありがとう」
リューはルチーナを再度褒めると、マルコと少し話してこの後の指示をして、そのまま、再度馬車に乗り込む。
「じゃあ、あとはみんなに任せるね。明日、学校でテスト結果の発表だから朝、早く起きたいんだよね」
リューは学生の表情に戻ると、リーン、スードと共に自宅であるランドマークビルに直帰するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます