第452話 台風の目でしたが何か?

 テストの結果発表当日の朝。


 リューとリーンはランドマーク製の馬車で早くに登校した。


 玄関前には発表を期待してかリューの想像よりも早く登校している生徒が多くいたから、馬車も生徒を下ろす順番待ちをしている。


 その列に並んでいたリューとリーンであったが、


「ここで降りるよ」


 とリューが提案して玄関の手前で御者に降ろしてもらった。


 リューとリーンの他にも手前で降りる生徒は何人かいて、その同級生達に朝の挨拶をしながら玄関に向かう。


 そこに丁度、馬車からランスが降りてきた。


「お? リューとリーンおはよう。今日は早いな!」


「おはよう、ランス。そう言うランスも今日は早いじゃない」


 リューは友人の挨拶に答えてから聞き返した。


 ランスはテスト前から意気込みが激しかったが、どうやらその気持ちは今も変わらないらしい。


「俺は今回、手応えがあったからな! リューとリーンの牙城は崩せないにしても、他のみんなの順位を脅かす事は出来たと思っているぜ!」


「おお。本当に今回は意気込みが違うなぁ。でも、僕も油断していたら、リーンやリズ達に追い抜かれる可能性があるからね。うかうかしていられないよ」


 リューはいつも通りの雰囲気だが、勉強も含めて日頃の努力を怠っていないから、そこに油断は全く無い。


 リーンもそれを傍で見ているから一緒に努力もするが、だからこそリューには敵わないとも実感している。


「あ、イバル君も来た」


 玄関手前で三人が話し込んでいると、そこにイバルが登校して来た。


「早いな、三人とも」


 イバルがリューとリーン、ランスの三人の姿を見て驚く。


 そこにもの凄いスピードの自転車が玄関傍のスペースに勢いよく停車した。


 スードである。


「主、リーン様、おはようございます!みなさんもおはようございます!」


 スードは自転車を盗難防止魔法を起動させて駐輪すると、すぐにリューの元に駆け寄り、その後ろに立つ。


 いつもの定位置だ。


「今日はみんな早いね」


 リューはみんながテスト結果を気にしている事がおかしくて微笑ましく感じた。


「ここで話していても、テスト結果わからないから、そろそろ中に入ろうぜ」


 ランスがうずうずして我慢できなくなり、みんなを促す。


 そこへ、寮からの通学組であるラーシュが特徴的な長い耳のシルエットでやって来た。


「あ、ラーシュおはよう」


 リューが今回の台風の目であるラーシュに挨拶をする。


 そして、みんなも挨拶を交わしながら、玄関に入った。


 いつもの玄関の奥の広いスペースの奥にある掲示板には、まだ、結果発表が張り出されていない。


「やっぱり、早く来すぎたかぁ」


 リューが苦笑すると、ランスはちょっと落胆、イバルは冷静に無言、スードはリューの傍で普段通り、ラーシュは少し緊張していたのか溜息を吐く。


「あ、先生達が来たわよ」


 リーンがリューに声を掛けて、指差す。


 リーンの言う通り先生達が丸めた紙の筒をいくつも運んで来て、掲示板に張っていく。


 張り出す順番としては最下位の方からだったので、早く見に来た生徒の中にはあからさまに落胆する者もいる。


 どうやら想像より成績が悪かったのだろう。


「小遣い減らされる……」


 そうつぶやいた生徒は、とぼとぼ教室に歩いていく。


「みんなテスト結果で色々あるんだね……」


 リュー達もそれを見て気を引き締めていると、上位の成績の紙が張り出された。


「やっぱり、リューとリーン、リズの三人に変動は無しだな」


 イバルが難しい顔をして、その一角に入れなかった事を残念そうにつぶやく。


 そうなると四位から下が大事になってくる。


 イバルは前回ナジンを抜いて四位であったから、その順位は保持したいところであった。


 しかし──。


 一位 リュー・ミナトミュラー

 二位 リーン

 三位 エリザベス・クレストリア

 四位 ラーシュ

 五位 イバル・コートナイン

 六位 ナジン・マーモルン

 七位 シズ・ラソーエ

 ・

 九位 ランス・ボジーン

 ・

 ・

 ・

 二十八位スード・バトラー


「ラーシュが四位!?」


 イバルはナジンと四位争いをしていたので、目に飛び込んできた自分の名前の位置が五位である事がわかって「ナジンに負けたか……」と思い、四位を確認すると想定外であるラーシュの名前があったから、正直愕然とした。


「わ、私が四位……」


 本人のラーシュでさえ驚いて固まっている。


「くそー!俺、九位かよ!結局、みんなその上か、強すぎるぜ!──って、どうした?」


 ランスは他の仲間の順位に気づかず、固まっているイバルとラーシュのただならぬ様子を見て聞く。


 そこに、シズとナジンが登校して来た。


「……みんな、おはよう。順位はどうだった?──はっ!私下がってる……!」


 シズがみんなの様子に気づかず、挨拶して張り出された成績一覧を見て、固まった。


「シズ、下がったのか?自分はどうかな、手応えはあったんだが、イバルが五位という事は……、──って、ろ、六位だと!?」


 ナジンはイバルの五位という順位がまず目に入り、期待して四位を見ようとしたところ、六位に自分の名前がある事に気づいてこちらも固まった。


「……はははっ。今回はラーシュが本当に台風の目になったね」


 リューは結果的に成績順位の維持、もしくは前回より浮上した者には新作スイーツを奢るという約束していたのだが、それがリーンとリズはやはり不動。


 新星のラーシュが、四位に飛び込んだ事で、抜かれて順位が下がったイバルとナジン、シズは新作スイーツが無しという事になった。


 ランスとスードは前回の成績から大きくランクアップしているので、食べられる。


 どちらにせよ、今回は西部地方の学校で神童と言われていたラーシュが、その実力をいかんなく発揮したテスト結果になった。


「わ、私が四位……。今回、調子良いとは思っていたけど……、頑張ってきて良かった……」


 ラーシュは一時固まったままであったが、リュー達新たな友人達に好成績を祝福されると、ようやく安堵の息を漏らし、この結果を素直に喜ぶのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る