第449話 部隊の活躍ですが何か?
ミナトミュラーの表と裏、どちらの問題にも対応するのが、ルチーナの実戦部隊である。
ミナトミュラー商会の他所とのトラブルにも、表向きは用心棒として問題を解決するし、竜星組のトラブルには兵隊でも解決不可能な問題を解決する為に動く。
それが、ルチーナの部隊の役割だ。
今回のように表立って竜星組の介入を示唆する動きが出来ない場合に活躍している。
他にもランスキー直下の部隊があるが、これはミナトミュラー家直属であり、こちらは情報収集が主体だが、基本、何でもありの精鋭だ。
こちらはリューやリーンが直接動かす兵でもあり、基本はリューの手足となる事が仕事だから、国家の仕組みで言うと近衛隊と諜報隊を兼ねたようなものだろうか。
そんな役割の違いがあるから、今回、『黒炎の羊』の内部抗争介入にはルチーナの部隊がうってつけである。
そこにリューとリーン、護衛のスードが後詰として参加する事にはルチーナも珍しい事もあるものだと、不思議に思っていた。
いつもならリューは、指令を出して終わりだ。
それは裏を返せば、部下を信じて任せているからで、ルチーナのみならず、ランスキーやマルコもノストラの幹部全員はそれに応えて完璧な仕事をしている。
だから今回のように参加してくる事は非常に珍しいのだ。
それに、リューは顔が見られると非常にマズい立場でもあるから、そういう仕事は、幹部達に任せるのが基本であった。
「若、もしかして今回の仕事、何か引っ掛かるものがあるのかい?」
移動の馬車内でルチーナがリューに質問した。
「うーん……。なんというか『黒炎の羊』は王都でも指折りの大きな組織じゃない?それが、頭であるソー三兄弟を失った流れ者集団にここまで遅れを取り、警備隊や騎士団の介入寸前までになっている事が、気になってね」
「……裏で動いているものがあると?」
ルチーナは情報にない問題がある疑いをリューが抱いていると解釈した。
「いや、内部抗争の広がり方からみて、そこまでは感じないんだけど、少なくとも流れ者集団の核になるような腕利き連中が存在しているとは思う。それらがいるから、『黒炎の羊』はてこずっているんじゃないかな。それが存在した場合、うちにも被害が出る可能性があるから、僕達はその対処にあたろうかなって」
リューはルチーナに今回の参加を説明した。
その頃には馬車は『黒炎の羊』縄張りとなっている王都の南東地域に入っていた。
ルチーナはこの地域の地図が頭に入っているから、馬車の窓から外を見て、流れ者達の拠点になっているところの手前だと確認した。
「若、あたし達は行くけど?」
ルチーナはリューとリーンに視線を送って、この後の動きをどうするのか聞く。
「僕達は後ろから様子を見ておくから後はよろしく」
リューは首に巻いた長布を顔に巻き直す。
リーンとスードもそれを見習う。
「わかったよ。──野郎ども、行くよ」
ルチーナは近くの部下にしか聞こえないような声で動き出すと、部下達は心得たようにぱっと動き出す。
「良い動きだね。やっぱり訓練が行き届いてる」
リューは満足してその後をリーン達と共に追うのであった。
ルチーナの部隊は『黒炎の羊』縄張りで今は流れ者達の縄張りとなった各場所で、流れ者達を襲撃、拘束していった。
隠れ家でゆっくり食事をしている者もいれば、丁度、『黒炎の羊』の事務所を襲撃している連中もいたし、本拠点となっている場所で待機している者など、そこには指揮系統がバラバラな無秩序さが見られたが、そんな事はお構いなしに、五人で一組のルチーナの各部隊は仕事をこなしていく。
特徴的なのは、各拘束場所ではバチバチという瞬間的な音と一瞬の眩い光が見られた後には、流れ者達が気を失って無力化されている事だ。
これはもちろん、リュー監修、マッドサイン制作、『雷撃』内蔵ドスの活躍のお陰である。
ルチーナの部下達は無駄な動きをする事なく、ドスを使用して、流れ者達を次々と失神させて拘束すると、袋を頭に被せて馬車に乗せて運んでいく。
あまりの手際の良さに、近所の住民達は、流れ者達の騒ぐ声がなぜか止み、静かになった事に、「?」となっていた。
しかし、窓から外を覗いて確認するような愚を犯さなかった為、ルチーナの部隊の馬車を目撃する事無く、音だけで状況を確認する。
「今日は表を走る馬車が多いわ……。でも、あいつらの声が聞こえなくなっただけマシよね……?」
外に不用意に出て絡まれると危険だから外出を控えている主婦が、幼い娘の頭を撫でながら自分に言い聞かせる。
その間に、この地域の治安は、みるみるうちに良くなっているのであった。
その時、ルチーナ率いる本隊は流れ者の本拠点を襲撃していた。
派手な大捕り物は無く静かにそして速やかに、拠点の流れ者達をドスの『雷撃』で失神させ、拘束していく。
部下が、拠点の建物の奥に慎重に入っていくと、突然、扉が内側から蹴られ、その前で踏み込もうとしていた部下達が数名吹き飛ばされた。
「おいおい、誰に断って俺らの縄張りに踏み込んでんだ?」
扉を蹴破った主だろう。
大きな体に上半身鱗が生えた蜥蜴人族が、三人出てきた。
蜥蜴人族は頭部はほぼ蜥蜴で、舌は蛇のように長い、比較的に珍しい亜人種だ。
それに、蜥蜴人族の中でもかなり、大きな体躯でその大きさは天井に頭がつきそうな程である。
「……こいつらが、『黒炎の羊』が手を焼いている原因かい」
ルチーナは、そう確信して溜息をつく。
「あん?なんだ、女。お前がこいつらのボスか?俺達は用心棒さ。こういう時の為にお前ら王都の弱い連中を数人殴り倒して実力差を示し、バランスを保つのが仕事さ」
蜥蜴人族の一人が、そう言うと、
「ぼろい商売だよな!」
と、違う蜥蜴人族が笑ってみせた。
「俺達はいつまでも『黒炎の羊』と、東部の連中が争える程度に力を振るって、報酬をずっと貰うだけだからな!ぎゃははっ!」
と、抗争を終わらせる気はないという風に笑って見せる。
「ちっ、クズが。こんなでかい蜥蜴野郎の相手は初めてだが、相手してあげるさね」
ルチーナはそう告げると、幹部専用のドスを抜いて構えるのであった。
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