第444話 開店予定ですが何か?

 二年生最初のテストは、問題らしい問題も起きる事無くその日程を終えた。


 相変わらずリューとリーンは別次元とも言える内容を実技テストで見せていたから、ランス達みんなはお手上げ状態であった。


 しかし、ずっと三位を走る王女リズはその牙城を切り崩すべくリューの唯一苦手なダンスでかなり頑張っていたが、どこまで二人に追いすがる事が出来たかわからない。


 そして、そのすぐ下を走るイバル、ナジン、シズも全体的に成績を伸ばしており、上位四人の一角に食い込みたいところであった。


 そんな上を見ている友人達に勝つべく、ランスやスードが虎視眈々と狙っているという状況だ。


 そして、ラーシュは筆記も実技も淡々とこなしていたから、あまり目立っていなかったが、リューからするとかなり好成績を出している気がしていた。


 リーンも同じ感想だったのか、


「リズ程ではないけど、もしかしたらラーシュ、いい線行くような気がするわ」


 とリューに漏らした。


「でしょ? ラーシュの実技の方を観察したんだけど、剣や魔法、作法にダンスも派手さはないけど加点要素をちゃんと押さえてて効率が良いんだよね。そして何より正確だから感心した。あの分だと筆記もかなり期待できそう」


 リューは予想以上のラーシュの実力に楽しそうだ。


「みんな足をすくわれる可能性があるわね」


 リーンも同じく楽しそうにすると、一週間後のテスト結果発表を楽しみにするのであった。



 テスト期間が終了した事で、リューは、控えめにしていた忙しい仕事に戻る事になった。


 大幹部達に任せておく事も出来るのだが、トップのリューが動いてくれると現場も大いに助かるのは事実だ。


 南部抗争も終え、そこに派遣していた部下達も今はマイスタの街と王都での仕事に回ってくれているから今は少し余裕がある。


 と言っても、人手はいくらでも欲しいくらい急成長を続けているランドマーク本家とミナトミュラー家であったから多いに越した事はない。


「それじゃあ、今日はこのまま帰りにランドマーク本家が王都に展開する予定の飲食店の視察をして、その後は例のブツの実用化を開始したマイスタの本部事務所に顔を出して使い勝手を聞いてみようか」


「本家の看板が王都中に見られるようになるのは嬉しいわね」


 リーンは嬉しそうに答える。


「主。例のブツとは?」


 スードがピンとこないのかリューに、説明を求めた。


「それは後でのお楽しみかな。スード君にも後で渡すから、期待しておいて」


 リューは意味深に答えると、馬車に乗り込むのであった。



 ランドマーク本家は喫茶『ランドマーク』の人気メニューであるスイーツを特化させ、それを専門店として王都に展開するべく、いくつかの土地を押さえている。


 ランドマークビルは王都の中心通りから一つ入ったところの一等地にあるが、今回のお店はそのさらに上の超一等地である上級貴族地区、下級貴族地区に出店予定だ。


 そして、王都の商業地区の中でも全国の飲食店が集まる食い倒れ通り、さらには専門店が軒を連ねる鍛冶屋通りなどにも出店予定だから、リューはその候補の一つである上級貴族地区を訪れた。


「貴族が好きそうな派手な建物が多い場所だけど、静かね。これ大丈夫かしら?」


 賑わいとは程遠い感じがする雰囲気の場所に売却済みの看板が立っているのを確認しながらリーンが心配を口にした。


「そうなんだけどね。上級貴族からのクレームが多いんだよね。ランドマークビルまでがこの上級貴族地区からは微妙に遠いとか、順番待ちが大変とか、ゆっくりできないとかね」


「お貴族様はワガママね」


 リーンが呆れる素振りを見せる。


「だから、ここに店を構える代わり、値段も上級貴族向けにする予定だよ。もちろん、素材や見た目も変更を加え、それで特別感を出してぼったく……、じゃない、高級感を与えてそれにふさわしい価値を付ける。あとはサービス面かな」


「サービス面?」


「うん。新作なんかを一足先にこちらで出して特別感を感じてもらうとか、従業員も貴族相手の教育を施しておくとかね。上級貴族ともなるとお茶の入れ方、従業員の所作にもうるさいから、一段とその辺りの教育はしっかりしとかないとね」


「それならランドマークビルの従業員はみんな優秀じゃない。未だに引き抜こうとする貴族がいるくらいでしょ?」


「それは確かにね。でも、上級貴族はそうでもないかな。あのクラスの使用人やメイドは元が下級貴族の子息令嬢とか最初から教育を受けているレベルだからね。その人達が唸るような従業員教育をしておきたい!」


 リューはどうやら、ランドマーク家の名を上級貴族にただの成金じゃないよ?と知らしめる為に上級貴族地区にお店を作ろうとしているようだ。


「それファーザ君は納得しているの?」


 リーンが呆れた様子で聞く。


「お父さんは上級貴族からのクレームが無くなるなら、必要経費と考えているみたいだけど、細かい現場の事は下請けのうちに一任されているからね。ある程度は僕の好きにしていいはずだよ!」


 リューは拡大解釈をして、俄然やる気を見せている。


「良くなるならファーザ君も納得するだろうけど、お金かけ過ぎて後が大変って事にならないようにした方が良いわよ?」


「それは大丈夫。この店舗だけが特別仕様で後は、普通の価格の店舗にするから」


 リューはニヤリと笑みを浮かべると、広い超一等地を前に完成予想図を脳裏に描くのであった。

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