第443話 もうすぐ中間テストですが何か?

 リュー達は、二年生最初のテスト期間に入ろうとしていた。


 リューをはじめとしたクラスの隅っこグループは、王女リズ、普通クラスの好成績者であるスードを迎えて完全にクラスの優秀なグループになっている。


 そこに、転入生であるラーシュも加わった。


「ふふふ。今年の俺は一味違うぜ?リューとリーン、リズのトップ3は別として、イバルやナジン、シズを抜いて上位に入る為に密かに勉強していたんだからな!」


 ランスが授業で先生からテスト期間に入るからとの知らせを聞いた休憩時間にそう宣言した。


「おお!今回はランス、気合入っているね!」


 リューが友人の気合の入り方に感心する。


「二学期末の順位ではランスは16位だったよな?……だが、今回はトップ3以外に負けるつもりはないぞ」


 ナジンが前回、イバルに抜かれて5位だった事を意識しながら答えた。


「……ナジン君、上ばかり見てたら私が抜くからね?」


 前回、6位だったシズが珍しく幼馴染に警告した。


「私もリュー君とリーンに勝つ為に頑張っているから、いつもの順位のつもりでいるつもりはないわ」


 王女リズが、みんなが盛り上がっている輪に入ってきた。


 これはかなり、珍しい。


 普段ならそんな負けん気を見せる事がないからだ。


「1位のリューはともかく、私も2位の座を譲るつもりはないからね?」


 リーンがリズの負けん気に、楽しそうに答える。


「僕もいつリーンやリズに抜かれるかわらかないからぁ。でも、みんなダークホースがいる事忘れていない?」


 リューがテスト前で盛り上がる友人達に大事な指摘をした。


「「「「「「?」」」」」」


 全員が一瞬誰の事だろうと、疑問符を浮かべた。


「ああ!スードか!前回55位だったもんな。だが、俺はまだ、スードに剣以外で負ける気はないぜ!」


 ランスがリューの背後で静かに話を聞いていたスードを指差した。


「スード君もだけどね?──このクラスに転入してきたラーシュを忘れているよね」


 リューはそう言うと、みんなの話の輪にどうやって入ろうかとそわそわしていた兎人族の友人に注目した。


「「「「「「「「あ!」」」」」」」」


 これにはリーンやリズも空気のように静かにしていたラーシュに視線を送った。


 確かにリューの言う通り、外からの転入でこのクラスに入って来るという事は相当な成績のはずなのだ。


 ちなみにリューは西部地方の情報収集の一つとしてラーシュの以前の学校での成績などについても調べ上げていた。


 ラーシュは以前の学校では休みがちで退学寸前だったが、テストの成績は常に一位で神童と呼ばれていたらしい。


 確かに聖銀狼会での参謀役を務めていた時もその智謀は目を見張るものがあったから、頭が切れるのはわかっていた。


 だから、リューはラーシュが今回のテストの台風の目になると見たのだ。


「……確かに、ボウリングの時も運動神経の良さを見せていたな」


 イバルが盲点だったとばかりに先日の楽しい思い出を振り返った。


「わ、私は大した事ないですよ。以前の学校では成績良かったけど、王都ではどのくらいなのか全くわからないですし……」


 ラーシュが学園での自分の成績がどの程度の位置なのか全くわからないから謙虚に答えた。


「ラーシュさんは剣などの武術、魔法の実技は得意なの?授業ではそつなくこなしているイメージがあるけど」


 リズがリューの指摘でラーシュに注目した。


 もしかしたら、自分より上の可能性もあるのだ。


「一応、前の学校では剣術、魔法とも一位でしたけど、地方の学校なのでよくわからないです」


 ラーシュは自分に対するハードルが上がる事を恐れて地方を強調した。


「ははは!でも、転入したばかりのラーシュにはさすがに負けないぞ!」


 ランスはそんなラーシュに宣言する。


「そうだな。王立学園と地方学校の授業内容も大分違うだろうし、転入したばかりでは授業に慣れるのが優先で上位に入るのはさすがに難しいかもしれない」


 ナジンも環境の適応が大変なこの時期のラーシュに好成績を求めるのは難しいだろうとの配慮からそう指摘した。


「……でも、このクラスにいきなり転入してきたくらいだから、上位に入れるかもしれないよ。頑張ろうね」


 シズがラーシュに励ましの言葉を掛ける。


 どうやら、ボウリング大会のお陰で女性陣の距離はかなり縮まっていたようだ。


「ラーシュは出来る子だから、リュー以外の男子は油断していたら負けるかもしれないわよ」


 同じくボウリングで距離が縮まったリーンがラーシュを評価してイバル達に発破をかける。


「油断していられないな!」


 イバルが不敵な笑みを浮かべて頷く。


「よし、今回のテストで、俺はこの仲間内で上位に入る!」


 ランスは大きな目標を掲げた。


「ランス、かなり自信があるみたいだな。自分もイバルを抜いてまた、4位に返り咲く」


 ナジンも抱負を述べた。


「自分は前回の順位から上に行ければ御の字です」


 スードは控えめに答えた。


「じゃあみんな。前回の順位の維持、もしくは上がった人には喫茶『ランドマーク』の新スイーツを奢るね!あ、ラーシュはこの中の誰か一人にでも勝てればOKだよ」


 リューが張り切っている友人達を盛り上げる為にそう提案した。


「「「「「「「いいね!」」」」」」」


 ランス達は思わぬ賞品にまたやる気を見せると、それからのテスト開始期間までの間、より一層勉強に励むのであった。

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