第445話 実験してましたが何か?

 王都の上級貴族地区でお店の建築予定地の下見をしたリューは、そのまま、ランドマークビルに一度戻り、そこから『次元回廊』でマイスタの街に行く。


「お帰りなさい、若」


「「「若、姐さん、お勤めご苦労様です!」」」


 マイスタの街長邸にリューが現れると、ランスキーをはじめとした部下達が出迎えた。


 これもいつもの事である。


「うん、みんなご苦労様。──あ、ランスキー、みんなにあれは行き届いた?」


「あれの事ですかい? 一応、ここに常駐している古参の連中と竜星組本部事務所の部下達、後は王都の各事務所の上層部には渡し終えてます」


 ランスキーはニヤリと笑うと懐からドスを出して見せた。


「ああ! それの事か!」


 ランスキーが自慢げに見せるドスを見て、リューの護衛役であるスードは例のアレの正体がようやくわかって納得した。


「スード君の注文にあった耐久性切れ味を上昇させたものは開発に時間が掛かっていて、マッドサインも苦労したみたいだよ。はははっ」


 リューはそう言うとランスキーの部下がスード用のドスをリューに差し出す。


 それを受け取ったリューがスードに直接渡した。


「……これが、自分専用のドスですか……」


 スードはそう言うと、ドスを鞘から抜いて中身を確認する。


「いいでしょ? ──あ、魔力を込めてみて」


「はい? ──では」


 スードはリューに言われるまま、ドスに魔力を込める。


 するとドスの全体が発光し、光の刃が倍くらいに伸びた。


「おお!?」


 スードは驚いてリューを見る。


「ふふふ。スード君が『聖騎士』のスキル持ちだとマッドサインに教えたら、そのスキルを引き出す形にしましょうって、考え始めてこの仕様にしたんだ。あ、もちろん、魔力を込めている間は耐久性、切れ味も上昇するよ」


「これって『聖騎士』の上位剣技の一つである『聖光剣』ですよね? 自分はまだ、使えないはずなのに!」


 スードは興奮気味にリューに聞き返す。


「厳密には、そのドス版だね。簡易的なものだけど、気に入った?」


「もちろんです、主! こんな凄いもの頂いていいんですか!?」


「僕の護衛役だから当然だよ。あ、仕事辞める場合は返却してもらうよ?」


 リューは冗談っぽく答える。


「もちろん、辞めませんよ! 自分の忠誠は生涯、主の下にのみあります!」


 スードはそう言うとリューの前で跪きドスを恭しく捧げ持つ。


「うん。ありがとう。これからも励んでね」


「はい!」


 スードの返事にリューは満足げに頷くと、やって来た馬車に乗り込む。


 目的地は竜星組本部事務所だ。


 マイスタの街を馬車で進むとすぐに事務所には到着した。


 事務所前ではリューを出迎えしようと組員達が並んでいたが、何やらざわざわしている。


 何かあったようだ。


「──どうしたの?」


 リューが馬車から降りると、迎えに出てきたマルコに声を掛ける。


「いえ、若い連中が例のアレを支給してもらった事に喜ぶあまり、試しに仲間内で使用しまして……」


 マルコが言っているのは今日支給したドスの事だ。


「使用って……。それでこの騒ぎなのね?」


 リューは呆れて苦笑する。


「はい。騒がしくてすみません」


 マルコは申し訳なさそうにした。


「それで、効果の程は?」


 リューも部下に支給した自分のドス、『異世雷光いせのらいこう』の劣化版の威力は気になるところであったから確認した。


「使用した本人は大丈夫ですが、使用された奴は感電して失神したようです」


 マルコが言いづらそうに報告する。


「? まあ、そのくらいの威力で落ち着いているなら問題ないんじゃない? それにしては騒がしくない?」


「それが……、その……、馬鹿どもが、興味本位で同じような事を四件ほどやっちまいまして……」


「ちょっと、何やってるの!」


 一件ならいざ知らず、四件ともなると確かに馬鹿どもと言われても仕方がないところだ。


「どうも、最初の失神した奴を見て、体力自慢の連中が、耐えられるか試してみようと言い出したみたいです」


 マルコが溜息交じりに報告を続けた。


「……はははっ。向こう見ずな行動するのはうちの連中らしいけど……。それで耐えられた部下はいたの?」


 リューは呆れたが、部下達が頼んでもいない実験をしてくれたので結果が気になった。


「今のところゼロです」


「おお……。それは良い報告。死人は出ていないよね?」


「それはもちろんです。あれなら大概の奴は一発で無力化出来ると思います」


 マルコも馬鹿な部下の勝手な実験には呆れたが、その威力には満足しているようだ。


「……それにしてもまだ、裏で騒いでない?」


 リューは良い報告が続いているので、喜ばしいのだが、事務所内はまだ、バタバタしているのが気になった。


「失神した時にその……、漏らした奴がいまして……、その処理に騒いでます。ですからまだ、事務所内には入らない方が良いです」


 マルコは最初から時間稼ぎをしてリューを中に入れさせないようにしていたのだが、その理由を打ち明けた。


「ああ……、なるほどね……! 感電による失神はそういう事起きるよね……」


 リューもマルコの報告に納得してその威力の副産物に苦笑いするのであった。


 そして、後ろで黙って聞いていたリーンに声を掛ける。


「リーンの『清潔』魔法で掃除してくれる?」


「もう、仕方ないわね、手が掛かるんだから。──ちょっと、誰か案内して」


 リューのお願いに、リーンが困った様子を見せる事無く応じる。


 すると若い部下達は、


「こちらです、姐さん!」


 と、我先にとリーンを現場に案内する。


 相変わらずリーンはどこに行っても人気だ。


 リューはリーンが室内を魔法で綺麗にしている間、事務所の表でマルコと世間話に花を咲かせるのであった。

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