第440話 対決の行方ですが何か?
マイスタの街郊外の娯楽施設。
そこで、二年生男子チーム、二年生女子チームとリューの妹のハンナ。
そして、一年生チームの三チームでボウリング対決が行われようとしていた。
周囲にはマイスタの領民達がお客として来ているので、すぐに領主であるリューとその従者であるリーンとスードに気づき、温かい声援が送られ始める。
「若様、リーン様、がんばれ~!」
「あれ、チーム同士での対抗戦みたいだぜ?」
「じゃあ、若様とリーン様が対戦するのか。……うん? リーン様のチームに高貴そうな方やどことなく若様に雰囲気が似ている小さい女の子がいるな……」
「どれどれ? ……あ、本当だ。確かに若様に雰囲気が似てる可愛い子だな。もう一人は……、あれ、エリザベス第三王女殿下じゃないか!?」
「マジか! どちらのチームを応援すればいいんだ! ……ところでもうひとチームあるがあれは誰だ?」
「ああ、あれは勇者チームらしい」
「勇者チーム? ああ、王都で今、大人気とかいう奴か、へー……。──応援するなら若様チームかリーン様、王女殿下チームだな!」
王都ではアイドル並みの人気である勇者エクスであるが、リューの地元であるこのボウリング場ではマイスタの領民がお客のほとんどを占める状況だから、領主であるリューにならともかく、勇者に関心を持つお客は驚くくらいほとんどいなかった。
それにマイスタの街は裏社会に精通している者がほとんどで、その反対側の立場である勇者には興味どころか無意識的に苦手とする者もいるくらいだから、この反応でも仕方がないのかもしれない。
王都ではこれでもかというくらいちやほやされているから、勇者エクスも観客のドライな反応に軽く驚いていた。
「なんて失礼な奴らなんだ! 王女殿下は仕方ないとして、勇者様に興味を持たないとは! ──王都から少し外れた田舎の者の反応とはこれほどまでに愚かなのですね」
勇者エクスチームの人数合わせであるホメルス子息が、観客の反応を貶した。
「本当にそうですね。勇者様を拝めるだけでもありがたい事なのに!」
オダテール子息も同意して勇者に気を遣う。
「……ここはミナトミュラー男爵の地元だから、当然の反応だ。だから二人共少し控えてくれるかい?」
勇者エクスはルークの指名で来たこの二人の同級生の言う事にはあまり口を挟まないようにしていた様子であったが、民衆を貶す言葉が出て来たので、注意した。
「「す、すみません」」
二人共少々不満そうであったが、勇者エクスの言葉だから少し静かになる。
そして、ようやくゲームが始まった。
一投目は、一レーンはリュー。二レーンは、リーン。三レーンは、勇者エクスで、全員見事ストライクを取った。
順当な滑り出しで始まったボウリングは、最初こそ勝負という気持ちから、緊張した雰囲気があったが、ゲームが進むにつれてみんな楽しさから笑顔が漏れ始めていた。
ちなみにリューの妹のハンナは年下という事でハンデを貰っての参戦だが、勇者エクスチームが『チーム能力強化』を使用している事に気づくと、自分のいるリズ王女チーム全体に同じ系統の能力強化を密かに使用した。
これに気づいたのはリューとリーンだけで他の者は気づく気配がない。
強いて言うなら、リズ王女チームのメンバーであるリズ、シズ、ラーシュが急に体が軽くなり調子が上がった事に気づいたが、それがハンナの仕業とまでは思わないでいた。
「なんだか調子がいいわ」
リズが先程までのボールの重さが嘘のようだとばかりに、ストライクを連発する。
「……私も絶好調!」
シズも華麗なスピンのかかったボールでスペアを取る。
「コツが掴めた気がします……!」
ラーシュもシズ同様スピンのかかったボールでピンをガンガン倒していく。
「女子チーム絶好調じゃない!?僕達も頑張らないと!」
リューがハンナの仕業とは指摘せず、ランス達男子陣に発破をかけた。
「リューの妹のハンナちゃんも上手いな!ハンデいらないんじゃないか?」
ランスが、感心してリズ王女チームのアイドル的な存在になっているハンナを褒める。
「あの子は努力家だし、天才だからな。それに何より、やはり、リューの妹だ」
イバルが、同級生の中ではハンナについて良く知っている方だったから、当然とばかりに答えた。
「というかみんな上手じゃないですか?自分達も頑張らないと主に恥をかかせてしまいますよ!」
そう言うとリューの護衛役であるスードが奮起してストライクを取って勢いづける。
そんな中、勇者チームもエースである勇者エクスはもちろんの事、エミリー・オチメラルダ、レオーナ・ライハートも勇者の能力『チーム能力強化』の働きもあって絶好調であった。
だが、その中で足を引っ張っていたのが、引き抜きの提案者であったホメルス子息とオダテール子息であった。
二人は能力的には一般人よりは優秀な類なのだろう。
『チーム能力強化』もあって、その力も十分底上げされている。
だが、リュー達に比べたら、それはやはり劣っていた。
なんならリューのチームは能力強化系能力を使用していないから、不利なはずであったが、実力のみで完全に上回っていた。
完全試合状態のリュー。
パワーでピンを吹き飛ばしてストライクを連発する、ランス。
ピンを残しても二投目で確実に全て倒す、イバル。
鋭さとパワーを兼ね備えたバランスの良いナジン。
穴がなく多彩な変化でピンを倒す、スードと、チーム力で勇者チームを越えていた。
そして、今日一番の活躍を見せていたのが、リズ王女チームであった。
このチームが、一番ボウリングは不利だと思われていた。
その中でも穴と思われていたラーシュとリューの妹ハンナの活躍が素晴らしかったのだ。
ラーシュはこのボウリングの最大の欠点である人が並べ直す事で生まれるピンの微妙な位置のずれも計算してボウルを投げるという頭脳派であった。
妹ハンナもさすが『賢者』、『天衣無縫』のスキル持ちと言うべきか。
序盤こそミスもあったが、後半はすぐに修正してラーシュ同様、ピンの微妙な位置のずれも読んで倒すという技術と頭脳を見せた。
その結果……。
一位のチームはリズ王女チーム。
二位はリューチーム。
最下位は勇者チームであった。
一位リズチームはハンナが貰ったハンデ分、リューチームを上回っていた。
そうなるとリューチームと最下位勇者チームの差が気になるところだが、言い訳が出来ない程度の差が開いていた。
勇者チームは勇者エクスとエミリー、レオーナは優秀なスコアを出したが、やはり穴となったのはホメルス子息、オダテール子息の二人のスコアであった。
「「すみません……」」
二人もこの結果には言い訳が思いつかず、勇者に土下座する姿が見られるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます