第439話 賭けですが何か?

 次の休みの日。


 リューとリーンら学園の友人一同と妹ハンナ、そして、一年生勇者エクスら一行はマイスタの街郊外の娯楽施設、ボウリング場を訪れてた。


「……思いの外、勇者一行殺気だってない?」


 リューが傍にいたリーンにこっそりと声を掛けた。


「……レオーナからの手紙だと『エクスにゲームという名目で誘って恥をかかせる策略かもしれない。こちらはそれを逆手に取ってあちらをぎゃふんと言わせるのもいいかもしれない』と、停学中のルーク・サムスギンがアドバイスしたらしいわよ?」


「……リーンがそんな事まで聞きだせるくらいレオーナと仲が良いのにもびっくりだけど、停学中のルークはけじめがついたはずなのにまだ警戒しているんだね……」


「でも、さすがに今日はルーク・サムスギンも停学中でここには来ていないからいいんじゃない?」


 リューが勇者エクスと仲良くなるチャンスだろうと、リーンは指摘した。


「……その代わり、勇者エクスの信者っぽい人が二人追加されているんだけど……」


 リューが気になったのは勇者エクス一行の面子だった。


 勇者エクス・カリバール男爵をはじめ、エミリー・オチメラルダ公爵令嬢、レオーナ・ライハート伯爵令嬢、そこに数合わせだろうが、先程から勇者エクスを褒めちぎっている二人の一年生徒がいた。


「あれは、勇者エクスのクラスの一年生、ホメルス伯爵子息とオダテール子爵子息だな。二人共一年生の中では親の地位が高いし、それなりに成績優秀だから、選ばれたのかもしれない」


 ランスが横から二人の会話に入ってきた。


 相変わらずどこからそんな情報を入手してくるのか詳しい。


「見ての通り、二人共勇者エクスに心酔しているから、数合わせで連れてくるのにも都合が良いだろうな。誰の人選かは知らないが、大したものだ」


 ナジンがランスの言葉に付け加えて意味ありげに言う。


「……ナジン君、皮肉を言わないの」


 シズは人選について幼馴染が不快感を露わにしているのに気づいて落ち着かせた。


「ナジンも言うじゃないか」


 イバルも、友人の言葉に反応して笑った。


「みんな落ち着いて。なんか今日、雰囲気悪いよ?」


 リューがみんなを窘める。


「そりゃそうだろう?天下の勇者様はリューをライバルとして意識しているようだし、その付き人二人もさっきからリューを意識しているじゃないか。完全に雰囲気を楽しむ感じではないだろう」


 ナジンは肩を竦めると、友人であるリューをあちらが警戒する雰囲気を漂わせている事を察知しての発言だ。


「確かにな。そういう意味では付き人二人組はルーク・サムスギンの代理のような存在かもしれない」


 ランスも遊びの雰囲気から、完全な対抗戦になりそうな様子に気づいて嘆息した。


「でも、今日はゲームで勝負なんでしょう?それならば、いくらでも勝負して発散すればいいのではないかしら?」


 王女リズは決闘とは違って、血生臭い事にならなければ大丈夫という姿勢を見せた。


「リズは達観の仕方が本当大人だよね。はははっ!」


 リューは王女リズの冷静な反応に笑う。


 ……私はどうすればいいのかしら?


 そんな周囲の雰囲気をよそにリューの妹であるハンナに兎人族である事に興味を持たれ、なつかれ始めている事に一人戸惑うラーシュであった。



 ボウリング場入りした一行は、まず、リューの男子チームである、リュー、イバル、ランス、ナジン、スードの五人と女子チームであるリズ、リーン、シズ、ラーシュ、そしてランドマーク本領から連れて来たリューの可愛い妹、ハンナで構成された。


 そして、勇者一行チームは、勇者エクス、エイミー、レオーナ、ホメルス子息、オダテール子息の五人で組まれる。


 三チームはそれぞれのレーンで二ゲーム、従業員からルールや基礎を教えてもらいながら練習を行った。


 当然ながら経験者のリュー、リーンは上手いが、勇者エクスもやはり勇者の資質なのか、すぐにコツを掴んで、二ゲーム目が終わる頃にはかなりの腕になっていた。


 リューとしては楽しんでもらって仲良くできれば良いという気で誘ったのだが、完全にみんな違う意味で燃えている。


 真剣な表情で取り組んでいるのだ。


「じゃあ、このゲームの勝敗で勝者は残りのチームに一階の飲食店でそれぞれ食事とスイーツを奢ってもらうという事でいいかな?」


 リューが提案すると、異様な雰囲気をみんな漂わせながら頷く。


 しかし、勇者一行の一部は、頷かなかった。


 リューの提案というところに納得がいかなかったのか、ホメルス子息が、


「そんなどうでもいい賭けでは勇者様はやる気になれない。それなら、勝者チームが敗者チームから誰か一人を仲間に引き抜くというのはどうですか?」


「それは良い!ただの飲食を賭けるより、それくらいのスケールじゃないと、わざわざ勇者様がここまで乗り込んできた意味がない!」


 オダテール子息も大袈裟に賛同する。


 演技がかっているので、どうやら最初から考えていたようだ。


 あちらの目的は、王女リズだろう。


 どうやら二年生対一年生の対抗戦という意識で参加しているようだ。


「……君達のチームが負けた時の事、ちゃんと考えている?これはチーム戦。君ら二人が勇者エクス君の足を引っ張って負ける事もあるんだよ?」


 リューは浅はかと思える提案に重要な指摘をした。


「「それはあり得ない!勇者エクス様の能力を甘く見てもらっては困るよ!」」


 ホメルス子息、オダテール子息は声を揃えてそう言い放った。


 対して勇者エクスは二人の急な提案に驚いている。


 どうやら何も聞いていなかったようだ。


 しかし、何やら考え込んでいる。


 そして、頷く。何か思うところがあるのか、それに勝算があるようだ。


「……そうなの?」


 リューが、同じチームのイバルに聞く。


「多分、勇者の固有能力、『チーム能力強化』の事を言っているんだと思う。文字通り仲間の能力を大幅に上昇させる効果があるんだ。──なるほど、それなら十分勇者チームにも勝算があるかもしれない」


 イバルは真面目な顔をして答えた。


「……何それ!?ただのボウリングでそんな本気の能力使う気なの!?」


 リューは思わず呆れてツッコむ。


「リュー、こうなったら全面戦争よ!そんな能力を使っても私達には勝てない事を教えてあげましょう!」


 リーンはやる気十分だ。


「リューお兄ちゃん!私もリーンと一緒に頑張る!」


 妹のハンナがリーンの勢いに便乗して小さい拳を振り上げる。


 それに続いて、ランス達男性陣も目を燃やして握り拳を作ってみせた。


 食事とデザートを掛けた、ただの楽しいゲームのはずが……。


 リューとラーシュは同じ事を思いながら、勇者チームの提案を受ける事になるのであった。

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