第438話 娯楽に誘いますが何か?

 新たな娯楽施設であるボウリング場はマイスタの住民に大いに歓迎され、大人から子供まで楽しめるものになった。


 こうなると、画期的で楽しく、その人気から他からも人があつまりそうなものであるが、王都から馬車で一時間以上のマイスタ郊外にある為、噂は広まっても実際に訪れて遊ぶとなると馬車を持つ貴族がお忍びで来る以外は、現地のお客がほとんどである。


「聞いたぜ、リュー! なんだか楽しそうな娯楽施設っていうのマイスタの街に作ったんだろ!?」


 相変わらず情報通のランスがボウリング場オープンから数日後の朝には、どこからか聞きつけて聞いて来た。


「……何の話?」


 ランドマーク、ミナトミュラー両ブランドのコアなファンであるシズが、聞き捨てならないとばかりに、ランスに続きを促した。


「リューが地元の郊外にボウリング場? ってやつを作ったらしいんだよ。そこに遊びに行ったという貴族からの情報だと、かなり面白いらしいぜ」


 ランスも又聞きレベルの情報で内容については、答えられなかった。


「……そうなの? ──私、何も聞いてないよ、リュー君?」


 普段友人相手にもコミュ障なシズは目を輝かせて、リューに迫ると詳しい説明を求めた。


「それは自分も気になるな」


 シズの幼馴染であり、普段はシズの代わりに代弁するナジンもシズの積極的な姿に微笑みつつ一緒に聞く。


「リュー君。それはどんなものなのかしら?」


 王女リズも娯楽施設と聞いて、控え目な聞き方ながら、圧は強い。


「みんな圧が凄いな……! ボウリング場って言うのはね? 大きな──」


 リューは一からボーリングの説明をした。


 時折、リーンが合いの手に感想を入れながらのものであったが、最後まで聞くと、


「「「「それはやってみたい!」」」」


 と、全員が興味を持った。


 いや、さらに兎人族特有の長い耳をピンと聞き耳を立てていた、ラーシュの心の声も聞こえてきた気がした。


「じゃあ、みんなを今度案内するよ。──ラーシュも行くよね?」


 リューはいつものメンバー、プラス、ラーシュを誘った。


「え? 私もですか!?」


 ラーシュは興味があると耳にその特徴が出やすい。


 普段はその長い耳もちょっとふにゃっとしているのだが、興味があるとピンと伸びる。


 意外にわかり易い特徴を持つラーシュにリューもようやく仲良くなる為のコツの一つを掴めそうであった。


「そう。僕達、同じ隅っこグループだし、みんなでやると楽しいよ?」


「でも、私、アルバイトがありますし……」


 ラーシュは本当は行きたくて仕方がないが、その気持ちを押さえつけるように断ろうとした。


 彼女にとってリューは雇い主のボスであったし、何より自分は足を洗った立場とはいえ、『聖銀狼会』会長の孫でもあるから、リューとの関係については距離を取るのが筋だと思っていたのだ。


「ノストラには僕から言っておくよ。じゃあ、今度の休日はみんなでボウリングだね!」


 リューは強引に決定する事にした。


 ラーシュはそのくらいしないと、誘えないだろうと思ったのだ。


「じゃあ、男子五人、女子四人で勝負するか!」


 ランスがさっきからしゃべらないイバルとスードの肩を掴んで提案する。


「それだと男子が一人多いじゃないか。俺はパスするよ。仕事もあるしさ」


 イバルはリューの部下として忙しい身だったから、断った。


「ちょっとイバル君! 僕がブラックな上司みたいじゃん! ──これは上司命令、イバル君ももちろん参加! ──そうだ!女子にはランドマーク本領から妹のハンナを呼んでくるよ!」


 リューは最近一緒に遊ぶ事がめっきり減ってご機嫌斜めなハンナを思い出し、提案した。


「リューじゃないと出来ないメンバー招集だな!」


 ランスが、会った事がないリューの妹を連れてくる案に呆れる。


「それなら、一年生のレオーナ・ライハートも誘っていいかしら?」


 リーンが意外な名前を口に出した。


「「「「「え?」」」」」


 これには一同も度肝を抜かれて聞き返す。


 それはそうだろう、先頃までバチバチにやり合っていた相手である。


 リューとリーンはその当事者であり、本来、避けるべき相手だろう。


「彼女、私と仲良くなりたいらしいの。最近、よく手紙ももらうし」


 リーンはどうやら手紙の内容からレオーナの事は許しているようだ。


「それなら、勇者エクス・カリバールと、エミリー・オチメラルダも誘おうか」


 リューがリーンの上を行くとんでもない提案をした。


 これには、一同&リーンも仰天した。


「しょ、正気か、……リュー? レオーナは百歩譲ってあっちからリーンに謝って来ているからわかるが、勇者エクスは彼の親友ルーク・サムスギンの停学について怒りを燃やしていてもおかしくないんだぜ?」


 ランスが当然の道理をリューに説いた。


 みんなもリューではなく、ランスの言葉に賛同する。


「僕が入手した情報では、勇者エクスはそんなに悪い奴ではないと思うんだよね。それに本家の顔に泥を塗らない為にも、与力貴族としては人気者の勇者を敵に回してごたつきたくないかな」


「だからと言って、あっちが了承するとも思えないぞ?」


 ナジンが普段の勇者一行のリューに対する当たりの強さを思い出して指摘した。


「特に停学中のルークが万が一付いて来たら、修羅場だな」


 イバルが怖い指摘をした。


「……それは確かに想像したら怖い……」


 リューもいかに自分が突拍子もない事を提案したかに気づく。


「でも、一応、ルーク・サムスギンとの間にはけじめも付いているし、誘うだけ誘ってみよう」


 リューは苦笑してリーンにレオーナを通して今度の休みに遊ぶ提案をしてもらう事にした。


 隅っこグループ一同は王女リズも含めて絶対誘いには乗らないだろうと思っていたのだが、予定日の前日、レオーナを通して参加すると返答があるのであった。

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