第437話 続・娯楽施設ですが何か?

 ボウリング施設オープン当日。


 建物上には職人渾身の磨き上げられた大きなボウリングピンの模型がシンボルとして立っている。


 施設は三階まであり、外から広くてなだらかな階段が二階まで続き、ボウリング場がある二階まで直接外から行けるようになっている。


 一階がビリヤード場やボールを投げて的を倒すストラックアウトなどまで完備していた。


 三階は関係者の休憩所や管理室、支配人の個室などがある。


 そして、一部は、屋上になっており、そこにはお客が行けるようになっていた。


 それらを近くの工場で働いている関係者の口コミでマイスタの街の住人が見物しに押し寄せている。


「あの建物上にあるでかいのなんだ?」


「さぁ?」


「何かはわからないが、あの建物は街長様肝いりの娯楽施設らしいぜ?」


「「「娯楽施設?」」」


 中には口コミで見に来たものの何の施設か理解していない者も多い。


 ボウリング場施設前には駐馬車場、駐輪場完備、さらには広場には露店が立ち並び、それだけでも十分楽しめるようになっている。


 中には常に上位の人気があるビンゴ大会もボウリング施設オープン前から始まっていた。


「想像を遥かに超える人の波だね」


 リューは、ボウリング場の二階部分から、広場を眺めて感想を漏らした。


「みんな待ち遠しいみたいだから早くオープンした方がよくない?」


 リーンがオープン時間前の熱気を感じてリューに進言した。


「そうだね。まさかこんなに押し寄せるとは思ってみなかったから、混乱する前にオープンしちゃおうか」


 リューはリーンの進言を聞き入れて、三階の窓から、広場前でオープンセレモニーを行う為に待機している支配人に手を上げて合図を送る。


 広場の支配人はリューの合図がされたので頷くと、従業員から魔道具の拡声器を受け取った。


 そして、


「ご来場の皆様、お待たせしました!ミナトミュラー商会肝煎りの娯楽施設、『ボウリング場』のオープンです!」


 と支配人が宣言すると、それと同時に、魔法花火が打ち上がる。


「「「おお!」」」


 広場でオープンを待っていたお客から大歓声が起き、合図と共に施設内にみんなが入っていく。


 中に入ると従業員が見本とばかりにボウリングを始めた。


 人の頭大のボウルを転がしてピンを倒す遊びなのだと、お客はすぐに理解した。


 そして、その大きな音に驚く。


「この音、木工屋通りの元資材置き場から連日の昼間聞こえてた音だ!」


「これを作っていたのか!」


「じゃあ、俺達で早速、やってみようぜ!」


 新しもの好きの若者達を中心に、受付に行くと手続きを始めた。


 みんな初めての者達だから従業員に説明を聞き、身振り手振りで教えてもらう。


 従業員はデモンストレーションで投げている従業員達を指差しながら、基本を指導した。


 若者達は見よう見まねで次々に投げ始める。


 中には滑ってその場にコケて笑われる者もいたが、それはまだご愛嬌だ。


 見物客もそれを見てはやし立てるから、それだけでも盛り上がった。


 みんな初心者だから投げるまでのミスも多く、ガーターを出す者、隣のレーンに投げてしまう者、ボウルを転がすのではなく、文字通り放り投げてしまう者、すっぽ抜けて後ろに投げる者、ボウルが指から抜けず、そのまま滑って突っ込む者など、ボウリングあるあるを凝縮したようなトラブルも多く起きたが、それも見物客には面白く映り、笑いが起きる。


 もちろん中にはすぐに要領を得て、ピンを倒す者もいた。


 それには見物客から拍手が起きる。


 こうやって様子を窺うお客も徐々にルールやコツを把握し、状況を見て、自分もやってみようかとなるのだ。


「よし!ストライク?ってやつ獲った!」


「やるなぁ!──従業員さん、点数は俺、まだ、勝ってるよね?」


「私も段々慣れて来たわ!」


 お客はボウリング場に響くの音の大きさから、自然と大きな声で会話するのだが、それがまたストレス発散になる。


 そして、ピンを倒した高揚感でテンションも上がるから、お客のボルテージは自然と上がっていく。


「みんな楽しめているみたいだね!」


 リューは満足して隣のリーンとスードに声を掛ける。


「それはいいけど、私には思った以上にうるさいわ!」


 リーンは耳が良いから、聞く音の調節に苦心していた。


「沢山の人がやるとこんなにうるさいんですね!」


 スードも音を聞くだけで、高揚して来たのかウキウキな雰囲気でリューに話しかける。


「これが、ボウリングの醍醐味だよ!音も楽しみながらプレイして、それが終わったら一階の喫茶店や広場の露店で休憩して楽しむ。あとは屋上に上がって涼むのもいいと思うよ」


 リューはそこまで言って一つ思いつく。


 屋上の隅で飲み物を売ろうと。


 備え付けの机や椅子も設置すればもっと喜ばれるだろう。


 リューは早速、傍にいる支配人に進言する。


「なるほど!了解しました。早速、職人達に伝えて用意してもらいます」


 支配人は頷くと、従業員を呼び寄せて伝える。


 それからリュー達は一階の様子も見に行く。


 一階は二階のボウリング場のようにうるさい音とはほぼ無縁だが、時折、的をボールで倒す音や、ビリヤードの球を突く音が鋭く響く。


 それと共に、お客の「やったー!」という声も聞こえる。


 主に二人でやるゲームだから二人で来てボウリングがあわない、もしくは音がうるさくて避難して来た者を中心に楽しんでいるようだ。


 ボウリングは最低でも三人からのプレイを推奨していたから、二人ならビリヤードもいける。


 ボウリングは一人でも、その場にいる誰かを誘って三人編成を作る事も勧めていたから出来なくもないが、人見知りな人もいたから、そういう意味でも一階は一人から楽しめるゲームも多く、楽しんでいる者は多かった。


 こちらも様子見のお客は多かったから、やる方は見物客の視線が気になるところではあったが……。


「一階もお客さんのウケは上々だね」


 リューはプレイするお客が上手に九番球をポケットに入れると、見物客から拍手が起きる姿を見て嬉しそうに言う。


「ねぇ、リュー!一つ空いているところがあるから、私達もやりましょう!」


 リーンはお客が楽しそうにしているのを見てやりたくなると、リューの腕を引っ張り、ビリヤードに誘うのであった。

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