第433話 宴への参加ですが何か?

 この日。


 ミナトミュラー男爵として、貴族同士のパーティーの片隅にリューはいた。


 本家であるランドマーク家の祖父カミーザ、父ファーザと同じでこういったものは正直苦手なリューであったが、数少ない貴族の友人である老紳士オイテン準男爵の紹介という事もあり、参加していたのだ。


「オイテン準男爵、今回のパーティーって地方上級貴族同士の交流会ですよね?」


 傍で、一人一人、貴族の名前を教えてくれる心優しいオイテン準男爵に耳元でひそひそと話した。


「はい。ですが、見ての通り、その上級貴族の連れとして下級貴族も多数参加しているので問題ないですよ。私も寄り親であるノーズ伯爵のお供としてここに来られています」


 オイテン準男爵はリューと友人関係を築けたことから、最近、寄り親であるノーズ伯爵の信頼も厚い。


「うちの父は参加していないのに僕だけこの場にいるのはどうにも居心地が悪いです」


 上級貴族の広い屋敷と中庭が解放されて、パーティー会場となっているが、その一角でリューはランドマーク伯爵の代理として色々な人物と挨拶を交わしていた。


 しかし、やはり気が引けるところでもある。


 肝心の父ファーザは、本領で魔境の森の開拓作業で手が離せない状態だと言う事で、参加を断ったのだが、オイテン準男爵の紹介だし、代理で参加して顔見せくらいはしておいた方が良いと、リューを送り出していたのだ。


「こういうパーティーは普段地方にいる上級貴族の方々がたまに王都入りして飛び入り参加する事もあるので貴重な出会いがあったりするのですよ。寄り親のノーズ伯爵様もそれが目的で良く参加されています」


 オイテン準男爵はそのノーズ伯爵からリューのサポートをするように言われている。


 与力のオイテン準男爵のお陰でノーズ伯爵はリューと最近交流を持てていて、その親であるランドマーク伯爵ともリューの紹介で顔を合わせる事も出来ていたからそのお返しだそうだ。


「へー、そうなんですね。──あ……!リーン、あれエミリー・オチメラルダ嬢じゃない?」


 リューは壁の端で大人しく待機していたリーンに声を掛けた。


 従者はこの広い会場で邪魔にならないように、壁際に沿って待機している。


 リーンも他を見習って待機していたが、リューが結局、リーンに近い壁際でたむろしていたのでいつもと変わらない状況だ。


 リューが発見したエミリー・オチメラルダはいつもの通り金髪縦ロールの派手な髪形に黒い瞳、ドレスはお金がかかっていそうだが、自分の見た目に反してシックな装いだ。


「一応、一時間くらい前からいたみたいよ?オチメラルダ公爵家の代理参加みたいだけど、あんまり注目されていないみたい」


 リーンはリューの代わりに会場の人々を観察していたようだ。


「本当だ。ちょっと、浮いてるかも。僕、声をかけてくるよ」


 リューは、そう言うとオイテン準男爵と二人でエミリー嬢の元に行く。


「こんばんは、エミリー嬢。少しお話しませんか?」


「ミナトミュラー男爵……!──何の用ですの……?」


 エミリー嬢は勇者一行のライバル扱いになっているリューに声を掛けられて驚いた。


「お互い年齢もあって、この場ではちょっと相手にされづらいみたいだから、歳が近い者同士話さない?」


「あなたと違って私はオチメラルダ公爵家の代理として責任重大ですの。──費用も馬鹿にならないし……」


 最後の方はごにょごにょと言葉を濁したが、ダミスター商会からの支援で交際費を捻出してもらっているから、遊びではないという思いがエミリー嬢は強かった。


 もちろん、エミリー嬢はまだ、このダミスター商会がリューの率いる『竜星組』の傘下であるとは知らない。


「そんなに肩ひじ張って他の貴族に声をかけてちゃ、逆に嫌がられるよ。ここはパーティー会場、名目上は貴族同士の交友を深める場だからね。(元はうちのお金だし)お金の事は気にしなくていいと思うよ。それとも、僕やこちらのオイテン準男爵のような下級貴族の相手は嫌かな?」


「そんな事……!──……わかったわ。少しだけよ?」


 正直、あまり誰にも相手にされず心が折れかけていたエミリー嬢であったから、リューの誘いは内心、有難いものであった。


 それにずっと緊張状態でもあったから、一息つく事が出来て内心ほっとする。


 リューとオイテン準男爵、そしてエミリー・オチメラルダ嬢は従者が多い壁近くのテーブルで談笑を始めた。


 そこにリーンも加わって、若い声がその一角で楽しそうに話しているのが周囲に響くと、一部の貴族がそちらに気づく。


「あの少年貴族は確か、飛ぶ鳥を落とす勢いのミナトミュラー男爵では?」


「新興勢力であるランドマーク伯爵の与力だったか?」


「ああ!確か王都の酒造商会を率いる将来有望な少年男爵か!陛下に挨拶した時、『ニホン酒』を進められて飲んだが、あれは絶品だった……。──上級貴族である私の方から行くのは癪だが、ちょっと挨拶してくるかな」


「私も主家のランドマーク伯爵家を紹介してもらいたいから挨拶しておくか」


 各上級貴族の与力である下級貴族を中心に、一部の上級貴族もリューに気づいて壁際のリューの元に足を運ぶ。


「ミナトミュラー男爵、初めまして。お?オイテン準男爵もいたのか。そう言えばお二人は親しい間柄とか……。噂は本当でしたか。私もお話に入れてもらってよろしいですかな?」


「それなら私も!」


「私はミナトミュラー酒造商会の隠れ愛飲家ですぞ!」


「隠れてどうする!私は堂々とした『ニホン酒』愛飲家だ!」


 一気にリュー達の元に人が集まりだした。


「みなさん落ち着いてください。初めまして、リュー・ミナトミュラーと申します。こちらは友人でリンドの村の村長である、エルフの英雄リンデスの娘リーンに、ノーズ伯爵の与力であるオイテン準男爵。そして、北部の名家オチメラルダ公爵家の才女、エミリー嬢です」


 リューはここぞとばかりに友人達を紹介する。


「そちらはエルフの英雄殿のご令嬢でしたか、これは失礼した!オイテン準男爵はよく知っていますよ。はははっ!」


「オチメラルダ公爵家の!?……ほう。新興勢力のランドマーク家と繋がりがあるのか……。そうなると話は別だな……」


「オチメラルダ公爵家の令嬢か。よく見ると、とても美人だし着ているものも立派だな……。誰だ、落ち目だと言っていた奴は?」


 リューとお近づきになりたい貴族達は紹介されたリーン達に色々な反応を示したが、中でもエミリー・オチメラルダ嬢に対する反応は上々であった。


 リューと親しくしているところを見せられると、付き合いを持っておいた方が良さそうだと考える者も多かったのだ。


 先程までは誰も私を相手にしてくれなかったのに……。


 エミリー嬢は学園では先輩であるリューの紹介だけでこんなに周囲の反応が変化するものなのかと、内心驚くのであった。

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