第432話 遅い処分決定ですが何か?

 ある日の学園での昼休み。


 リューは担任のビョード・スルンジャー先生に職員室へ来るようにと告げられ、リーンとスードを伴って訪れていた。


「来たかね。……それでですが、食堂傍で行われた決闘について、遅くなりましたが一年生のレオーナ・ライハートさんの処分が出ました。これはミナトミュラー君も当事者だったから知っておいた方が良いと思いまして」


「はぁ……」


 リューは、スルンジャー先生の言い方に厳しい処分が決まったのかと少し心配した。


「レオーナ・ライハートさんは一週間の停学ですが、彼女が庇っていると思われるルーク・サムスギン君についての処分についても検討しています」


「サムスギンの?」


「遅くなったのはこれが原因です。校長も彼が裏でライハートさんを動かしていた事の裏付けを取ってから処分を決めたいと思っていましたが、先日、君達がまた、サムスギン邸で決闘したでしょう?その報告も王女殿下から聞いています」


「リズ……、王女殿下からですか?」


「はい。裏付けとなる証拠は王女殿下の証言だけですが、それでも校長はルーク・サムスギン君の上級生、それも男爵である君に対する礼を失した態度は学園の品位を下げると判断しました」


「……」


「そこでです。校長はサムスギン辺境伯とは親しい間柄だそうで、辺境伯の元に手紙を出しました」


「辺境伯の元に?」


 スルンジャー先生の意図がわからずリューはオーム返しに聞き返した。


「そこで学園でのルーク・サムスギンの言動について、親である辺境伯に報告したのですよ」


「……告げ口ですか?」


 これにはリューも苦笑する。


 証拠が少ないので、それなら親にと、「どういう教育をしてるんだ」と指摘してルーク・サムスギンの暴走を止めさせようとしたのだ。


「学園としても彼を処分する決定をしましたが、親が親ですからね。処分するにしても辺境伯が言いがかりをつけないように、校長が先手を打った形です」


「……はははっ、なんか大変ですね」


 学園としては『王家の騎士』の称号持ちでもあるミナトミュラー男爵に対する失礼な態度は見過ごせない。


 だが、相手は北部の大派閥を率いるサムスギン辺境伯の嫡男。


 それも勇者エクスの親友である。


 方々に手回しをしてから処分しないと後々厄介になると考えてここまで遅くなったのだとようやくリューは理解できた。


「もうすぐ、ルーク・サムスギン君の元にも親である辺境伯から手紙の一通でも届いて自分のやった事の重大さについて知る事になるでしょう。そのタイミングで学園も処分する事にしました。生徒の為にも一番効果的な処分の仕方です」


「……それで、処分内容とは?」


「ああ、すみません。肝心な中身を言ってなかったですね。ルーク・サムスギン君には一か月の停学処分が決定しています」


「一か月の停学……、結構重いですね」


 リューは少し考えると答えた。


「何を言ってるのよ、リュー。私が校長なら退学処分にしているわ!」


 黙って聞いていたリーンが、後ろから声を掛けた。


「そうです、主!あいつはミナトミュラー男爵家を馬鹿にしたのですよ!」


「そうなんだけど、僕的にはどっちかというと自尊心の強い子供の妄想だと思って相手にしてなかったからなぁ。あ、もちろん、北部貴族と対立したくないというのが一番の理由ではあったけどね?」


 リューは笑って答えた。


「そうだとは思うけど……。でも、面子があるでしょ!」


 リーンはリューの代わりに怒って見せていた。


「もちろん、うちの家族が馬鹿にされたら怒るし、許さないよ。でも、善悪の判断も怪しい子供の言う事に反応して同じ土俵に立つ方が、ミナトミュラー家としては無いかなって。でも、それに関してはリーンが決闘で僕の代理として強さを示してくれたじゃない。彼は納得してなかったけど、その実力差を理解できない程度の小者って事は沢山の生徒達の前で示せたでしょ。あ、勇者は別格だと思うけどね?彼は多分、まだ、力を秘めている気がする」


 リューはリーンに感謝しつつ、ルーク・サムスギンに対する評価がとても低い事を口にした。


「三人とも、これで用件は以上だから戻って良いですよ」


 担任のスルンジャー先生はリューの考え方に感心しながら、教室に戻るように促した。


「「「はーい」」」


 リュー達は返事をすると職員室を後にするのであった。


「勇者エクスってそんなに強いものなのかしら?」


「話ではレオーナ・ライハートと剣の腕はそう大差はないという話じゃなかったですか?」


 リーンとスードはリューが職員室で言った言葉が気になって廊下で聞き返す。


「勇者特有の能力ってあると思うんだよね。例えば『対撃万雷』もそうだけど、特殊能力による身体強化とか。そういった切り札があるからこそ、勇者エクスはあんまり焦ることなく僕の実力を計っているのかなって睨んでいるんだけど」


「……そうなのかしら?普通に焦っている気もするけど?」


 リーンはリューの考えすぎではないかと頭を捻った。


「……切り札。なんか格好いい響きですね!」


 スードはリューの言葉を疑う事無く違う方向に考え始めている。


「まぁ、それが僕に向けられない事を祈るよ。王都の人気者を真正面から相手にするって損以外、良い事なんて全くないからね」


 リューは苦笑して二人に答えると、教室に戻るのであった。

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