第430話 南部抗争終結ですが何か?
南部エリザの街における裏社会の抗争はシシドーの、味方も騙す策での機転とそれを信じたリュー、そして、その部下達の奮戦で解決を見た。
サウシーの街を治めるサウシー伯爵とは、不穏なならず者集団を一掃してくれたと感謝されたし、古い倉庫地区がこれを機に区画整理出来ると喜ばれたからあちらにとっては一石二鳥だ。
リューにとっても、港街を治める無派閥のサウシー伯爵との人脈は大きい。
寄り親であるランドマーク家に紹介して今後の販路の拡大にもつながりそうでもある。
お互いに利益の共有が出来そうだと結果に満足すると同時に、南部における『竜星組』支部をどうするかという事に話はなった。
そこで大幹部であるランスキー、マルコ、ルチーナもいたから、エリザの街に夜に戻って来たリュー達『竜星組』一同は、その仮拠点事務所にて話し合いの場を設けた。
「自分は若の判断に任せます」
ランスキーが開口一番そう切り出した。
「ランスキー、それだと他の者が意見を言いづらいだろう。──自分はこの南部事務所を、『竜星組』傘下『シシドー一家』事務所という肩書で全てシシドーに任せて良いかと思います」
とマルコはシシドーを高評価した。
「そうさね。今回のシシドーの働きは若との信頼関係から生まれたものだし、そういう意味では信用出来るから私も賛成よ。でも、『竜星組』では駄目なのかい?」
女幹部ルチーナもほぼ全面的に賛同したが、形態については疑問であった。
「『竜星組』直系だと、重要な事の判断は全て若、もしくは俺達幹部に仰がなくてはいけないだろう?こんなに王都から離れた南部でそれをやっていたら何もできなくなる。それなら傘下の事務所として好きにやらせた方がいいだろう。もちろん、シシドーだからこそ任せられる事とも言えるが」
マルコが、ルチーナに説明しつつ、シシドーを高く評価した。
シシドーは複雑な表情をしている。
「どうしたの、シシドー?意見があるなら言いなよ」
リューはみんなの意見を聞く為に発言を控えていたが、シシドーも何か言いたそうにしていたから話すように促した。
「俺は若の下で働きたいんですが……、駄目ですかね?」
「うーん……。でも、このエリザの街や交易の街トレドを任せられる南部出身で、信用のおける頭の回転も良い実力者はシシドーしかいないんだよなぁ……」
リューはこれでもかという程、シシドーを評価して褒めた。
「……!──しかしなぁ……」
シシドーは評価されて嬉しそうだが、それでも少し、考え込む。
「シシドー。別に今生の別れじゃない。若には『次元回廊』もあるから、全く顔を出さないわけでもないしな。それより、お前はこれから『竜星組』傘下として一家を率いるんだ、若の子分として胸を張って南部で『竜星組』を盛り立てろ」
ランスキーが大幹部として、シシドーを励ました。
「……。わかりました。この南部で『竜星組』の看板に恥じないよう、その傘下として『シシドー一家』を率いて頑張りますよ!」
ランスキーに発破を掛けられてシシドーも腹を括ったのか意気込んだ。
「『シシドー一家』創立の前祝いだ!こうなったら、今晩は朝まで飲み明かすぞ!」
ランスキーが大幹部として部下達に声を掛けてお酒を持って来させる。
「そうさね。南部のお酒も飲んでみたかったからね……。──お前ら街中のお酒買って来な!」
ルチーナもノリノリだ。
「仕方ないなぁ……。ちょっとリーン。僕達は明日も学校だから、先に帰るよ?──明日の朝迎えに来るからね」
リューはお祭り騒ぎになりそうな雰囲気にワクワクしているリーンを宥めるように言う。
「──若、すみません。自分はマイスタの街に戻って残りの仕事をやりたいので一緒に帰らせてもらいます」
マルコは後をランスキーとルチーナの二人に任せて帰る事にした。
「マルコも楽しめばいいのに……。まぁ、わかったよ。じゃあ、一緒に帰ろうか」
リューは勤勉な姿勢を見せるマルコに頷くと、リーン、スードと共に『次元回廊』で王都へと帰還するのであった。
翌日の朝。
リューは約束通り、エリザの街へ朝一番でランスキー達を迎えに行った。
多分酔い潰れているだろうなと思って、『次元回廊』で新生『シシドー一家』事務所の庭に移動すると、そこにはきちんと整列して待機していたランスキー達がいた。
さらにそれを見送る為にシシドー一家の面々も真剣な表情で並んでいる。
「あれ?想像していたのと違う展開なんだけど?──ランスキー、これってどういう状況?」
リューは酔い潰れ、もしくはお酒が残っている状態のランスキー達を想像していたから、厳かな雰囲気で並んでいる面々を見て軽く驚き、一番の子分に説明を求めた。
「へい。飲み明かしてる最中に、いかに若が素晴らしい人物か語り明かす時間がありまして、お互い若の為にも『竜星組』を盛り立てる事で一致しました」
「一致したらこれなの?」
リューはキョトンとした表情で整列している部下達を見渡す。
「若に迷惑を掛けるのはいけないと、途中で飲むのを水に切り替え、酒を抜きました」
ランスキーがそう答えると、
「そういう事さね。私はもう少し飲みたかったんだけどねぇ」
女幹部ルチーナが少し軽口を叩くが、すぐに表情を戻す。
リューはその言葉に納得すると、
「みんな、大親分であるランドマーク本家を盛り立てる事はもちろんの事、親であるミナトミュラー家を今後も一緒に盛り立ててください。シシドー、あとの事は任せたよ。──野郎ども帰るぞ!」
と一同に声を掛けた。
「「「「「おお!」」」」」
ランスキー達は一斉に声を揃えて意気軒昂に声を上げると、リューの『次元回廊』で直属の部下達数百人は、数か月ぶりの王都に帰還するのであった。
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