第429話 続・港街の抗争ですが何か?

 リューにリーン、スード、イバルの四人の暴れっぷりはとんでもなかった。


 古い倉庫が密集する地区という事で、破壊する事も躊躇しなかったから特にリューとリーンの周囲は爆発音と土煙が舞っている。


 ランスキーやマルコ、ルチーナの幹部達も大暴れしているのだが、リューとリーンの派手な暴れっぷりには敵わない。


 なにしろ二人は上級土魔法も容赦なく使っていたから、敵対するエリザ連合の兵隊も木っ端微塵に吹き飛ばしていたのだ。


 味方にも被害が出そうな派手な暴れ方だったが、『竜星組』の部下達はもちろんの事、シシドーの手下達などの味方を見極めて避けるくらいの緻密な魔法操作を行っているところが、リューとリーンの凄いところであった。


「今日の若と姐さんはとんでもないな!」


 ランスキーが敵の頭を掴んでボーリングのピンのように敵集団の真ん中に投げて吹き飛ばしながら傍のマルコに声を掛ける。


「乱戦の中でどうやったらあれほど繊細に魔法を使い分けられるのかわからないな」


 マルコもリューとリーンの地面から針のように突き出る岩の槍を味方だけ躱して範囲にいる敵のみ攻撃する芸当に呆れていた。


「二人とも、口より先に手を動かしな!そうこうしている間に若達がうちらの分の敵まで倒しちまうよ!」


 女幹部ルチーナが迫る敵を剣で斬り倒してランスキーとマルコを注意するのであった。



 初戦からエリザ連合の上層部連中をシシドーが半分ほど仕留めたのは、やはり大きかった。


 数こそ『竜星組』の倍以上の兵隊がいたが、元々寄せ集めである。


 各グループのトップがいて、それを『鬼面会』から派遣された幹部が指揮を執る事でまとまっていたから、伏兵と言うべきシシドーにいきなりその幹部がやられた事で、まとまりを欠く事になった。


 他の上層部の連中もシシドーの初見殺しである鎖付き分銅の前に殺られた者も多いから、数では勝っていてもそれらも数で劣る『竜星組』による各個撃破が十分可能であったのだ。


 シシドーの手下もそこら中の敵の内部にかなり混じっていて、敵の指揮を執れるクラスの者を襲撃していたから、シシドーが密かに狙っていた策がハマったと言っていいだろう。


 その策とは、シシドーが交易の街トレドで手下を集めていた頃に遡る。


 シシドーは自分の旧手下を中心に、自分の名前で手下を派手に集めていた。


『竜星組』の名を使わなかったのは、単に地元で有名なのが自分の名だったからだが、エリザ連合の上層部の耳にもその動きが情報として入ったようだ。


 だからエリザ連合はシシドーの勢力が『竜星組』傘下とは知らず勧誘して来た。


 シシドーは最初、話半分でその誘いを聞いていたのだが、意外に数が多く、そして大きな勢力になっている事に内心驚いた。


 中心となっている連中についても聞かない名もあったから、詳しく聞きたかったが、それは仲間に入らないと聞き出す事は難しそうだ。


 シシドーはそう判断すると南部の責任者であるイバルに伝えず、連絡を断ってエリザ連合に従うフリをした。


 イバルに連絡するにしても、正直、かき集めたばかりの手下全員を信じるべきか難しいところだったし、敵を騙すにはまず味方からだろうとの判断もある。


 それにシシドーはボスであるリューなら自分が裏切らない事は、わかってくれるだろうという思いもあった。


 だからこそシシドーは常にどこかに『竜星組』の間者が忍んでいるだろう事を見込んで時折、重要な情報を洩れ出る形で適当にばら撒き、サウシーの港街に拠点がある事を掴ませようとした。


 そして、タイミングを見計らって、エリザ連合上層部の一人として、一つの提案をする。


 それが、一度、エリザ連合全体の決起集会をやってまとまりのないこの集団を一つにしようというものだった。


 最初、エリザ連合の資金提供をしていた事で、まとめ役も行っていた『鬼面会』の幹部がこの意見に反対の姿勢を取った。


 しかし、シシドーはこの段階で交易の街トレドの兵隊を短期間でまとめ上げ、エリザ連合の中でも強い発言権を持ち始めており、上層部の多くの連中が賛成した為、断る事も出来なくなって、『鬼面会』幹部は渋々承諾する事になったのである。


 こうして、シシドーはエリザ連合の兵隊を全てサウシーの港街に集合させる事に成功した。


 もちろん、ボスであるリューの学校が休みである休日を狙ってである。


 シシドーは外部にそれとなく怪しまれない程度に流した情報でリューが気付いてくれるはずだと、計算したのだが、これが当たりだった。


 リューはちゃんと気づいた事をシシドーに知らせようと、目立つように馬車を連ねてエリザの街を出発、サウシーの街に向かってくれたのだ。


 シシドーは、早馬でこの知らせを聞き、これで自分の策が成ったと確信した。


 あとはリューが合図をくれるのを待ち、動くだけである。


 こうして、シシドーはリューの合図に応じてエリザ連合の中心を担う『鬼面会』幹部を討ち取り、その周囲にいた上層部の連中もついでに倒して回るのであった。



 リューとリーンの活躍は別格であったが、今回の策を練ったシシドーがそれ以外では一番の活躍をしたと言っていいだろう。


 シシドーとその手下は、短期間でトレドの街で力をつけ、シシドーの求心力の元でまとまり、当日には『竜星組』の傘下として動いてエリザ連合を内部から食い破った。


 これはもう、シシドーの大きな手柄である。


「もうけりは付いたね。シシドーのお陰で泥沼の抗争にならずに済んだよ」


 リューは抵抗する者がほとんどいなくなった事を確認して、傍のリーンにそう漏らした。


「そうね。敵を一か所に集めた功績は大きいわ。……シシドーって意外に頭も切れるのね」


 リーンが珍しく他人を褒める。


「はははっ!そうだね!それにこれで、南部の裏社会も落ち着きを取り戻すだろうからシシドーとその手下に直接任せられそうだよ」


 リューはリーンの褒め言葉に笑って賛同する。


 こうして南部のエリザの街から始まった南部抗争は、終結する事になったのであった。

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