第428話 港の街の抗争ですが何か?

 リュー達一行の馬車の列はサウシーの街に昼頃到着した。


 こんな大行列である。


 城門で門番に止められそうなものであったが、リューとサウシー伯爵との間で話が付いていたから、止められる事なくスムーズに街に入る事が出来た。


「若、どんな取引をしたんだい?」


 女幹部ルチーナは最大の山場と思っていたサウシーの街入りが呆気なく済んだので感心するように聞いた。


「サウシー伯爵には、『うちにちょっかいを出している余所者がお宅の領地に集結して悪さをしようとしているので、うちで処分させて下さい。被害はうちで負担しますので』って、申し出ただけだよ。あと、結構な通行料も支払ったけどさ。サウシー伯爵はお金にうるさい商人気質な人。損得勘定で、僕に恩を売り処理も任せられれば治安も良くなり、民衆への受けも良いだろうし、経費も負担せずに済むと一石四鳥だと思ったんだろうね。伯爵は面子はお金にならないと手紙にも書いてたし」


 リューはお互いの利益になる交渉が出来た事を説明した。


「珍しい貴族もいたもんだ」


 ルチーナがそう言って笑う。


「それを言ったらうちの若もその類に入るだろう」


 マルコがリューが珍しい部類の人物である事を指摘した。


「だが、それがいい。わははっ!」


 自分達の親分であるリューをそう評価するとランスキーは大笑いするのであった。


 緊張感のない馬車内であったが、車列は迷う事無くサウシーの港に向かっている。


 その場所は人気がない古い倉庫のある地区で、サウシー伯爵にとっては再開発を考えている治安の悪い場所であった。


 エリザ連合はその一帯の土地を買い占めて占有していた。


 リュー達一行の馬車はその中を堂々と進んでいく。


 周囲には明らかにカタギではないと思われる者達がこちらに睨みを利かせている。


「敵陣の真っ只中ね」


 リーンが不敵にニヤリと笑う。


「姐さんは血の気が多すぎるわ。ふふふっ」


 ルチーナはリーンをそう評価すると自分も笑みを浮かべる。


 意気投合してるよ、この二人……。


 リューはリーンとルチーナを見て、「混ぜるな危険」の標語を思い出すのであった。


 先を進むとどこから集まってきたのかエリザ連合の連中が数百人は集結しており、リュー達の馬車群を取り囲んで来た。


 普通ならこれを恐れて馬車から出るのも躊躇われるところだが、リューの馬車からランスキーを先頭に幹部が次々と降り、最後にリーンとリューが降りる。


 これにはエリザ連合もポカンとした。


 最後に降りてくるのがボスクラスだと思っていたところに、エルフの美女と子供が降りて来たからだ。


 ある意味不意を突かれたと言ってもいい。


 取り囲んでいるエリザ連合の面々から笑いが漏れた。


「ぶははは!最後に降りてくるのが子供とは、『竜星組』はお子ちゃまが幅を利かせる組織なのか!」


「王都で最大勢力という理由は、子供まで招集しているからかよ!ひゃははは!」


「堂々と正面から来たから度胸が少しはあると思ったが、おしめ持参か?ははは!」


 エリザ連合の連中は言いたい放題である。


「うるせい!少し黙ってろ!!!」


 ランスキーがそんな小物達の嘲笑をかき消す程の大音量で怒鳴って見せた。


 その威圧にエリザ連合の連中の嘲笑をピタリと止まる。


「ありがとう。ランスキー。──で、そちらの責任者達はビビらずに出てこられるのかな?」


 リューは静かになったところに通る声で、エリザ連合の幹部達に顔を出すように挑発した。


 さすがに子供の挑発である。


 黙っているわけにはいかない。


 エリザ連合の上層部の連中が、人混みを分けるようにして現れた。


「……リュー。あいつらエリザの街で裏社会を牛耳っていた連中だ。あと、エラソン辺境伯領の裏社会で力を持つ『鬼面会』の幹部が中心にいる。黒幕はそいつだな」


 イバルが、リューの傍で主だった面々が揃っている事を知らせた。


「ここまで乗り込んで来た事については、竜星組とやらを評価しようじゃないか。だがな、この状況で俺達の首が取れると思っているのか?その子供がお前らのボスだとしたら、おつむも子供並みでこの状況が理解出来ないのか?」


『鬼面会』の幹部が一同を代表して前に出ると、そう告げた。


 確かに、数的にも不利で、さらにぐるっと取り囲まれている状況もリュー達『竜星組』にとっては最悪だ。


 飛んで火にいる夏の虫と言っていいだろう。


「状況?うちにとっては、蠅を掃討するのに絶好の場と思ったのだけど。──そうだ、試しにそっちの上層部全員の首を取れるか試してみようか。そっちの代表の人。『俺の首を獲れる奴はいるか』と、三回言ってみて。それで名乗り出た者がその首を獲れなかったらうちも諦めるかもしれない」


「はぁ?何を言ってやがる?まぁ、余興として言ってやろう。俺の首を取れる奴はいるか!?俺の首を取れる奴はいるか!?俺の首を取れ──」


 代表者の男がリューの挑発に乗って三回繰り返している最中であった。


 それを遮るようにエリザ連合上層部が固まっている背後から声が上がる。


「俺がいるぞ!」


 その声と共に、『鬼面会』の幹部の頭が血飛沫を上げた。


 鎖付き分銅が男の頭部を吹き飛ばしたのだ。


「シシドーてめぇ裏切るつもりか!?」


『鬼面会』幹部の傍に立っていた男が、仲間の想定外の行動に声を上げた。


「裏切るも何も、最初からてめぇらの仲間になったつもりはないんだよ!」


 シシドーはそういうと、他のエリザ連合上層部の連中に襲い掛かる。


 背後からの不意打ちに、逃げる暇もなく次々に血飛沫が上がっていく。


「リューの読みは的中したわけね!」


 リーンはリューの作戦通りに行っている事を喜ぶと、腰に佩いてあるドスを抜く。


「みんなシシドー達を援護しろ!敵は浮足立ってるよ!」


 リューが『竜星組』全員に声を掛けた。


 おお!


 リューの檄に一同は支給された試作のドスを抜いて天に掲げる。


 エリザ連合は、全体の三分の一を占める数のシシドー一味の裏切りに動揺して浮足立ち、そこに突っ込んでくる一騎当千の『竜星組』の兵隊に蹴散らされるのであった。

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