第420話 剣士の意地ですが何か?

 獅子人族で北部貴族のライハート伯爵家は、過去に降爵や、昇爵を繰り返して今の地位にある中々波乱万丈な歴史を持つ家である。


 現在は、王家への忠義を第一にしており、ライハート伯爵は北部一の剣豪とも言われていた。


 その一族も武家の者として剣の道を極める為に切磋琢磨している。


 そしてライハート伯爵家のレオーナ嬢は女性ながら、その剣技は一族でも指折りの腕前で、北部の同世代では負け知らずであった。


 しかし、ある時、勇者エクス・カリバールの名を知る。


 当時は、有力貴族の一部の中のみで、このエクスが勇者スキルに目覚めたという事は密かに情報として語られていた。


 それを知ったレオーナは当然ながら、自分とどちらが強いのかが気になった。


 ライハート家の人間として剣に対しての誇りがあったから、相手が勇者スキル持ちでも負けるわけにはいかなかったのだ。


 そして、サムスギン辺境伯領に単身乗り込み、いざ勝負すると、剣技ではほぼ互角だった。


 それだけでもレオーナには衝撃的である。


 今まで自分と互角に渡り合う者など同世代に存在しなかったからだ。


 だが、勇者エクスは奥の手を持っていた。


 それが、勇者独自の魔法と剣技を合わせた『対撃万雷剣』である。


 レオーナはこの、剣を交えただけで大ダメージを負う初見殺しの攻撃になす術もなく体中に雷が走り、動けなくなって完敗した。


 レオーナにはこれがとても衝撃的な事だった。


 まさに電流に打たれた衝撃もだが、剣技一辺倒だった自分にとって魔法剣技を扱う勇者エクスは想像を超える戦士だと思えたのだ。


 レオーナはいつも冷静で全く感情を表に出さないが、勇者エクスに心酔したのか、ずっとサムスギン辺境伯領に滞在して、その後ろに付き従う姿が見られるようになる。


 レオーナは勇者エクスの理想や、言動にも心打たれ、心酔の度合いを深めた。


 そして、王立学園を受験すると聞き、レオーナは通っていた北部の名門学校を辞めて、勇者エクスと一緒に王立学園へと入学したのである。


 そして、入学してみると、同級生には自分以上の成績で勇者に続いて二位のオチメラルダ公爵家の令嬢エミリーがいた。


 さらには、勇者エクスの金魚のフンだと思っていたルーク・サムスギンも自分より上位の三位だった。


 これまで、地元の学校では一位だったレオーナにとって、驚きの連続だったが、それでもまだ、剣の腕だけならば、同世代で勇者エクス以外には負ける気がしなかった。


 それが、ある日。


 ルークの策略で、一つ上の学年の何とか男爵という少年と決闘を行う事になった。


 ルークはすぐ、小手先の策を謀るきらいがあるから、あまり感心しなかったが、勇者エクスの為と言われれば、断る理由がない。


 それで対峙すると、これが、強いのか弱いのかよくわからない雰囲気を持っていた。


 だが自分なら一撃で勝てそうな気がする。


 それで、初手で勝負をつけるべく、全身全霊の一振りを放った、はずだ……。


 はずだというのは、その後の記憶がないからだ。


 目を覚ましたら、レオーナは地面に横になっていた。


 そこには心配そうにしている勇者エクス、安堵するエミリー嬢、溜息を吐くルークがいた。


 それだけですぐに自分の状況を把握した。


 自分は負けたのだと。


 あまりの衝撃にレオーナは戦闘での前後の記憶が飛んで覚えていなかったが、その時の状況を詳しく聞くと、勇者エクスに負けた時と同じ『対撃万雷剣』を受けて負けたらしい。


 これにはレオーナも勇者エクス戦以来の、いや、それ以上の衝撃を受けた。


 勇者エクス戦の時は、失神する事は無かったのだ。


 だが、今回は記憶が飛ぶほどの衝撃だったという事になる。


 それは勇者エクス以上の使い手という事になるのではないかと思った。


 そう考えているところにルークは勇者エクスがいない時に、自分が負けた事をなじったし、自分でも何もできずに負けた事を恥じる思いだ。


 レオーナにとって、敗戦は貴重な経験である事は勇者エクスから教えられたから、それを覚えていない事もまたショックだった。


 だから相手の何とか男爵に対して、初めて屈辱を感じた事も言うまでもないだろう。


「私はまた、何とか男爵に再戦を申し込みたい。そして、次こそは私の武威を示し、最強は私を倒した勇者エクスだと証明する」


 レオーナは心酔する勇者エクスよりも強い相手はいないと証明する必要があったのだ。


「レオーナが剣技で負けるはずがないわ。私も勝つ為に協力するわよ」


 エミリー嬢もレオーナの気持ちを察したのか、木剣を持って相手をする。


 勇者エクス、レオーナ嬢に隠れているが、実はエミリー嬢も剣について相当強いのだ。


「そうだ。あれは勇者限定の技のはず。きっと何か種があるはずだ。それを俺が見抜くからレオーナは安心して再戦してくれ」


 ルークも勇者エクスの名声を高める為に、何でもする姿勢だから、レオーナを応援した。


「あの決闘はルークが言い出したものだ。僕は望まない。だからレオーナは無理をしなくていいんだよ」


 勇者エクスはいつも優しい。だから、レオーナの再戦を望まなかった。


 だが、今のレオーナにはその言葉が辛かった。


 勇者エクスの傍に立つ資格が負けた事で失われるのではないかと思っていたからだ。


 それだけに背中を押してもらえない優しさが残酷に感じた。


「いえ、ルークの言う通り、種明かしさえできれば、私が負けるはずがありません。次は必ず勝ちます」


 いつもは感情を表に出さないレオーナは、敗北以上の屈辱を味わわせた何とか男爵への再戦を誓うのであった。



 レオーナ嬢が、自分との再戦の為に特訓を行っている報告を友人から聞いてからリューは、ずっと困っていた。


 北部貴族とは本当に表立って争いたくないからだ。


 それも、勇者エクス一行の一人だからなおさらである。


「……うーん、レオーナ嬢は嫌いじゃないけど、相手する理由が無いなぁ。これ以上は禍根残すだけでしょ」


「だから私が相手するって言ってるでしょ?」


 リーンが、リューの仕事の合間のつぶやきを聞き逃さず答えた。


「圧倒的な実力差で勝ったのに、それに対して再戦しようとするって絶対執念深いよ?リーン相手に負けてもきっと納得しないよ?」


 まさかレオーナ嬢が負けた時の記憶がないから再戦しようとしているとまではさすがに思いが至らないリューであった。


─────────────────────────────────────

あとがき


定期宣伝です<(*_ _)>笑


「裏稼業転生」が書籍化&コミカライズ決定しました。


書籍は5月20日発売予定、コミカライズは春スタート予定となっています。


予約はすでに開始されておりますので、各電子書店でよろしくお願いします。


詳しくは、近況ノートでご確認ください!


近況ノート↓


https://kakuyomu.jp/users/nisinohatenopero/news/16817330654118862814


あ、作品への★評価、フォローなどもして頂けたら幸いです。


それでは、次話で!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る