第419話 降爵だそうですが何か?
ある日の学校の朝。
その授業前の時間の事、ランスが、ある情報をリューの元に持ち込んできた。
ランスと言えば、父親が国王の侍従長を務める名門であるボジーン男爵家の嫡男であり、その王家関連の情報は卓越している。
まあ、今では王女リズが隅っこグループのメンバーに入っているから、王家の事はリズに聞けばすぐわかるのであったが、ランスはリズも知らない情報を掴んで持ってくる事もよくあった。
「聞いたかリュー?ついにあの貴族が降爵だってよ!良かったな!」
ランスはリューが喜ぶと思って笑顔で言うと、背中を強めに叩いた。
「おふっ!ランス、叩き方強いから!──でも、誰の話?」
降爵とは爵位が落とされる事を意味する。
つまり悪い事だ。
だから良くはない話なのだが。
「あ、ごめん。ほら、リューのところのお酒に薬を盛ろうとして失敗したあいつらだよ!ボッチーノ、ヨイドレン両侯爵さ!」
「「「ああ!」」」
ランスの説明でようやくリュー以外にもその場にいた全員が合点したとばかりに頷いた。
これには王女リズも知らなかったようで、一緒に納得したように頷いていた。
「今朝、親父のところにボッチーノ、ヨイドレン両侯爵が国王陛下に至急会わせてくれるようにとやってきてさ」
「ランスのお父さん、王家の侍従長だもんね」
リューが興味を示して相槌を打った。
「そして、出来れば今回の降爵を取り消してもらえるように口添えして欲しいって、大金積んできたんだ」
ランスが両手を広げて大袈裟な素振りを見せた。
そして続ける。
「俺は応接室の扉が少し開いてたからそこから覗き見してたんだけどさ。両侯爵とも必死だったな。まあ、その後どうなったかは詳しくはわからないけど、しばらくしたらいつもの鉄仮面で聞く耳を持たない感じで親父が両侯爵を追い返した後、凄く不機嫌だったんだ」
なるほど、降爵の噂はあったが、実際、王家からその勧告があったのだろう。
降爵したら領地を一部没収されたり、転封されたりすることがある。
その為の準備をするように言い渡され、焦った両侯爵が王家への影響力が強いボジーン男爵を買収して回避しようと動いたのだろう。
「それで両侯爵はどうなるの?」
リーンがうちに手を出した報いを受ける相手のその後を気にした。
「ボッチーノ、ヨイドレン両侯爵は、伯爵への降爵だったんだけど、もしかしたら、買収の件でその下もあり得るかもしれない。うちの親父、そういうの、もの凄く嫌いだからさ」
ランスの父親の報告に、ナジン・マーモルンが、
「それは両侯爵終わったな。ボジーン男爵は自分が買収できると思われて接触を試みられた時点で、屈辱的だろうからね。ボジーン男爵家は代々、王家への忠誠心を誇りにしているのに。──ランスの言う通り、ボジーン男爵は清廉潔白な人だし、それは有名な話なんだ。それを金品で説得だなんて、首を刎ねて下さいって言ってるようなものだろう」
と、付け足した。
その言葉にナジンの幼馴染でもあるシズと、元公爵家の嫡男であったイバルも強めに何度も頷く。
「頼む相手を間違ったわけね」
王女リズもボジーン男爵の性格や、状況を踏まえて、一言そう告げた。
「……さすがボジーン男爵家。王家に対する影響力は伊達じゃないかぁ……」
リューはこの普段暢気な友人とは対照的とも言える父親の凄さを改めて知ったのだった。
「という事は、あの両侯爵家もリューにちょっかいを出したから破滅したわけね」
リーンは簡単にそうまとめる。
「ちょっと、リーン!それだと僕が不幸へ導いたみたいな聞こえ方するから止めて?」
リューが間髪を入れずツッコミを入れた。
「はははっ!リューに手を出したら、痛い目見るからな。──な?イバル」
ランスが大笑いしてイバルの肩を叩いた。
「ランス……、その言葉は凄く耳に痛いから勘弁してくれないか?」
イバルが苦笑して、話を振ってきたランスに答える。
「先日も勇者絡みでライハート伯爵家のレオーナ嬢が、リューに決闘を申し込んで、丸焦げになるところだったし、リューに手を出すのが危険なのは事実だ」
ナジンもランスの言葉に理解を示した。
シズも強く頷いていたし、王女リズもクスクスと笑いながら賛同の意を示して頷く。
「完全に僕、危険人物扱いされてない?」
リューは嫌な顔をする。
「相手によってはそう思う者がいるのも事実だからな。それだけ、周囲に対して影響力も持っているという事さ。うちの雇い主は」
イバルは、友人であり、主人でもあるリューをそう評した。
「そう言えば、そのレオーナ嬢、リューに対して再戦を求めて特訓中らしいぜ?」
ランスがどこから一年生の情報を掴んだのか知らせた。
「そうなの!?」
リューは驚く。
こう言っては何だが、圧倒的な力でわからせたと思っていたのだ。
「さすが、獅子人族最強のライハート伯爵家のお嬢様だ。そう簡単に負けを認めない強いハートの持ち主という事か」
ナジンが感心して言う。
「……頑張れ、リュー君」
シズが小さくガッツポーズをしてリューを応援する。
「大丈夫よ、リュー。今度は私が相手するから!あっちは勇者を温存しているんだから、うちもリューが二度も出る必要なんてないわ」
リーンがまるで勇者グループとの抗争が始まっているかのように答えた。
「ちょっと、リーン。別に勇者エクスのグループと争っているわけじゃないから、普通に次は断るよ?」
リューは王都で大人気になっている勇者エクス・カリバール男爵と争ってランドマーク本家やミナトミュラー家の名を貶めたくない。
「主!それでは自分の出番ですね!」
ここで初めてリューの護衛役でもあるスード・バトラーが口を出した。
「いや、スード君。君もうちの従業員だから、そこは控えて!」
リューはすかさずスードの肩にツッコミを入れるのであった。
ちなみに、ボッチーノ、ヨイドレン両侯爵は宣告通り降爵を言い渡され、どちらとも子爵として北東部の端に転封を言い渡されたという。
それはあくまでも王家の判断であり、ボジーン男爵は、元両侯爵が自分を買収しようとした件は王家に報告したが、それ以上の事について何も関与していない事はボジーン男爵の名誉の為にも記述しておく。
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