第410話 商会への視察ですが何か?
放課後。
リューはイバルを『次元回廊』でいつもの通り南部のエリザの街に送り込むと、視察と称してリーン、護衛のスードの三人でミナトミュラー商会本部を訪れていた。
本部の建物の表ではラーシュがミナトミュラー商会の象徴である青を基調とした制服を着て、ホウキで通りを掃除していた。
ラーシュは現在、ミナトミュラー商会でアルバイトをしており、雑用からやらされているようだ。
「いらっしゃいませ!……ミナトミュラー君、じゃなかった……。──ノストラ様!若様達がお出でになりました!」
ラーシュは同級生が雇い主という関係にまだ慣れないのかリュー達の訪問に言葉が詰まるのであったが、急いで上司であるノストラを呼ぶ。
「若、今日はどうしたんだい?来る予定はなかったと思うが?」
奥で部下達に指示を出していた商会の現場責任者であり、ミナトミュラー一家の大幹部の一人であるノストラが訪問を歓迎するべく表に出て来た。
「仕事中ごめんね。いつも通り仕事を続けてくれて構わないから。──ラーシュ、仕事はもう慣れた?」
ノストラの背後で大人しく整列しているラーシュに声を掛けた。
「……」
ラーシュは同級生とはいえ、雇い主でもあるリューの質問にどう答えていいのかわからず戸惑った。
なにしろ今お世話になっているノストラの上司にあたるのだ。
そのノストラはミナトミュラー商会内で当然ながら絶大な力を持っているし、その商才も周囲の優秀な人材がいる中で群を抜いていて、ラーシュは密かに尊敬していた。
そのノストラが頭を下げる相手が同級生であり、竜星組大幹部マルコの小間使い?のリューであるからどう対応していいのか困っているのだ。
「答えろよ、ラーシュ。まあ、学校じゃ同級生だ。どういう態度で接すればいいのか難しいか。若も人が悪いぜ?こいつも答えづらいだろう」
大幹部ノストラはラーシュの頭を軽くポンポンと叩く。
その度に兎人族であるラーシュの長い耳がぴょこぴょこと動いた。
「あ、そうか。ごめん。普段通りで良いよ。うちにはイバル君もいるけど、態度は普段通りだからラーシュも一緒でいいよ」
リューはノストラの指摘で、思春期の女の子であるラーシュに詫びて普段通りを強調する。
「みんな良くしてくれるので、楽しんでやらせてもらっています……」
ラーシュが恥ずかしそうに俯き加減に答える。
「なんだ、ラーシュ。若とは敬語なのか?──若も同級生ならため口で話してやれよい」
ノストラがラーシュの控えめな態度を笑ってまた、ポンポンと頭を叩き、リューに注意もする。
「お互いちょっとまだ、距離が遠いだけだよ!別に無理強いしているわけじゃないからね?──そうだよね、ラーシュ?」
「……」
「ちょっ!その態度は誤解招くから止めて!」
リューはラーシュが沈黙するのでツッコミを入れた。
「はははっ!ラーシュは人見知りするからな。若になれるのにも時間がかかるのさ」
ノストラはそう答えると、リュー達を奥に案内する。
ラーシュは整列した他の従業員と一緒に一礼するのであった。
「ラーシュと仲良くなるのには時間が掛かりそうね」
奥に通されながらリーンがリューにそう漏らす。
「主と自分は竜星組関係者だとわかっているので親しくなって良いものか悩んでいるんだと思いますよ」
スードがそう指摘する。
「やっぱりそこだよね?」
リューは苦笑する。
「で、今日は何の用なんだい若。商売は順調なはずだが?」
ノストラが、改めてリュー達の訪問を確認した。
「あ、そうだった!今日はラーシュの様子の他に、研究開発部門のマッドサインを交えて例の開発中のドスについて話をしようかと思っていたんだ」
「ドス?ああ、あの短い魔刀か。試作品は一度、早速使ったんだろう?」
ノストラが部下にマッドサインをこちらに呼ぶように言いつけた。
「うん。ちょっと威力が凄すぎて驚いたんだけど、あのレベルをホイホイ作られてもヤバいなと思ってね」
リューがマッドサインの全力での開発に苦笑して答えた。
「あれは、そうそう作れる代物じゃないらしいぜ?マッドサインが若に届けた試作品はオリハルコン製の特別仕様だからな。あの金属仕入れるのに俺がどれだけ苦労したと思ってるんだい?言っちゃなんだが、若の為だと言うから大枚はたいて仕入れたが月の利益分、一発で吹き飛んでるからな?」
ノストラは首を振って、リュー専用のドスがどれだけの費用が掛かっているのか端的に説明した。
「えー!?そんなにかかっていたの!?月次決算書にはそんな事少しも書いてなかったよ!?」
リューはとんでもない額が動いていた事を知って驚いた。
「裏金に決まってるじゃないか。さすがに俺も商会のお金で仕入れやしないさ」
ノストラは笑って答えた。
それにしたってである。
リューはマジック収納からドスを取り出すと、鞘から抜いて改めて確認するのであった。
「……なんか余計な出費させてごめん。でも、良い出来なのは確かだから」
リューがそう答えると、そこへマッドサインがノックをして部屋に入って来た。
「若様、ドスについてお話があるとか?使用報告は聞いておりますが、何か不備でもありましたかな?」
マッドサインは自分の腕に自信を持っていたが、改良の余地があるのかもしれないとリューの返答を待った。
「いや、この『異世雷光』は申し分ない出来だと思う。でも、今聞いたけど、お金がかかり過ぎだから!これじゃあ、大量生産して組員の装備に回すの無理じゃん!」
リューはやり過ぎのマッドサインにクレームを告げるのであった。
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あとがき
この度、「裏稼業転生」が書籍化&コミカライズ決定しました!(T ^ T)
詳しくは近況ノートの方に書いていますが、読者のみなさんの後押しがあってこそだと思いますので本当にありがとうございます!
近況ノート↓
https://kakuyomu.jp/users/nisinohatenopero/news/16817330654118862814
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