第411話 無茶な注文ですが何か?
ミナトミュラー商会の奥の部屋でリューは商会の現場責任者のノストラ、研究部門責任者のマッドサインと急遽の会合を開いていた。
「若様が使用するドスですから、完璧な作りの特別製にするのは当然でしょう。主要な部分のオリハルコンももちろんですが、一部には魔力増強、魔力流動率の向上を図ってヒヒイロカネも使用しています。雷属性魔法もこの金属と若様の発想があったから実現できた事です。さすがに現状、あれ以上のものは私も作れません」
マッドサインは、会心の出来だったのか誇らしげに胸を張る。
「ヒヒイロカネまで使ってるのこれ!? ──ノストラ、それにはいくら使ったんだよ!?」
リューの驚きの問いに、ノストラはあからさまに視線を外す。
「ちょっと!絶対、オリハルコン以上の出費重ねているよね!?」
ノストラの反応にリューはこの『
「ちなみに技術面の話だが──」
ノストラが話をマッドサインに振る。
「おー! その話ですか!? 若様の三重構造で鍛えるという鍛冶屋への提案をヒントにして、その構造、中心の
ノストラの狙い通り、マッドサインは技術の事で話し出すと止まらない。
その為、ノストラに出費額について聞き出す事が出来なくなった。
マッドサインの話は大変興味深いものだが、このクラスの話にはさすがのリューも追いつけなくなってきた。
マッドサインはまだ、ずっと話しているが、リューは要件について話す事にする。
「今回はその技術の劣化版でうちのみんな用に生産してほしいんだよ。ほら、その前に日本刀の試作品作ってくれたでしょ? あれも切れ味が良かったんだけどあれだとどのくらいなのかな?」
どのくらいとは技術や製作時間、費用などの事だ。
「うん? ──ああ、あれですか? あれは、耐久性、切れ味に特化させただけで魔法陣も組み込んでいない純粋な刃物となっています。それでも鍛冶師の渾身の作だったので大量生産は難しいですな。……しかし、やるとしたら、魔法陣を組み込み、且つ、ドスの長さでの劣化版を若様の考えた生産方法でならいくらかは量産できると思いますよ」
マッドサインは頭をフル稼働しながら答えた。
「その場合、性能や費用はどのくらいになるかな?」
ノストラはマッドサインに疑問に思っていた事を聞くと、使用する金属の種類や技術内容、全体にかかる時間などについて事細かな話をしはじめた。
「──そうなると、性能については下級雷魔法によるショック攻撃付き、耐久、切れ味上昇付与のものを限定生産するのが限界でしょうか」
とマッドサインが答える。
そして、時間と金額についてはノストラが頭の中で暗算したものを紙に書き出してリューに提示した。
「僕の『異世雷光』は中級雷魔法『対撃万雷』だよね? その下級魔法はどんなものなの?」
「下級魔法『対撃感電』というもので、人一人が感電して失神するくらいでしょうか?それに連発するには使用者の魔力と魔石の交換も必要になるかもしれません」
マッドサインの説明に、リューは何となく理解した。
自分のドスと比較して、多分、前世で言うところの「スタンガン」のようなものだろうか?
相手を極力無傷で捕らえる時などに、利用できそうだ。
「わかった。それじゃあ、費用と時間は……、高いけど性能を考えると仕方ないか。よし、二人共その方向でお願い。あ、ノストラ達大幹部には希望の性能のものを作ってくれる?できる範囲でだけど」
リューはランスキー達大幹部の労いも兼ねてかそうお願いした。
「……わかった。俺は荒事は専門じゃないから必要ないが、一振りくらい作ってもらうか」
ノストラはリューの計らいにニヤリと笑みを浮かべる。
「それでは私はいかに製造時間を短縮できるか知恵を練ってみます」
マッドサインはリューの案を決定事項と判断すると研究室へと戻っていくのであった。
「資金はあるから、まあ、いいとして……、これでまた、人手不足になるのかな?」
「そうかもね。──ところで私のドスも希望出していいの?」
リーンがワクワクしながら、リューに聞いた。
「もちろん。イバル君や、スード君のものも作らせるよ。二人共、何か希望ある?」
リューは笑顔で応じる。
「私は……、そうね……。風魔法『鎌鼬』辺りをドスで使用できると嬉しいかも」
それはつまり、斬撃が飛ぶ事を意味する。
「あはは……、とんでもない事考えるなぁ……。使用時、魔力は多めに持っていかれるから、その辺も考えてね?──それじゃあ、スード君は?」
「自分ですか? ……耐久性切れ味特化でしょうか?出来たら、体力上昇するとありがたいです」
「スード君らしいね。──ノストラ、お願いね?」
リューは無理難題をノストラに押し付けた。
「おいおい。技術に関してはマッドサインが頼みの綱なんだ。あんまり、無理言うと倒れるまで没頭するから止めてくれ。それに俺の立場から言わせてもらうと……、費用いくらかかると思ってんだ!」
ノストラは頭の中での計算を放棄するとリューの無茶な注文に軽く怒りだすのであった。
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