第409話 人気の絶頂ですが何か?

 学園のみならず、王都では一人の少年の噂で持ちきりであった。


 それは勇者エクス・カリバール男爵の事である。


 王国一の王立学園に断トツの成績で合格した事もそうだが、何より勇者スキルをもって彗星の如く現れたのだから、その容姿の良さも相まって瞬く間に人気になっていた。


 勇者エクスの評判はとてもよく、先日はチンピラに絡まれていた女性を救った事でそれが美談として、王都の新聞にも掲載されていた。


 ちなみに、実際のところは女性に絡んだチンピラを成敗したのは竜星組系列の組員で、その直後に勇者エクス達が登場、女性が悲鳴を上げていた事で、現場に居合わせた組員は見た目だけで誤解を招き、一緒に成敗されてしまったらしいが、誤解は解けないまま記事になったようだ。


 酷い話だが、そんな感じで勇者エクスは王都でも人気は短期間で絶頂を迎えていた。


 貴族達もこの勇者スキル持ちの礼儀正しい若者に好感を持つ者は多い。


 なにしろ、王家からすぐに男爵位も叙爵されているから、期待をされているのは明らかだ。


 そんな少年と仲良くなっておくに越した事はない。


 一つ気がかりなのは、勇者エクスの取り巻きが全員北部貴族だということだろうか?


 だがそれも勇者エクスが北部出身という事で納得がいく。


 それにエクスの最大の支援者が北部最大派閥のサムスギン辺境伯という事だ。


 勇者スキルに目覚める前から支援していたというから、結び付きは強く、その子息も元々、勇者エクスの幼馴染というから文句のつけようがない。


 サムスギン辺境伯の目が光っているから、近づくのも難しいところではあるが、勇者エクス本人の人柄が良いのは、王都での人助けなどの活躍を見ても明らかだ。


 だから貴族はどうしても接近したいのであった。


「勇者エクスはびっくりするくらい評判が良いね」


 リューが休憩時間の教室でそう漏らした。


 個人的には褒めて終了のところなのだが、王都内で起きた女性暴行事件について竜星組の組員が解決した手柄を横から搔っ攫っていった上に、竜星組の組員もその見た目から誤解され、倒されていたから、他人事ではなかった。


「確かに人気は凄いよな。王都中で勇者エクスと言えば、今や正義の味方だとちやほやされているぜ」


 ランスがリューの気持ちも知らず、嫉妬か?と冷やかした。


「嫉妬だったら笑って済むんだけどね?最近、王都内で、特に勇者エクスが足を運ぶ先々でトラブル起き過ぎじゃない?よく、新聞にその活躍が掲載されているけど、治安が急に悪くなるものかな?」


 リューは渋い顔をした。


 リューの言う事には理由があった。


 新聞の件があってリューも治安が悪くなっているのかと思い、竜星組やその関係者全員に縄張りでの治安の徹底管理を心掛けさせていたのだが、治安はやはり良いのだ。


 何か起きれば、竜星組関係者が駆け付けてすぐ解決する事もあり、問題化していなかったのだが勇者エクスが現れるとその直後に事件が起きる。


 これは勇者エクスがその主人公補正で悪人を招き寄せているのか、それとも何か別の理由があるのかと調べさせていた。


 そこに竜星組の組員が誤解で勇者エクスに倒されてしまった。


 その後、警備隊に連れていかれたようだが、助けた女性が後から申し出てくれたから釈放された。


 それについてはリューも安堵していたが、その事さえも勇者の美談として新聞に掲載されている事が納得がいかないのであった。


「相手は正義の味方の勇者様だから、きっと悪党を引き付ける能力があるのかもしれないな」


 ランスはリューの疑問を笑い飛ばすのであった。


「……こういった事が、裏社会の人間の弱みだよなぁ」


 リューがリーンにしか聞こえない声で愚痴をこぼす。


 いや、その声は兎人族のラーシュにも聞こえていた。


 最初、何の事かわからなかったが、正義の代表格である勇者と比べれば、裏社会で育った自分達が悪になる事は相対的によくわかるから、何となくそれを想像するとリューの漏らした言葉に理解を示す。


 それに、今はリューが会長を務めるミナトミュラー商会でアルバイトをさせてもらっている。


 給料も多めにもらえていて一人暮らしも助かっているから、心情的にはリューの味方をする気になっていた。


「それにしても、リューはあっちの連れであるライハート伯爵家のレオーナ嬢を決闘で倒してしまったから、世間から見ると敵対している悪者扱いになるかもな」


 ナジンが怖い指摘をした。


 そうなのだ。


 勇者の取り巻きであるレオーナ嬢は一年生の間でも勇者エクスに次いでエミリー嬢達と一緒に人気がある。


 だから、それを倒したリューは残念ながら一年生の女子からは目の敵にされていた。


「それを言わないでよ、ナジン君。一年の女子から冷たい視線を通りで向けられているのは何となく気づいてた」


 リューは、苦笑するとがっくりと肩を落とす素振りを見せた。


「リューは同級生の間ではリズの次に人気あるんだから安心しなさいよ」


 リーンが初耳な情報を口にする。


「そんなに人気あるの僕!?」


「……リュー君は男爵持ちだから普通クラスの女子には狙い目だと思われているよ。でも、本当の二番人気はリーンでリュー君は三番人気」


 シズが、悲しい現実的な情報を口にした。


「確かにお金もあるし、地位もあるから狙い目ではあるな」


 イバルが、笑ってリューの人気を後押しする。


「そんな人気いらないから!ランドマークとミナトミュラーの人気が上がれば僕個人の人気はどうでもいいよ!」


 最早投げやり気味に開き直るリュー。


「リュー君は十分人気があるわ。それはここにいるみんなが、知っている事よ」


 今度は王女リズがリューを励ました。


 その言葉に嘘偽りがないのがわかるから、リューは嬉しくなる。


「リズ、ありがとう。それにみんなも。確かにみんながいれば、一年生の人気なんてどうでもいいよ!」


 リューは笑顔で答えた。


「でも、勇者様に嫌われたら、王都中で敵を作りかねないわね……」


 喜ぶリューの横でリーンがちょっと考え込むように漏らす。


「「「リーン!」」」


 いい形で終わろとしていたタイミングだったから、責めるようにみんなが一斉に反応した。


「あ、ごめんなさい。──そんな未来は、来ないわよ!」


 リーンはリューの背中を軽くポンポンと叩いて否定するのであった。

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