第407話 新参者に任せますが何か?

 リューによってシシドーが魔境の森より呼び戻された。


 シシドーは南部トレドの街で勢力を伸ばしていた組織のボスであり、リーンにかすり傷とはいえ負傷させた鎖付き分銅を自在に操る強者である。


 そのシシドーがリューと対面していた。


「──このシシドー。若様と姐さんに生涯の忠誠を誓う所存。地獄の底までお供します!」


 ランドマーク本領の城館前でシシドーはそう言うと深々と頭を下げる。


「大袈裟だけどそれは嬉しい事を言ってくれるね。そのシシドーに頼みたい事があるんだ」


「何でも申しつけ下さい!このシシドー、若様の敵は皆殺しにしてみせます」


 シシドーは真剣だ。


 どうやら、その忠誠心に微塵も迷いがない様子である。


 ただ物騒な事を言っている。リューを『竜星組』の組長だと知って、自分はその鉄砲玉になるつもりでいるようだ。


「物騒な事言わないでよ。──頼みというのは、まず、君には君の故郷であるトレドの街に一度戻ってもらって、かつての部下や兵隊をかき集めて欲しいんだ。もちろん、戦力になる範囲でね。そして、その兵力を率いてエリザの街で『竜星組』に宣戦布告した『エリザ連合』を潰してもらいたいんだよ。今は、うちの直属の部下達が相手しているけど、うちも人手不足でね。南部は将来的にシシドーに任せたいんだよ」


「俺にですか……?──自分で言うのもなんですが、俺は若様の下で一兵卒として働く方が良いかと思うんですが……。──わかりました。トレドの街にはまだ、俺の部下や傘下だった組織やグループがまだあると思うので、そいつらかき集めます。ですが、その『エリザ連合』っていうのは聞いた事が無いんですが、どういった組織なんですかい?」


 シシドーは南部の裏組織について詳しいのか聞き慣れぬ組織名に首を傾げた。


「今、部下に調べさせているところだけど、多分、エリザの街の裏社会の残党で結成された組織じゃないかと睨んではいるよ。詳しい事はシシドーの方でも調べてくれるかい?」


「エリザの街の裏社会の残党……ですか。それなら、俺は顔が利くので調べてみます。多少時間を貰っていいですか?」


「うん、シシドーに任せるよ」


 リューは頷くとシシドーと共に、南部のエリザの街に『次元回廊』で一瞬で移動して送り込むと、イバルやその部下達と顔合わせをして、そこから数日かかるトレドの街に送り出すのであった。


「いきなり、大役任せて大丈夫かしら?」


 リーンが送り出した直後、リューにそう疑問を投げかけた。


「シシドーの目を信じるよ。僕への忠誠溢れる輝きと、人を見極めるどちらの意味も込めてね」


 リューが笑顔で答える。


「一応、報告と監視代わりに部下を数人付けておいたから大丈夫」


 イバルが、自分の判断でそつなく仕事をこなしていた。


「さすがイバル君、仕事が早い!あとはうちの方でもみんなに調べてもらうところだけど、地の利はあちらにあるからね。あんまり下手な動きをして罠にもハマりたくないから無理はさせないでいいよ。今はこの完成したばかりで目立つ『竜星組』南部事務所に標的を絞らせてそれを返り討ちに出来れば良いかな」


「わかった。部下には無理をさせないように伝えておく。でも、シシドーの奴がどのくらいの指揮能力があるかにもよるよな」


 イバルは、シシドーの未知数の能力に全てを任せて良いものか迷うところであった。


「なんだかんだシシドーは南部裏社会の有名人みたいだし、任せておこう。それにどうなるか楽しみじゃない?」


 リューは南部については時間を掛けて勢力を伸ばせれば良いと考えているようだ。


 そんな気長な台詞にリーンとイバルは目を合わせると首を竦めるのであった。



 シシドーを送り出した後、リューとリーン、スードは南部最大の街であるエリザの街を散策する事にした。


 改めてこの街は魅力的に映る。


 南部の中心地であり、交易の街トレドも近く、元の領主であった侯爵が南部一の派閥であった事も頷けた。


 王家直轄領になったが街の通りは以前と変わらず賑わいを見せている。


「聞いたかい?うちの旦那がお客さんから聞いた話なんだけど……、最近、悪党通りとかで色々ごたごたがあったじゃない?」


 悪党通りとは、どうやら『竜星組』も事務所を建てている通りの通称のようだ。


「あったわね。それ関係の大きな建物が急に出来ててびっくりしたわ。でも、うちらには関係ない話じゃない?」


「私もそう思っていたんだけどね?何でも地元でも悪くて評判の連中が余所者に追い出されたそうなのよ」


「あら、元々評判悪かったから良い事じゃない?あ、でもその余所者はどうなのかしら?」


「それが礼儀正しくて評判良いんだって。それよりも、その追い出された連中がね?どうやら別の街の連中と共闘して余所者を追い出すと息巻いているそうなのよ。旦那がそれを聞いて私達も巻き込まれる可能性があるから気をつけておけって」


「やだ、怖い。王家直轄領になっても、世の中物騒なのは変わらないわね」


 店先で数人の主婦達がそんな興味深い噂話をしていた。


「何気にうちでもまだ仕入れていない情報をその辺の主婦が話してる……。恐るべし主婦の井戸端会議!」


 リューは誰に言うでもなくそう漏らした。


「興味深いわね。他所の街って、どこかしら交易の街トレド?それとも、隣領の街かしら?」


「トレドはシシドーがいないし、そもそもイバル君が部下を使って潰して回ったはずだからあり得ないかなぁ。でも、裏社会の組織でこっちに手を出してくる余裕がある事を考えると隣領とかの勢力かな?」


 リューはリーンの疑問に答えながら頭の中を整理する。


「隣領となると、エラソン辺境伯領が近いですよね」


 スードが嫌な事を言った。


「さすがにエラソン辺境伯は関わっていないだろうけど……、どちらにせよ、返り討ちにしてスッキリさせたいところだね」


 リューは否定するとシシドー一人で大丈夫か、少し迷うのであった。

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