第406話 放課後南部抗争ですが何か?

 王家直轄領エリザの街は、元南部派閥長侯爵家の領都という事で、南部で一番栄えている街だ。


 そこにリューは『竜星組』の南部支部を作るべく、ミナトミュラー家の虎の子の直系の部下達を合計三百人近くも送り込んでいた。


 これを率いていたのは元々イバル・コートナインだったが、学校が始まった事で指揮は部下に任せている。


 そんな部下と街の様子を確認するべく、リューとリーン、護衛のスード、そして、責任者のイバルと共に『次元回廊』を使って一瞬で訪れた。


 その『次元回廊』の出入り口を設置している場所は、エリザの街の裏社会の関係者が多く住んでいる通りに面する広い一角の屋敷で、そこを『竜星組』の組事務所として買い取っているところだ。


 その屋敷の庭に王都から瞬時に訪れたのだが、目の前にあるはずの『竜星組』南部支部の屋敷は無くなっていた。


 いや、無くなっていたというより、全焼して消し炭になっていたという方が正しいだろう。


 丁度、その撤去作業を部下達が行っている最中であった。


 そこにリュー達が現れたのでリュー直属の部下達は作業を中断して駆け寄ってきた。


「若!姐さんにスード、イバルの兄貴までようこそ……、いや、すみません。丁度、屋敷がこんな事になった事から説明しないといけないですね──」


 撤去作業を指示していた部下達のリーダー格は屋敷が燃えた経緯について説明を始めた。


 前夜、なんでも、エリザの街の裏社会の目ぼしい組織を潰し終わった事からみんなを労おうと宴を開いていたらしい。


 もちろん、周囲の警戒はさせていたのだが、この街に敵はいなくなったという安堵から気が緩んで見張りも宴に参加してしまったようだ。


 そこにこの火事だったという。


 朝になって出火原因を調べたところ、魔法による放火だとわかった。


 それも屋敷の裏口周辺と、玄関横の花壇辺りが火元だという。


 部下達は自分達の失態だと、リューに平謝りし続けた。


「それでみんなは無事なのか?」


 リューは、まず、部下達の心配をした。


 屋敷など建て直せばいい事だ。


 それより、部下の方が大事だった。


「へい!何人かの土魔法が得意な奴の機転で安全な場所までトンネルを作ってそこから逃げたのでやけどを負った奴もいますが、全員無事です」


「そっか……。それなら良かった。──負傷者の治療は僕とリーンが中心に行うから一か所に集まって。イバル君は他のみんなの指揮を。──放火した奴に心当たりは?」


「この街には最早逆らうような組織やグループは無いと思っていたんですが……、恨みは買っているでしょうから、今はまだわからないですが、何人か人を出して調べさせています」


 部下が申し訳なさそうにリューに報告した。


 そこへ、調べる為に外に出ていた部下の一人が看板を片手に走って戻って来た。


「犯人がわかったぜ!──って、若!?姐さん達も!?お疲れ様です!」


「挨拶は良いから、報告をお願い」


「へい!──通りの広場にこの立て看板が出されていやした!」


 部下はそう言うと看板をリューに見えるように差し出した。


 そこには、一枚の紙が貼ってあり、


「余所者に天誅!我ら『南部エリザ連合』は、余所者の『竜星組』に宣戦布告する。屋敷の放火はその狼煙だ!怯えろ竦め、今日からお前達にこの街で平穏の時は一生訪れないぞ!」


 と、書いてある。


「『南部エリザ連合』とは?」


 リューが部下に確認する。


「……初めて聞く名です。もしかすると残党による急造の組織かもしれません」


 部下が首を傾げて推測を口にした。


「……リュー、どうやら、俺は学校に通っている暇がないみたいだ。後は任せてくれ」


 イバルが、深刻そうな表情で言う。


「それは、必要ないよ、イバル君。君は学校にちゃんと通ってもらう。その上でこっちにも僕の『次元回廊』で通う事になるから放課後は忙しくなるよ。だから睡眠不足も覚悟して」


 リューはニヤリと笑みを浮かべる。


 そして、ふと何を思ったか、リューはみんなを下がらせると全焼した屋敷に向き直った。


「土魔法『地盤沈下』!」


 ふいにリューが魔法を唱えると不気味な地鳴りと共に地面が揺れる。


 そして、炭の塊になっていた屋敷跡は、地面に飲み込まれていく。


 あっという間に更地になる様を部下達は呆然と見ている。


 そして、


「さすがは若!とんでもない上級魔法を無詠唱で使用しちまうとは!」


「お手数おかけします!」


「若はやっぱり凄い!」


 部下達は口々に自分達の親分を称賛する。


「ついでだから、家も建てておくよ。細かいところはみんなに任せるね」


 そういうと、今度はリーンと二人で鉄筋の大きな建物を合同の土魔法で建て直す。



 周囲の住人はこれに呆然とした。


 地響きが起きて動揺していると、今朝火事で無くなった屋敷の後に大きな丈夫そうな建物が地面から生えるように出来てくるのだ、当然である。



「これで多少の放火では燃えない丈夫な家になったはず。あとは『南部エリザ連合』について調べて報告を。あ、細かい指示はイバル君がするからお願いね」


 リューが、マジック収納から二本の魔力回復ポーションを出して、一本をリーンに渡し、自分も一本を飲みながら部下に命じた。


「了解です!」


 部下達は拠点の補修組と調査する組に分かれるとその場から散るのであった。


「うん。うちの部下はやっぱり優秀」


 リューは満足する。


「でも、どうするのリュー。『南部エリザ連合』なんて、うちを相手にする為だけに作られた組織でしょ?まともに相手していたら大変そうよ?」


 リーンが人手不足を心配して、疑問を口にした。


「ちょっと早いけど、シシドーを呼び戻しておこうかな。それでトレドの街にいるシシドーの兵隊と共にイバル君の下で動いてもらうよ。経験も積めて丁度良さそう。質は落ちる事になるけどね」


 リューは少し考え込むとそう結論を出した。


「そうだな。今、慢性的な人手不足、リューの直属の部下を丸々南部に置きっぱなしには出来ないし、それが今は最善だと思う」


 イバルもそれに賛同すると頷いた。


 ここから当分の間、リュー達の放課後は、南部に通う事になる。

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