第395話 平日のお仕事ですが何か?

 現在、リューは『次元回廊』の出入り口をランドマーク本領の自宅、ランドマークビル自宅、そして、マイスタの街長邸、そして南部エリザの街の四か所に固定している。


 緊急性のある移動が必要な時は、マイスタの街長邸の出入り口を消して、どこからでも移動する事は出来るが、今のところはそういう問題は起きていない。


 そのお陰で学校がある時でもマイスタの街に気軽に顔を出せるのは大きく、ランスキーやマルコ、ノストラ、ルチーナなどの幹部はリューへ連絡をしようと思ったら、街長邸に来るようになっている。


 部下達は以前の平日はランドマークビルに報告に来ていたから、かなり時間が短縮された。


 この日もマイスタの街長邸には、マルコの部下である元執事のシーツ、ミナトミュラー商会の現場責任者のノストラの部下、そして、研究部門責任者マッドサインの部下が報告に訪れていた。


『次元回廊』で訪れたリュー、リーン、スードはすぐに執務室に入るとシーツの竜星組関連の報告から聞く事にした。


「南部地方エリザの街への一時的な増員メンバーが揃いました」


「もう?早いね!」


 リューはマルコの仕事の速さに感心した。


「マルコ殿が『本当に南部は現地の人間に最終的には丸投げするんですか?』との事ですが……」


 マルコの部下シーツは上司の疑問をリューに確認した。


「派遣する竜星組本家の人間はほとんどがマイスタの街の人間だからね。南部への長期出張は大変でしょ?だから最終的には地元の人間に南部の竜星組は任せるつもりだよ」


「その事ですが、マルコ殿曰く『竜星組を名乗らせず、下部組織扱いではどうでしょうか?』と提案しております」


「……下部組織扱いか。マルコの意見だし、検討しておくよ。任せる人物の成長待ちでもあるしね。──派遣するメンバーは庭に待機させておいて、後で送り込むから」


 リューはシーツにそう答えると下がらせ、今度はノストラの部下の報告を聞く。


「王都から地方への酒販売の件ですが、『闇商会』から引き継いだ裏の運送部門を使って北部地方に流しています。ですが、まだ、製造が追いついていないので量が少なく、もう少し量を増やしてもらいたいとの事です」


「王都での需要にまだうちの酒造部門の生産力では追いついていないからなぁ。でも、近い内に他所の大手酒造商会を買収して職人を大幅に補充できるからそれまでは待って。あと、北部に流すお酒の量は当分は多少少ないくらいに抑えておいていいから。それもノストラに伝えておいて」


「例の価値を高めるってやつですか?」


 ノストラの部下はリューの商売のやり方の説明を促すように聞いた。


「うん。今の段階ではあくまで非合法な形でうちのお酒が北部に流れているという事にしておかないとね。そうしておけば、北部の酒造商会からは、表立って文句を言われる事もないだろうし。──うちのお酒の品質が良いのはわかっている事だからね。北部地方の貴族にじんわりとうちのお酒の美味しさが知れ渡り、あちらから欲しいと言わせれば、堂々と進出できるよね。地元酒造商会もそうなったら文句は言えないでしょ?」


 リューは地方の利権絡みで地元酒造商会等に喧嘩を売るつもりはない。


 あくまでもその利権の頂点である貴族達に地元にも出荷して欲しいと言わせればいいのだ。


 領主貴族と地元の酒造商会にはがっちりと利害関係が出来上がっている。


 そこにまともに介入すると、貴族の説得と賄賂、さらには地元酒造商会との間に起きるトラブルなど多額のお金と時間、そして労力が必要になるのはわかり切っている事だ。


 それではリスクが大きいし、時間が掛かってすぐには利益も出ないから、利口ではない。


 地元酒造商会もこちらが露骨に進出しようとしたらすぐに警戒して一致団結するだろう。


 利害関係のある貴族にもすぐに泣きつくはずだ。


 そうならない為に、誰かが非合法なやり方でうちのお酒を仕入れ北部に流しているという形が理想的なのだ。


 これなら地元の酒造商会も警戒しない。


 裏でそういうお酒が出回る事はよくある事だからだ。


 その間に北部地方の裏で出回っている王都の美味いお酒があると知れ渡れば良い。


 これならほとんどお金がかからなくて宣伝ができる。


 そして、ファンを増やし、貴族自身が飲みたいから輸入したいと思わせれば、こちらの勝ち。


 その決断をした貴族には地元酒造商会も不満を持っても文句は言えないし、こっちはお願いされて輸出するのだからそこに文句は言えないだろう。


 こうやってトラブル無く北部に進出すればいい。


 それに北部地方はお酒の消費量も他の地域に比べて多いから、かなりの上客になるはずだ。だから、じっくり確実に進出したいところである。


 それをノストラの部下に説明すると、部下は納得してノストラの元に戻っていくのであった。


 最後に研究部門責任者マッドサインの部下が報告の為に執務室に入って来た。


「若様、うちの上司マッドサインが驚くべき発見をしたから研究所にお越し頂きたいとの事です」


 部下は神妙な面持ちでリューに伝える。


「「驚くべき発見?」」


 リューとリーンは顔を見合わせた。


「何でも例の預かっていた大事なものを分解した結果が出たそうです」


「あ!」


 リューは声を上げた。


 例の物とは、ランドマーク本家が王家より賜った聖剣『国守雷切くにもりのらいきり』の事だろう。


 リューはあわよくば、聖剣の秘密がわかれば、色々な技術が入手できるかもしれないとマッドサインに任せていたのだ。


「わかった。でも、今日はこの後、南部地方に人を送り込まないといけないから、時間的に遅くなるかもしれないと伝えておいて」


「わかりました。そう伝えます」


 マッドサインの部下は頷くと退室するのであった。


「これは楽しみな事が増えたね」


 リューはウキウキしながらリーンにそう言うと、先に南部地方に人を送り込む用件を済ませる為に庭へと移動するのであった。

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